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第22回書き出し祭りの振り返り(第2会場2位「砂の星のアプスー」)




前説

 2024年9月28日をもって終了した第22回書き出し祭り、私の作品はこちらでした。

 2-24 砂の星のアプス― 

 第22回書き出し祭りの第2会場で2位、何となくぞろ目が嬉しい結果でした。中間発表の段階で圧倒的な作品がいることが判明していましたので、ジャンル的に厳しいであろう「SFサスペンスホラー」がどこまで頑張れるか戦々恐々としていましたが、思いのほかに多くの票をいただけて嬉しい限りです。期間中の感想も併せて、心から御礼申し上げます。

 今回は色々と目標というか計算っぽいものがあって臨んだ祭りでしたので、本記事では執筆にあたっての意図を解説します。作品そのものの構想にも触れます。さらに、なぜか最近商業で活動できているので(まだプロですとは胸を張って言えない)、その視点から企画とは・商業的パッケージングとは何かみたいなことを少しだけ考えようと思います。

今回の狙い・目標

事前の見通し

 前回の祭りの終了直後、第22回書出し祭りに参加に際して、以下のようなことをふわっと画策していました。

①マイナージャンルで結果出したいな~~(クソデカボイス)
 過去の書き出し祭りで上位に入れた作品は、時代ものとはいえ異世界恋愛ジャンルの文脈に則っていたり、中華ものだったり、Webtoonでもおなじみの回帰転生ものだったりしたので、ジャンルの力に助けられた部分も大きかったのでは、という疑いが拭えませんでした。
 過去の祭り(コロシアム含む)では、ホラミスでも堂々と上位に輝いた作者さんたちがいらっしゃることですし、ジャンルの不利を越えて読者を惹き付けるのはやっぱり格好良いと思うのです。
 なので、タイトルやあらすじで弾かれるリスクを承知でSFやホラーやサスペンスで臨みたい! という狙いというか功名心というか承認欲求がまず第一にありました。

②作風のイメージ固定化を避けたい
 匿名企画である以上、隠れたいじゃないですか。
 俺は性癖作風を貫くぞ! も素晴らしいことだとは思いますが、作者当てでワイワイするのも祭りの醍醐味のひとつなので、少しは迷ってもらえると楽しいと思いました。直近の祭り参加作品からして、私の得意ジャンルは中華ものかドロドロ目の異世界恋愛ものと思われていそうなので(それも間違いではないんですが)ホラーやSFも好きだよ! とアピールしたい思いもありました。(一応、SFやホラーでの受賞歴もあるんですよ)(あと一回こういうの出しておくと、今後の類似の企画でも迷ってもらえそうだし)

③今回は恋愛ジャンルが魔境になりそう
 参加者一覧を眺めた印象ベースですが、異世界恋愛ジャンルで活動されている作者さんの参加が多い気がしました。なので、異世界恋愛ジャンルの悪役令嬢婚約破棄、冷遇契約結婚あたりのネタは被りやすい・票が割れやすいのではないかという計算もあり、あえてマイナージャンルで挑むことにも成算があるのではないかと思いました。

達成度

 事前の目標と予想を述べたところで、結果検証に入ります。

①SFでも上位に入れたよ!
 早々に投票報告をいただいて喜びつつ、「いや祭りのコア参加者層にたまたま刺さっただけでは……?」と、報告の偏りをずっと疑っていたのですが。結果的には会場2位と望外の結果をいただくことができました。
 自作の好成績が嬉しいというだけでなく、開催直前に「書き出し祭りは異世界恋愛じゃないと勝てない」というような発言を見てモヤモヤを感じていたので「そんなことないですよ?」と言える実例を作れたのも光栄ですね。(拙作に限らず、今回は全体的に上位作品のジャンル作風の幅が広くてとても良いことでした)

②作者当てが割れて楽しかったよ!
 いつもはほぼ一択・指さし状態で当てられてしまうのですが、今回は当社比で割れていてニコニコニヤニヤできました。偶然ですが、作風の似た方が同じ会場にいたのも混乱的には良かったですね……。
 いっぽう、それでも当ててくれた方はすごいと思いますし、とても嬉しくありがたいです。

③ジャンル読み・票読みは難しいですね……
 異世界恋愛ものは確かに多かったし、票が割れた面もあっただろうとは思います。が、結局各会場の上位作品は必ずしも女性向けではなかったので予想通りとも言えないように思います。回によって投票者も入れ替わっていると思われるので次回にも通じる考察かは不明ですが、むしろ男女問わず支持されるもの、動物を含めたキャラの可愛さやポジティブさが人気を集める傾向を感じました。いっぽうで、重め・シリアスめの設定の作品も上位に入っているので、本当に作品次第ですね。

「砂の星のアプスー」について


 ここからは自作解説です。

構想

 最初は強い要素を掛け合わせてヴァンパイア×ディストピアものにしようかと思っていたのですが、今ひとつ纏まらなかったので&「アプスー」のプロットが浮いたのでこちらにしました。
 着想元は、ずっと抱えている「水怖い」「溺死怖い」という不安感です。海とか訳分からなくて怖いし、窒息死は苦しいから怖いです。乾いた陸地にいるのに溺死する現象が起きるのはめちゃくちゃ怖くないですか? という発想です。

 過去作でも「海に潜む何か」のホラーを書いたことがありますし、既存作品だと下記のものが非常に印象深いです。

 「砂の星のアプスー」、タイトル構成としては「生息地」+「その生物の名称」ということで「深海のYrr」と同じ発想でしたね。

 内容としては、

起-死体を転がす&世界観説明
承-捜査方針を示す
転-死体を転がす②
結-上層部の暗部を見せる(ヒキ)

 ……で物語の読み味を提示しつつ、キャラと謎を提示しつつ、ラストに立て続けに「びっくり」要素があって──でバランス良く、かつ読者の興味を惹けるので書き出し祭り向けじゃないかなあと思って書いた次第です。

 いただいた感想では、情報密度と読みやすさが両立されていることをお褒めいただくことが多かったでしょうか。
 コツとしては、世界観の説明を出すに相応しいシチュエーション(本作の場合では異常な死体の捜査&それを渋る上司への抗議と説得)を設定すること、ですね。作者が書きたくて書く説明に、読者は興味を持ってくれないですが、登場人物が具体的にやり取りしている・事件が発生しているうえで、必要な情報を提示していく、というやり方だと呑み込みやすい気がしています。
 物語上の要請に従って描写しよう、とも言い換えることができるでしょうか。読者は、初対面の作品に本気で向き合ってはくれないものと理解しています。何となく読んで面白そうだな、と思ってもらえてやっと腰を据えて読んでもらえるかもしれない、くらいなのでしょう。なので、「あらすじをじっくり読んで内容を把握したうえで読んでくれているはず!」とか、「意味深な発言は深読みして考察してくれるはず!」などとは期待できないと思っています。ですので、毎回、普通に読んで普通に理解できる・キャラクターや設定、展開が頭に入ってくるように書いているつもりです。
 転・結であらすじに書いてある以上の事件を起こしたのは、本庄さんのメソッドに倣いました。タイあらで持たせた期待を満たしたうえで、さらに予期せぬ驚きがあると、読者は先に興味を持ちやすいのではないかと思います。

設定・プロットについて

 後述するように、企画としてボツになった作品なので続きを書く予定は当面ありません。いずれSFの企画が通せるような作家になれたら良いですね……。
 とはいえ見てもらうためにざっくりとしたラストまでのプロットは作ったので&設定も多少は考えているのでその一部を開示してみようと思います。

・「アプスー」は水に関する神話ならどれでも良かったです。「深海のYrr」のように(Yrrは作中で未知の生物に与えられた意味のない造語)、読者が知らない単語のほうが不気味さが出たり興味を持ってもらえるかな、という考えがあったのでタイトル段階では分かってもらえなくてOKでした。
 作中の歴史的には、植民惑星の命名に、ギリシャローマ等の有名どころの神話の名前はすでにあらかた使われていたため、後発で開発された惑星には比較的マイナーなバビロン神話から命名されていた→同じ神話由来で謎生物に命名した、という流れなのでしょう。

・惑星エンキは、レアメタルが眠っている上に水資源もある! と大はしゃぎで開発されました。水資源ではなく「アプスー」だったことが後に判明しましたが、もう引き返せる段階ではなかったのでそっと蓋をしてレアメタルをさっさと掘り切る方針にしました。上層部は「アプスー」の存在を知りつつ、一般には広まらないように情報統制しています。

・「エンキにおいて髪を伸ばすのは贅沢」という描写がありましたが、「信じられない手間暇と金をかけて長髪を維持しているイケメンマフィア」が出てくる布石でした。ひと目で階級差を見せつけられる社会、良いですよね……。

・マフィアたちも「アプスー」の存在に気付いていて色々画策しているようです。構想では、2話でマフィアの襲撃を受け、オフェリアは「貴重な真実を知る者」として拉致されます。

 智子さんのご感想のように、「取り調べが第一関門」ではなかったのです……エンタメのフィクションは常にアクセル踏んでいかないとね!

 さらさらしるなさんのご感想で「ボウエン警視がラスボス」との読み取りもありましたが、襲撃に伴って警視は遅くとも3話までに死にます。物語上のラスボスは、もちろんタイトルロールなのです……。

・オフェリアはアーロンの子を妊娠しています。事後描写はその布石でもありました。「アプスー」がこれまでに接してきたホモサピエンスは圧倒的に男性ばかりでしたが、オフェリアと接触した彼らは異種族の生殖方法をやっと理解するかもしれないし、それによって何か思いつくのかもしれません。

・水の種族が出るお話で、ヒロインの名前がオフェリアなのは当然意味があります。ハムレットのオフェリアよろしく、彼女は正気を失って「水」に飛び込むのですが──でラストに繋げる予定でした。

商業的な面白さの話

 以下、適度にぼやかしつつ&私の解釈を挟みつつなので話半分以下で読んでいただきたいのですが。

 Twitter(現X)ではちらりと言ったのですが、「砂の星のアプスー」は商業的には難しいと言われた企画です。「乾いた星に水死体」では絵的なインパクトが足りないとのこと。商業って厳しい……!

 そもそもの前提として、見ていただいたところのカラーや、ネタ以前にSFは厳しいなどの事情もあるのですが。また、私としてもとりあえず好きなネタを出してみて通ればラッキー、ダメならフィードバック踏まえてまた考えよう、のスタンスではあったのですが。「商業化できるか」「本として出せるか」のハードルは思った以上に大きいし、作品そのものの面白さとは別のところにネックがあったりするようだ、と感じたのが最近の学びです。

 実のところ、上述の「企画が弱い」の件があったため、「アプスー」を書き出し祭りに出しても結果は振るわないのでは、という懸念は持っていました。だからこそ投票報告にもずっと半信半疑だったりしたのですが、「でも私は好きだよ」「ここでヒキにできれば祭り的にウケが良さそう」という気持ちで提出に踏み切っていました。
 でも、蓋を開けてみればタイあら段階で設定が面白そうとのお声もいただいたし、投票的にも上位に食い込むことができました。一企画の中でのことではありますし、祭りの読者はそもそも物語を読むのが好きな方たちではあるのでしょうが、「アプスー」は客観的にも面白いのでしょう。たぶん。でも商業的には厳しいのは納得してしまったので、当面形にすることはありません。

 で、ここからが本題です。

 書籍化できない、受賞できないと歯がゆい思いをしている方も多いと思いますが、それはイコール貴方の作品が面白くない、ということにはならないのではないかと思います。
 文章や構成などクオリティの問題ではなく、商業的なニーズに合致していなかったり、店頭で目立ちそうな帯やキャッチコピーがつけにくい作風だったり、というところに原因があるのかもしれません。「どんな表紙や帯がつけられるか」という話は私も実際にされましたし、編集者のコメントでもしばしば聞くことではないかと思います。

 であれば、商業化の可能性は、あるていどはアイディア段階で決定してしまっている、のかもしれません。実際には、公募で下読みの目に留まればとか、投稿サイトでポイントが取れれば……ということはあるのでしょうが。ともあれ、アイディア段階で有望かそうでないかの差は歴然とありそうな気がします。
 ということは、すでにあるていど書いている作品について、推敲・改稿で商業化の可能性を上げることは、不可能ではないにしても限界があるのかも、ということにもなってきそうです。(需要・流行の変化によって過去作にスポットが当たることはあるでしょうが、それは作品をブラッシュアップしたからではない)
 あくまでも商業化したいなら、という前提にはなりますが、作品を書き始めるに当たっては「どのレーベルから出せるか」「どんな表紙や帯にできそうか」「読者の興味を惹けそうな新規性はあるか」「逆に奇抜過ぎないか」等々を意識する必要も出てくるのでしょう。めちゃくちゃ世知辛いですね。

 また別のところとのお話ですが、「〇〇は避けてください」「××は必須で」「読者は△△を許さない」等々の要件を聞いて「縛りプレイかよ」と笑っていたりもしています。
 個人的には、縛りプレイをクリアしつつ、いかにやりたいことを詰め込んでいくか、に割とやりがいと楽しさを見出しているのですが。個性? そんなものは嫌でも滲み出るものですよ。どうせ私は私に書けるものしか書けません。

 縛りプレイなんて嫌だ、ありのままの自分を認められたい! という方はいるかと思います。私としても、完全に趣味で書いたものが認めてもらえればどんなに良いか、という思いはあります。アイディア勝負・冒頭勝負で不利になる作品にも良作は沢山あるのは知っていますし、それらの良作にスポットが当たる機会があって欲しいとも切に思います。

 が、アイディア勝負で企画の強さが求められる現状がある以上は、書き手としてはスタンスを考えなければならないのではないでしょうか。

 自分の妄想を形にできれば満足なのか。投稿サイトや即売会、SNSなどで仲の良い人たちに向けて書くのか。投稿サイトのポイントを人気や面白さの指標とするのか。やっぱり商業出版したいのか。
 最後の道を選ぶときに、では覚悟すべきこと・意識すべきことが出てくるのかも、が本記事の主旨になります。

 繰り返しますが、面白さの指標は商業化しているか否かだけではないので、受賞や書籍化は面白さの証明や担保として目指すものでもないと思います。
 自分のためだけに書けるストイックさも尊敬すべきものですし、人数の多寡にかかわらず、「誰か」に刺さるように書くのも大変なことです。私は低ポイントで受賞・書籍化させていただきましたが、小説家になろうで何万ポイントも取るような作品・作者は見上げる存在だと思っています。
 「すごさ」の指標が幾つもある中で、「何を目指して書いているのか」を意識することは、楽しく無理なく書き続けられる一助になるのではないかと思います。

次回の祭りについて

  事務局さんから告知されている通り、次回・第23回書き出し祭りの参加者は10/5(土)、10/6(日)の二回に分けて募集される予定です。恒例通りだと土曜日の夜・日曜の昼のはずですね。興味がある方はぜひ!

 私も、次も参加予定です。
 次こそ「商業でも行けるネタ」を出すのかもしれないし、趣味を押し出してどこまで行けるかに挑戦するかもしれないし、そこはぼやかしておきますが。(たぶんなんですが、そのころに何らかの告知に絡められるのではないかという目論見がですね)
 抽選に漏れるかもしれませんが、書き出しコロシアムにもリベンジしたいですね。

 参加される方は、対戦よろしくお願いいたします。

 ※ヘッダー画像はぱくたそ(https://www.pakutaso.com/)よりお借りしました。


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