たとえばこんな読書
私が『闘う文豪とナチス・ドイツ』(池内紀、中公新書)を毎日新聞の書評欄で見つけて、アマゾンで取り寄せたのが2017年だったろうか。
この本は、ドイツのノーベル賞作家トーマス・マンの日記を通して、第二次世界大戦と亡命作家マンの息の詰まるような毎日が描かれる。
著者の池内紀(いけうちおさむ)氏は著名なドイツ文学者で、氏の訳された本は無数にある(ゲーテやカフカなど)。そして、本書を上梓された翌年の夏にその七十八年の生涯を閉じられた。
本書はドキュメンタリーに属する著作で、内容の濃さと読みやすさにおいては比類ない仕上がりで、第二次世界大戦に興味のある者にとって、歴史を概観する手引きとして、私は第一級の文献と推したい。
私がこういったドキュメンタリーの本を読む際に使うのが付箋紙である。
気になったところに付箋を挟むので、本はたちまちライオンのたてがみのようになる。
池内氏は、本書の中でご専門の関係の文献をたびたび引かれる。
私はそれらの文献を取り寄せたりするから本が増えてしまうのだった。
そう、著者と同じ視点に立ちたいからである。
あまりに高額な書物なら諦めるが、古書で廉価に入手できるのなら必ず購入するのだった。
カフカの『城』やリデル・ハートの『第二次世界大戦』などが手に入った。
カフカの『城』はさまざまな人の訳が出ているが、白水社から池内氏の新訳で出版されていたのでそれを選択する。
同時に読んだのが同じ中公新書から出ている『チャーチル イギリス現代史を転換させた一人の政治家(増補版)』(河合秀和著)であった。
もちろんトーマス・マンの著作(『トニオ・クレーゲル』や『ヴェニスに死す』)はすでに私の書庫に存在するので改めて購入することはない。
そういう「寄り道」をしながらの読書なので、遅々としてページが進まないのである。
歴史を背景にした文章は、客観的な捉え方をすべきなので、第二次世界大戦ブックス(サンケイ)の『パリ陥落』が手元にあったのでそれも開く。ちょうど映画『ダンケルク』や『ウィンストン・チャーチル』も封切られた2017年だった。これらも必見である。
あとは世界地図帳や高校時代の世界史年表だ。
私の場合、一冊の本を読むのに、数冊の本が必要なのである。
そして、まだこの本を読み終えていないのである。足掛け三年の読書だ。
もちろんその間に、まったく趣向の違う本も読んでいるのだけれど。
こんな読書をお勧めはしないが、なかなか一人の時間も楽しいものだ。