最近のEdTechの流れに注目!これから伸びる国内の教育領域を考察してみた
コロナですっかりと教育業界が変わってしまった。
これまで教育系スタートアップと聞くと、だいたい「成長スピードが遅い」「結果が見えるまで数年かかる」「業界自体お金があまりない」という悲観的な声を聞いてきた。みんな「教育は大事だね」と声を揃えて言うし、「教育のためになにかしたい」という声も多くあるけれど、教育xスタートアップに関しては、それほど注目は浴びていなかったように思える。
しかし、コロナ禍で学校も休校となり、自宅学習や分散登校などでEdTechを駆使せざるをえない状況になってきた。この頃次々とEdTech事業が資金調達も発表しており、いよいよ追い風が来たように思える。今回は、これまでの日本の教育産業市場と、コロナ以降のトレンドなどについて書きます。
日本の教育市場規模は年々増加。コロナも追い風
日本の教育産業市場は、ここ数年増加傾向にある。矢野経済研究所によると、国内の教育産業市場について、2018年度は2兆6,794億円にのぼり、2019年度は2兆6,968億円と予測されていた。
(2019年11月28日 日経新聞より)
また、eラーニングに関しても顕著な増加傾向が見られていることがわかった。矢野経済研究所が2020年4月27日に発表した国内eラーニング市場に関する調査結果によると、2019年度の国内eラーニング市場規模は、前年度比7.7%増の2,354億円の見込み。さらに2020年度は2,460億円に達すると予測されている。コロナの影響で遠隔授業の需要が高まったこともあり、今後もこの増加傾向は続くことが見込める。
ユーザーは増えている一方、学習コンテンツの価値は下がっている?
なお、上記矢野経済研究所が出したプレスリリース内の下記文面が興味深い。
当年度は、BtoB、BtoCともに新型コロナウイルス感染症の影響によって遠隔教育の需要が高まり、eラーニングのユーザー数を増加させるものとみる。
ただ、BtoB市場では、業績悪化の懸念から企業の人材育成投資費用の抑制が想定されることや、LMS(学習管理システム)、学習コンテンツの価格下落傾向もあって、金額ベースの伸びはユーザー数の伸びに比例しないものと考え、2020年度のBtoB市場規模は、前年度比0.9%増の690億円を予測する。
ユーザー数は増加しているが、学習コンテンツの価格下落などが見られているため、市場規模の増加は単純にユーザー数増加と比例するわけではない。一見当たり前かもしれないが、この「学習コンテンツの価格下落傾向」は、EdTechのマネタイズにおいて結構ネックだったりすると感じる。特に教育の価値は時間をかけて実感するので、価値の見える化が難しく、主観に左右されることも多いため、価格は変動しやすい。
EdTech市場は2025年度には3,210億円に。コロナの影響でさらなる成長も?
さて、これからのEdTech市場はどのように伸びるのか。これは別のソースになるが、野村総合研究所によると、EdTechの市場規模は2022年度で2,888億円、2025年度では3,210億円にのぼると予測している。このうち「コンテンツ(教科学習)」が大半を占めていることがわかる。
(野村総合研究所「ITナビゲーター2020年版」)
なお、こちらの試算は2019年12月に発表されたものであるため、直近のコロナの影響はこの時点ではまだ考慮されていなかったであろう。コロナの影響がどこまで及ぶかまだ不明な部分が多いが、おそらくこれより市場が伸びることが予想できるのではないか。
直近、話題になったスタートアップの資金調達
コロナで資金調達に苦しむスタートアップが増えている中、教育業界ではいくつか大型資金調達の発表が目立った。ここでは直近3ヶ月で注目を浴びた教育系スタートアップの資金調達ニュースを紹介する。
① Manabie: シードラウンドで約5.2億円調達
Manabie CEOの本間氏はオンライン教育Quipperの共同創設者。Manabieは東南アジアにてオンライン授業、オンラインで1対1のコーチング、そしてオフラインでの学習環境という3つのプランを提供する。Manabieは4月に、シードラウンドで約5.2億円の調達を発表した。シードラウンドでこの規模の調達は結構驚きました。
Manabieについて、下記の記事で事業内容がよくまとまっているのでよければご覧ください。
② div: シリーズCラウンドで約18.3億円調達
短期集中プログラミングスクールTECH::CAMPを運営するdivは、5月末に借入を含む総額約18.3億円の資金調達を発表した。20,000名以上の方が受講したプログラミングスクールに加え、未経験からエンジニアへの転職を実現する「テックキャンプエンジニア転職」も順調に伸びている。
これからEdTechが活躍できそうな領域の考察
コロナもあり、教育市場は今、大きく替わろうとしている。これからがEdTechの活躍の見せ所かもしれない。では、どのような領域でEdTechが活躍できそうなのだろうか?これから成長するであろうと感じたテーマを3つピックアップしてみた。
① 小学校から必修となった英語教育、プログラミング教育は人気急上昇中
2020年度より新学習指導要領が順次実施されていく。新学習指導要領に含まれる大きな目玉政策として、小学校から英語とプログラミング教育の必修化がある。この流れを見越して動いてきたスタートアップが、今大きく前進し始めている。先ほどのdivも、その一例ですね。
コエテコ byGMOと船井総合研究所の発表によると、子供向けプログラミング教育市場規模は、2025年には約300億円に拡大するとの試算。これは2020年の2倍超の市場規模への拡大となる。
また、英語教育を筆頭とする語学ビジネスの市場規模も年々伸びている。矢野経済研究所が2019年10月23日に発表した語学ビジネス市場に関する調査結果によると、2018年度における語学ビジネス総市場規模は、事業者売上高ベースで前年度比2.3%増の8,866億円にのぼる。そのうち、0歳~中学生を対象とした「幼児・子ども向け外国語教室」が1,035億円、英語のみで教育・保育・託児を行う幼稚園や保育園、託児所「プリスクール」が395億円、「幼稚園・保育園向け英語講師派遣」が39億円、「幼児向け英会話教材」が356億円と、子ども向け英語教育だけでも約2割の1,825億円を占める。
プログラミングと英語。この二つの市場が、新学習指導要領により新たなユーザー層(子ども)を取り巻くことになる。双方ともさらに市場規模が拡大することが期待できるだろう。
② アクティブラーニング→個別最適化の波が来ている
現在、オンライン環境が整備された学校やアクティブラーニング要素を教育に取り入れている学校から、「個別最適化」が進んでいる。政府の取り組みも急ピッチで加速化しており、特に今は「GIGAスクール構想」が注目を浴びている。GIGAスクール構想とは、下記を目指す政策である。
1人1台端末及び高速大容量の通信ネットワークを一体的に整備するとともに、並行してクラウド活用推進、ICT機器の整備調達体制の構築、利活用優良事例の普及、利活用のPDCAサイクル徹底等を進めることで、多様な子供たちを誰一人取り残すことのない、公正に個別最適化された学びを全国の学校現場で持続的に実現させる。
(令和元年度補正予算(GIGAスクール構想の実現)の概要より)
この動きを一足早く掴んで事業を拡大しているスタートアップがいくつかある。ひとつはCOMPASSだ。今年2月に小学館に買収された、AI型タブレット教材「キュビナ(Qubena)」を提供するEdTechスタートアップです。生徒たちはタブレット型教材を使い、自分の習熟度に合ったペースで数学問題を解いていく。2018年、麹町中学校にQubenaを導入したことが大きな成功事例として話題を呼び、次々と他の学校への導入が決まった。
二つ目はatama plusだ。AIを使って、中高生向けに個別最適化された学びを実現するサービスを展開している。コロナの影響で急激に需要が高まり、最近では九州最大手の学習塾、英進館の全教場への導入が決まったり、駿台予備学校がオンラインで生徒にatama plusを提供したりと、一気に塾を対象に提供を拡大している。
最後の例は、株式会社すららだ。AIを搭載した対話型アニメーション教材「すらら」をオンライン提供しており、コロナ禍に入って以来は多くの学校に展開している。
③ ティーチングの時代からコーチングの時代へ。学習自体から、学ぶ意欲の維持へ
Manabieの事例にも見られるように、オンライン教育が広まるには、オンライン教育を継続するためのモチベーション維持のニーズも増えてくる。学び続ける意思を維持するために、「コーチ」の存在が不可欠となる。従来、対面で教師がこの役割を果たしてきたが、授業がオンラインで行われるようになると、なかなか難しい。オンラインでどのようにコーチングを提供するのかは一つの課題だろう。
また、対面授業が再開していくと同時に、オンラインxオフラインのハイブリッド授業も取り入れる学校も出てくる。オンラインでできる一方的な「ティーチング」と、オフライン(対面)でしかできない生徒一人一人へのきめ細やかな対応「コーチング」など、メリハリをつけなければならない。しかし、このオンラインとオフラインの間の隔たりが大きすぎると、逆に生徒の学びのプロセスに支障が出るかもしれない。オンラインでの学習とオフラインでの体験がシームレスにつながっていることが、生徒にとって理想的かつ効率的であろう。
ここでEdTechの活躍の余地がある。例えば、コーチとしての役割を新たに担う教員のために生徒の学習状況を把握できるサービスや、生徒にとって先生に相談しやすいような機能を備えたサービスが、これからより必要とされるかもしれない。
最後に
こちらTechCrunchの有料版、Extra Crunch に記載されていた記事(まだ日本でExtra Crunch展開されていないため、この記事の全文が読めない)の冒頭に、次のような内容が書かれていた。
Edtech was long defined by stodgy sales cycles, sluggish adoption and splashy pitches to K-12 districts with tight budgets, but the COVID-19 pandemic turned that reputation on its head in short order.
(意訳)「これまでEdTechは、営業にいっても意思決定まで時間がかかる、利用そして普及に至るまで遅い、ユーザー対象の初等中等教育現場は予算がない等、あまり良い印象ではなかった。しかし、今回コロナの影響により、そのイメージはひっくり返された。」
私も前職で、当時はまだあまり知られていなかった EdTech(「教育 x IT」と言い換えていたぐらい)の新規事業をやっていたが、営業で教育現場に足を運んでも「デバイスがない」「予算がない」「使い方の指導がほしい」などと言われ、苦しい思いをしました。教育関係者はみなさんとても真面目で、非常に努力されており、少ないリソースの中精一杯やりくりされている。「試したいが、デバイスも予算もITリテラシーもない。(残業時間が多いが)無くてもどうにかなる。どうにかするしかない」という、大変もどかしい状況をよく目の当たりにしました。
当時は結構浸透させるハードルが高いと感じていたが、今はもはや「EdTech」を聞かない日などないぐらい、一気にホットトピックになってしまった。国による教育改革も、スケジュールが前倒しになったぐらい急ピッチで動き始めている。もしかしたら、これからが本当のEdTech時代なのかもしれない。
非常にワクワクする時代が来ている。今後もEdTechの流れに注目していきたい。
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最後まで読んでくださりありがとうございます!
まだnoteはじめたばかりですが、これからもVCとして日々学んだことを、記事として記録していきます。
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