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太鼓たたいて笛ふいて 観劇(少々ネタバレあり)

 こまつ座の舞台「太鼓たたいて笛ふいて」観劇。

滅びるにはこの日本、あまりにもすばらしすぎる。
「書かなくてはね、もっと書かなくては・・・」
普通の人々の小さな悲しみや喜びを遺した
作家・林芙美子──。彼女が本当に書きたかったのは世の中の真実。


 というのが紹介文でした。

 林芙美子役は大竹しのぶさん。
 その母キク役は高田聖子さん。

 この二人のやりとりがクルクルと入れ替わる人の感情を、上手いと感じさせないほどごく自然に軽妙に巧みに演じる。
 あとで思い返すと本当に巧みだったと思うけれど、本当に上手い人は上手いと感じさせないのだと思う。観ているあいだはただただ面白く、切なく、楽しかった。
 音楽劇なので皆さんそれぞれに歌うのだが、福井晶一さんがやはり抜群の技量で、歌の中心だった。彼が歌うと若干ブレていた歌の調べがパッとまとまり、あるべき場所にパッキリと収まる。下流を求めて彷徨う小さな流れが大河にまとまるようなイメージが湧く。
 考えが浅くズルくて時流に乗りまくるちゃっかりした男の役だが、それなりに情けと憎めないチャームがある
 近藤公園さん、土屋佑壱さん、朴 勝哲さん、皆さんそれぞれ達者だけれど突出した癖がない(あえて出していないのかもしれない)のでチームとしての一体感が感じられた。

 こま子役の天野はなさんは、歌い出しの音どりに少々苦労しているところは見受けられたが、当時の活動家らしい意固地さと、芯の強い高潔な雰囲気を纏う。濃紺のジャンパースカートがよく似合う白百合のごとき佇まいで、革命に咲くジャンヌダルクを思わせる。

 内容はじっくり考えれば重たいのだけれど、脚本の良さと演者の軽やかさで最初から最後まで目が離せない面白さだ。
 
「アカの臭いがする」
 という台詞に底の浅い率直さを、そして
「おかえりなさい」
 というごく当たり前の台詞に、ありたっけの優しさを溢れさせる大竹しのぶの凄み。
 先に逝ってしまった娘の遺骨を一瞬放り投げる仕草を見せてから、しっかりと抱き抱える高田聖子の母としての、どこへも持って行きようのない怒りと滴り落ちる愛。

 淡々としていながらも随所に胸を抉るほどの演技が見られる舞台だった。

 それにしても上演時間がほとんど昼間で、夜間公演は土曜日だけのようだ。
 観ている層の年齢を思わせるのが少し寂しい。学生さんは安いチケットがあるのだけれど時間的には少々もったいない設定だ。
 「アカ」とか「pom-pom girl」とか今や死語の部類なんだろうし、意味が分かってもそのニュアンスは解さない時代になっている。見れば面白いのは保証できるのだけれども。

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