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世界の大手製薬会社が欧州スタートアップへの投資を強化 ─ 今年の主な取引とは

先日、日経新聞に以下の記事が出ていました。

一方で、欧州を見ると、テクノロジースタートアップよりも、バイオテクノロジーの堅調さが見て取れます。

日本ではなかなか話題になりにくい内容ですが、足元の状況ということで、参考になれば幸いです。


世界で最も価値のある製薬会社の多くが、2024年に欧州のスタートアップへの取引を増やしている。2024年、時価総額で世界のトップ10に入る製薬会社のうち6社が、2023年よりも多くの取引を成立させていることが、各社提供のデータ、Sifted(シフテッド)のデータ、およびDealroom(ディールルーム)の比較データから明らかになった。
また、7社目の企業はSiftedに対し「2024年および2025年の取引数は2023年を上回ると予想している」と語っている。
この中には、ドイツのMerck(メルク)、スイスのNovartis(ノバルティス)、英国のAstraZeneca(アストラゼネカ)、米国のJohnson & Johnson(ジョンソン・エンド・ジョンソン)、Amgen(アムジェン)、AbbVie(アッヴィ)、およびPfizer(ファイザー)のベンチャー部門が含まれている。
取引の大半はバイオテクノロジー分野に集中している。また、製薬業界の関心の高まりには、欧州のバイオテクノロジー分野がこの数年間、堅調に推移している背景がある。
Dealroomによると、2021年から2023年の間に、欧州全体のテック業界の資金調達はほぼ半減したのに対し、バイオテクノロジー分野の資金調達は3分の1の減少にとどまった。2024年の資金調達額は、昨年と同等か、それを若干上回るペースで進んでいる。

投資の増加とその背景

これらのポジティブな市場シグナルは連鎖的な影響を及ぼしていると話すのは、Merekのベンチャー部門であるM Ventures(エムベンチャーズ)のマネージングディレクター、Hakan Goker(ハカン・ゴカー)である。
「欧州において、初期から中期段階の臨床試験を進める企業に成長資本が不足しているという長年の課題がありましたが、最近ではポジティブな変化が見られます。欧州の複数のベンチャーキャピタルが成長段階向けのより大きなファンドを立ち上げているのです」
M Venturesは今後、欧州での後期段階の取引をさらに増やす予定だという。
また、一部のVCは、製薬会社が新たな収益源を模索して特許切れ問題に備えていることから、バイオテク分野の投資を増やしているとも述べている。この特許切れ問題によって、いくつかの収益性の高い薬の特許が失効する見通しだ。
Earlybird(アーリーバード)のプリンシパル、Christoph Massner(クリストフ・マスナー)は、同ファンドが今年2月に1億7300万ユーロのヘルステックファンドを発表した際にこう述べた。
「これは前例のない機会です。製薬会社は今、買収を進めなければならないことを理解しています」
さらに、10月初めに新しいファンドで1億4,000万ユーロを調達したKurma Partners(クルマパートナーズ)のマネージングディレクター、レミ・ドローラー(Rémi Droller)は次のようにコメントしている。
「大規模な買収(およびリターン)が、バイオテク分野にLP(リミテッドパートナー)を引きつけています。買収は今後もこの分野への関心を高めるでしょう」

共同投資している企業

Siftedの調査によると、2024年に10大製薬会社から支援を受けた40のスタートアップのうち、製薬会社が共同投資を行ったのはわずか6件だった。
最も活発な共同投資家はM Venturesで、Novo Holdings(ノボホールディングス)、Johnson & Johnson Innovation、AbbVie Ventures、Pfizer Ventures、Eli Lilly(イーライリリー)と4件の共同投資を行った。
複数回共同投資を行ったのはNovo HoldingsとJohnson & Johnson Innovationの2社で、スイスのアルツハイマー治療薬開発スタートアップAsceneuron(アセニューロン)のシリーズC(1億ドル、7月)およびスウェーデンのがん治療薬開発スタートアップAsgard Therapeutics(アスガード・セラピューティクス)のシリーズA(3000万ユーロ、3月)に関与している。

2024年の欧州における製薬会社の主な取引

以下はSiftedおよびDealroomのデータ(2024年10月8日時点)による、各企業の詳細である。
Novo Holdings — デンマーク・コペンハーゲン
2024年の取引件数(Siftedデータ):11
2023年の取引件数(Dealroomデータ):13
2024年の平均取引額(Siftedデータ):3500万ポンド
2024年の主な取引:
・    スイスのアルツハイマー治療薬開発スタートアップAsceneuronのシリーズC(1億ドル、7月、主導)
・    英国のがん治療スタートアップMyricx Bio(ミリクスバイオ)のシリーズA(9000万ポンド、7月、共同)
・    スウェーデンの創薬スタートアップAsgard TherapeuticsのシリーズA(3000万ユーロ、3月)
Novo Holdingsは、年間10〜20億ドルをヘルステックスタートアップの投資と構築に費やしており、デンマークでの量子スタートアップエコシステム構築にも1億8800万ユーロを充てている。
Novo Holdingsは、Novo Nordisk(ノボノルディスク)の親会社であり、同社は体重減少薬であるOzempic(オゼンピック)などのリリースを受けて企業価値が急上昇している。Novo Holdingsは製薬部門から独立して投資決定を行っているが、Novo Nordiskの主要株主であり、議決権の77%を保有している。
Novo Holdingsでは、OzempicやWegovy(ウェゴビー)の有効成分であるセマグルチドに関する特許が、中国では2026年、ヨーロッパでは2031年、アメリカでは2032年に失効となる。同社はSiftedへの情報提供に応じなかった。

M Ventures — ドイツ・ダルムシュタット
2024年の取引件数(同社提供):12
2023年の取引件数(同社提供):15
2024年の平均取引額(Siftedデータ):3600万ポンド
2024年の主な取引:
・    英国の創薬バイオテクLabGenius(ラボジーニアス)のシリーズB(3500万ポンド、5月、主導)
・    英国のがん治療スタートアップEnara Bio(エナラバイオ)のシリーズB(3250万ドル、10月、共同)
・    スイスのアルツハイマー治療薬開発スタートアップAsceneuronのシリーズC(1億ドル、7月)
MerckのCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)であるM Venturesは、同社の創業から341年後の2009年に設立されており、資本の大部分をヘルスケアおよびバイオテクノロジー分野に投資している。
M VenturesはSiftedに対し、「戦略的利益」と一致するスタートアップに投資していると述べている。これには、医薬品開発企業、製薬向けプラットフォームツール、コンピューティングの未来に関する技術などが含まれる。
同社は後期段階の投資にも注目を強めており、過去18か月で5000万ユーロ以上のラウンドに3回出資したと発表している。
また、2023年に約250億ドルの売上をもたらしたMerckのがん治療薬Keytruda(キイトルーダ)の特許は2028年に失効予定である。

Johnson & Johnson Innovation (JJDC) — 米国ケンブリッジ
2024年の取引数(同社提供):5件の新規取引
2023年の取引数(同社提供):2件の新規取引
2024年の平均取引額(Siftedデータ):3600万ポンド
2024年の主な取引:
・    オランダのがん治療企業Flindr Therapeutics(フリンデルセラピューティクス)のシリーズA(2000万ユーロ、4月)
・    スイスの精密医療発見スタートアップBright Peak Therapeutics(ブライトピークセラピューティクス)のシリーズC(2000万ユーロ、6月、主導)
・    スウェーデンのがん治療スタートアップAsgard TherapeuticsのシリーズA(3000万ユーロ、3月、共同)
JJDCは、親会社であるJohnson & Johnsonのバランスシートから直接資金を提供しており、シード段階から後期ラウンドまで幅広く投資している。
免疫学、腫瘍学、神経科学の分野で新薬を開発するスタートアップや、手術、整形外科、視力関連のメドテック企業を支援している。
同社のベンチャーキャピタル投資は、EMEA(欧州・中東・アフリカ)地域を含む世界規模で行われており、JJDCの社長であるChris Picariello(クリス・ピカリエロ)が指揮を執っている。
Johnson & JohnsonのStelara(ステラーラ)の特許は昨年失効しており、この薬は尋常性乾癬、乾癬性関節炎、クローン病、潰瘍性大腸炎の治療に承認されている。ステラーラは2023年に同社に109億ドルの売上をもたらした。
JJDCは、Siftedに対し取引数に関する情報提供を行わず、新規取引数のみを提供した。

Novartis Venture Fund— スイス・バーゼル
2024年の取引数(Siftedデータ):5件
2023年の取引数(Dealroomデータ):2件
2024年の平均取引額(Siftedデータ):3700万ポンド
2024年の主な取引:
・    ドイツのがん治療スタートアップCatalym(カタリム)のシリーズD(1億5000万ドル、7月)
・    英国の神経変性疾患治療スタートアップLoQus23 Therapeutics(ロクス23セラピューティクス)のシリーズA(3500万ポンド、10月)
・    英国の創薬スタートアップEnterprise Therapeutics(エンタープライズ・セラピューティクス)のシリーズB(2600万ドル、1月)
Novartis Venture Fundは500万~1000万ドル規模の投資を行い、主にシード段階およびシリーズAの取引に注力している。同社はSiftedに対し、7億5000万ドル以上の確保資本を管理し、ヨーロッパおよび北米に40以上のポートフォリオ企業を持つと述べたが、取引数に関する情報提供には応じなかった。
Novartisは現在、2022年に2番目に売上の多かった心不全治療薬Entresto(エントレスト)の独占期間を延長するために複数の特許を争っているが、2025年にはジェネリック薬の市場参入が予想されている。

Pfizer Ventures — 米国ニューヨーク
2024年の取引数(Siftedデータ):5件
2023年の取引数(Dealroomデータ):4件
2024年の平均取引額:2500万ポンド
2024年の主な取引:
・    英国のCurve Therapeutics(カーブ・セラピューティクス)のシリーズA(4050万ポンド、2月、主導)
・    英国のGrey Wolf Therapeutics(グレイ・ウルフ・セラピューティクス)のシリーズB延長(4600万ユーロ、5月)
・    英国のがん治療スタートアップEnara BioのシリーズB投資(3250万ドル、10月、共同)
Pfizer Venturesは9億ドルの投資資本を確保しており、すべてのステージの企業を支援している。同社はSiftedに対し、全投資の約3分の1がヨーロッパに向けられていると述べた。
Pfizerは主に、自社の主要治療分野(炎症と免疫学、内科、腫瘍学、感染症、ワクチン)に取り組むスタートアップを支援している。また、プラットフォーム技術、診断技術、薬物送達、製薬サービスの分野で活動する企業への投資も検討している。
同社の製品のうち4つが、2028年までに特許失効を迎える予定である。その中には、2023年の売上全体の20%を占めた抗凝固薬Eliquis(エリキュース)や乳がん治療薬Ibrance(アイブランス)が含まれている。
PfizerはSiftedに対し、取引数に関する情報提供を行わなかった。

Eli Lilly — 米国インディアナポリス
2024年の取引数(Siftedデータ):3件
2023年の取引数(Dealroomデータ):3件
2024年の平均取引額:3800万ポンド
2024年の主な取引:
・    英国のがん治療スタートアップMyricx Bio(マイリックスバイオ)のシリーズA(9000万ポンド、7月)
・    ベルギーのAugustine Therapeutics(オーガスティンセラピューティクス)のシリーズA(1700万ユーロ、6月)
・    英国のNanoSyrinx(ナノスリンクス)の資金調達(1000万ポンド、9月)
Eli LillyはSiftedへの情報提供に応じなかった。
体重減少薬Mounjaro(マウンジャロ)およびウィゴビーの今後の売上が、特許切れによって2030年までに失う可能性のある31%の収益を補填することが期待されている。

AstraZeneca — 英国ロンドン
2024年の取引数(Siftedデータ):3件
2023年の取引数(Dealroomデータ):0件
2024年の平均取引額(Siftedデータ):5700万ポンド
2024年の主な取引:
・    スイスの長寿命研究スタートアップSixPeaks Bio(シックスピークス・バイオ)の転換社債ラウンド(8000万ユーロ、5月)
・    英国のデジタルヘルス企業Huma(ヒューマ)のシリーズD(8000万ドル、7月)
・    スウェーデンのバイオテクノロジースタートアップSmartCella(スマートセラ)の資金調達(5000万ユーロ、7月)
AstraZenecaはSiftedへの情報提供に応じなかった。
2023年に58億ドルの収益を上げた糖尿病治療薬Farxiga(ファーキシガ)の特許が2025年に失効予定である。

Roche Venture Fund(ロシュ・ベンチャー・ファンド) — スイス・バーゼル
2024年の取引数(Siftedデータ):2件
2023年の取引数(Dealroomデータ):2件
2024年の平均取引額(Siftedデータ):1200万ポンド
2024年の主な取引:
・    英国の創薬スタートアップMission Therapeutics(ミッション・セラピューティクス)の資金調達(1200万ポンド、3月、共同)
・    スイスの免疫学スタートアップGlycoEra(グリコエラ)の非公開ラウンド(1月)
RocheはSiftedへの情報提供に応じなかった。
Rocheのベストセラー薬で、多発性硬化症の治療薬のOcrevus(オクレバス)の特許は、多くのヨーロッパ諸国で2028年、米国では2029年に失効する予定である。

AbbVie Ventures — 米国シカゴ
2024年の取引数(Siftedデータ):1件
2023年の取引数(Dealroomデータ):0件
2024年の平均取引額(Siftedデータ):1700万ポンド
2024年の主な取引:
・    ドイツのがん治療スタートアップDisco Pharmaceuticals(ディスコ・ファーマシューティカルズ)のシードラウンド(2000万ユーロ、1月)
AbbVieはSiftedに対し、2024年にヨーロッパのスタートアップへのシードおよびシリーズA段階で「複数」のベンチャーキャピタルラウンドに参加したと語ったが、具体的な数値は明言しなかった。同社は、免疫学、腫瘍学、神経科学、眼科、審美医療およびプラットフォーム技術の分野で、毎年5000万ドル以上を6~8件の新規投資に展開する計画を持っていると述べた。
AbbVieの抗炎症薬Humira(ヒュミラ)の特許は昨年失効しているが、この薬は2022年に210億ドルの収益を上げた。

Amgen Ventures — 米国サウザンドオークス
2024年の取引数(Siftedデータ):1件
2023年の取引数(Dealroomデータ):0件
2024年の平均取引額(Siftedデータ):3億ドル
2024年の主な取引:
・    英国の量子コンピューティング企業Quantinuum(クオンティニュアム)の資金調達(3億ドル、1月)
Amgen VenturesはSiftedへの情報提供に応じなかった。同社は、2030年までに収益の67%が特許失効によるリスクにさらされる可能性があり、その中にはがん治療薬2種類を含む主力製品4種類が含まれる。

Source Link ↓
https://sifted.eu/articles/big-pharma-european-startup-funding




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