
#26 使わなくなったもの
今週は、今更ですが先日の日本出張の経費計算が終わり、立替精算が振り込まれたので、つい気が大きくなり平素と比べて豪華な食事をした週でした。
豪華と言っても、昼食のおかずを一品多めにしたり、夕食に中華料理を食べに行く程度のたかが知れたものであり、また、そのお金に関しても事前に自分で支払った金額以上であるわけもないのですが、なんとなく得した気分になった週でありました。
それに加え、出張時の食費や雑費として両替をした日本円が思いのほか使うことがなく済み、手元に想定以上の金額が残ったことも理由のひとつかもしれません。
さて、私は当地、ベトナムはホーチミン市で働いているゆえ、基本的に給料は当地で支給され、それは当地の銀行に振り込まれることになります。
ですので、日本への出張の際には、銀行より必要と思われる金額を引き出し、日本の両替所で日本円に両替をして使用することになります。もちろん当地で両替をすることも可能ですが、レートやその他の懸念、単に面倒なだけなど、さまざまな理由により日本到着後に両替をすることが多い現状です。
なお、ここ最近は円安が続いており、以前ではあり得ないような金額の日本円に両替をすることができ、大変得をした気分になっていたこともお伝えしておきます。

さて、そのように日本へ一時帰国する際は両替によって日本円を手にしているのですが、先日もいつもと同様に両替をしようとしたところ、以前とは異なり大変面倒な手続きが必要になっておりました。
その両替所だけの変更なのか、はたまた法律が改正されたのかはわかりませんが、まずは外貨を持っていることの理由の証明を求められました。
つまりこれは外国に住んでいることを証明できればいいわけで、これはベトナムの在留カードがある上に、こんなこともあろうかと、毎回出入国の際には必ずパスポートにスタンプを押してもらっているので、問題なく証明できます。
そして次に、両替の申請書に記載したベトナムはホーチミン市の住所に居住していることを証明できる書類などの提出を求められます。
これも当地の免許証を提出すればいいだけなので問題ないと思ったのですが、私、今年の3月に引っ越しをしており、免許証の記載事項変更手続きをすっかり失念しておりました。
まさか一度記入してしまった現住所を旧住所へ書き換えることを認めてくれるとは思えず、とはいえダメ元で聞いてみるのですが、案の定係の方は困った顔をしてそれを拒否されます。
しかたなく現住所に居住していることを証明できる書類などがないかと頭を悩ませることになるのですが、ここにきて常日頃何が起きるかわからず、それに対処できるだけのものを常に用意しておくというベトナム生活における習慣が、ここで役に立つことになりました。考えてみれば何のことはない、アパートの契約書がそれを証明する最たるものであり、何かあった際のために、私はその契約書をPDFファイルにしてクラウドサービスに保存しておりました。
先のパスポートのスタンプの件も同様ですが、現在は日本の空港においては出入国のスタンプは不要です。しかし、これはあくまで日本に居住している場合においてのみの話しであり、ことベトナムにおいては不意に一年分の出入国記録としてパスポートの全ページのコピーの提出を求められることなどが発生しかねません。ですので、私は公私にわたり履行中の契約書や有効期間内の許可証などにとどまらず、過去の全ての契約書や許可証、以前使用していたパスポートの全ページに至るまで、全てクラウドサービスに保存しており、いつでも取り出せるようにしております。
そして、そのPDFを係の方が指定されたメールアドレスに送信し、無事に両替ができたわけですが、おそらく使わないであろうと思っていたものが活用でき、何とも自分の用意周到さに誇らしさまで感じた次第でございます。
それにしても、おそらくはマネーロンダリング防止などを目的とした手続きだとは思うのですが、旅行で日本に滞在している外国の方などは全員が住所を証明できる書類などを持っていることはないと思われ、そういった場合はどのようにして両替をすることになるのだろうと悩んでしまいました。
また、私が提出した契約書はすべてベトナム語で記されているため、これが本当にアパートの契約書なのか否か、どのように確認したのかについても思案を巡らせることになりました。
さて、悩んでしまったのは私のみならず、係の方も同様で、両替の申請書に氏名や住所を記入する際、私は自前のボールペンで記入したのですが、これが青色のボールペンでした。
記入された申請書を受け取られた係の方は、その青色で記入された書類に怪訝な表情を浮かべます。うろ覚えですが、公的書類の記入において、黒色以外の色のボールペンの使用が禁止されているわけではないとは思いますが、特別な事情がない限り、一般的に日本で記入の際に使用されるボールペンの色は黒です。おそらく、係の方は青色で記載された書類に問題がないかについて悩まれたのではないかと思います。
ベトナムでは公的な書類に記入する際は青色のインクを使用するという規則がございます。これは公的な書類の文字は黒色で作成され、その書類に署名などをする際に青色のインクを使用すればそれと区別しやすいこと、また青色であればコピーと直筆の判別もしやすい、といった理由があるようです。
そのような理由から、当地においては子供たちが学校でノートをとる際にも青色のボールペンが利用されているそうで、また、飲食店などで店員の方が注文をメモする際においても同様で、黒色のインクが使われることはほとんどないのではないでしょうか。
そのような理由から私もすっかり黒色のボールペンを持ち歩き、使う習慣がすっかりなくなってしまいました。
当地で生活をするようになってから使わなくなってしまったものは黒色のボールペンだけではなく、靴も履かなくなりました。これは以前の note にも記したのですが、雨期において靴を履いていたら、たちまちずぶ濡れになり、乾くまで不快な思いをするゆえになります。そして、雨と言えば傘も使わなくなりました。
当地での主な移動手段はバイクとなり、これは自分で運転する際、バイクタクシーを利用する際も同様ですが、バイクに乗っているときに傘をさすことはできず、雨合羽を利用するのが一般的です。また、雨の中を歩く必要が生じた際においても、傘をさすより雨合羽を羽織り、サンダルで出かける方が楽だったりします。
最近では傘を利用する方も増えてきているように感じますが、私は上記の理由により傘は使わず、ゆえに所有もしていない状況となっております。

雨季同様に、日本と異なる環境により使わなくなったものとしては財布がございます。
当地の通貨であるベトナムドンはすべて紙幣となり、硬貨はございません。そして、こちらも以前に note に記しましたが私は当地でクレジットカードを使用することはほとんどございません。ですので、まとまった金額を持ち運ぶ際、クレジットカードが必要な状況でない限り、マネークリップに挟んだ紙幣のみをポケットに入れ、財布を持ち歩くことは稀となっております。
その他、使わなくなったものとしては、調理の際にハサミを使用し、包丁を使わなくなった、などもございますが、何より他人に対して気を遣わなくなってしまったのではないかと思っております。
どのような点において気を遣わなくなったのかと申しますと、人に意見を述べる際などにおいて、日本に住んでいたころは婉曲的な表現を用いていたものですが、当地においてそのような表現をしても理解されることが少ないため、直截的な表現を用いるようになったり、そして特に顕著なのが飲食店における行動になります。
例えば、込み合っている飲食店において、相席により席を確保せざるを得ない場合など、日本に住んでいたころであれば、先に着席されている方に断りを入れてから座っていたものですが、当地に来てからは何も言わずに空いていれば座るようになりました。
もちろん、当地で生活を始めたばかりのころは、このような状況であれば断りを入れていたのですが、相手は『なぜそのような断りを入れるのか?開いているのだから座ればいいだろう』といった反応であり、また逆の立場においてもそのような断りを入れられたことがございません。
日本においては、着席したテーブルはその人のパーソナルスペース、不可侵領域のように考えられているように思いますが、当地においては一つのテーブルを共有して利用することは当たり前のようであります。

そして、こちらは人によっては横柄と感じられる方もいらっしゃると思いますが、私は飲食店での注文の際、席に着いたまま大声で注文の品を店員の方に告げております。
こちらも日本に住んでいたころは当然そのようなふるまいをすることはなく、まずは「すみませーん」と店員の方に声をかけ、自席に注文を取りに来た際に品名を告げるといった当たり前の流れで注文をしておりました。
しかし、当地においては「すみませーん」と、遠くにいる店員の方に声をかけても、自席にわざわざ注文を取りに来ることは少なく、その場で「何を食べる?」となります。これは少し考えれば当たり前のことで、わざわざ席まで移動をする手間をかける必要はなく、その場で注文を取ったほうが効率的に他ならないわけです。
ですので、私は飲食店やカフェにおいては混んでいても待つことはなく、空いている席に相席であろうとためらわずに座り、注文の品名のみを大声で告げております。
このように気を遣うことが少なくはなりましたが、全くなくなってしまったというわけではなく、私も日本人であり、いままで培った道徳心に基づき、それなりに気を遣うことはもちろんございます。
例えば、拙宅には二匹の犬がおり、散歩に出かけた際にそれらが粗相をするのは当たり前であり、その際に私はそれを日本から持ち帰った犬用のエチケット袋に入れて持ち帰るわけですが、周りの方々から「なぜそんなものを持ち帰るのか?何に利用するのか?」など訝しがられ、尋ねられる程度には気を遣って生活をしております。
