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#16 君エムオーイと言う勿れ
たしか2022年の終わり頃であったと思いますが、ChatGPTが公開されて以降AIが世に普及し、いまでは多くの方が一度はそれに触れ、またなかには、日々の生活や趣味、そして仕事に活用されていらっしゃる方もいらっしゃるのではないかと思います。かくいう私も仕事柄それに触れることが多く、ほぼ毎日のように利用しているといっても過言ではない状況となっております。
たしかにこれは大変便利であり、仕事以外においても情報の検索や言語翻訳などに日々利用しておりましたが、あることをきっかけに仕事以外での利用がほぼなくなりました。
私が英語をこの上なく苦手にしていることは、note上で何度かお伝えしておりますが、なぜか数人ではありますが外国の友人がいたりします。韓国、英国、米国と出身地は異なりますが、いずれも日本在住の方であり、長い方で20年以上、短い方でも10年以上の交誼を結んでおります。
韓国の友人は大変流暢な日本語を話されるので、その方との会話において日本語以外の言語を使ったことはございませんが、英国と米国の友人に関してはほぼ日本語を解さず、いずれの方との会話も英語を用いることになります。お二人とも男性なのですが、いずれも日本人の奥方もいらっしゃる上に、英国の友人などは英語教師をしているのですから多少の日本語を話してほしいものですが、単語程度の日本語以外を耳にしたことはございません。そのようなわけですので、私がそのお二人と話す際は語彙力が欠如した英語を用いるほかないのですが、それでも数十年も友人関係を続けられていることには、我ながら驚嘆すべきことではないかと考えております。
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さて、そのお三方とは当地、ホーチミン市に居住するようになってからもチャットツールなどで連絡を取り合っているわけですが、英国と米国の友人に対しては依然として下手くそな英語でのやり取りとなっておりました。しかし、最近ではAIによる翻訳が大変便利かつ有用であるがゆえ、これを活用しない手はないと、さっそく導入いたしました。
確かに使ってみると相手とのやり取りが円滑であり、以前のようにこちらの文章に対して相手が理解できない、または違った回答が返ってくるといったことは一切ございません。当然、意思疎通が楽になれば話しも盛り上がるわけですが、相手も急に私の英語が流暢になったことを不思議に感じたのか、「AI を使っている?」と聞いてきました。
特にAI を使っていたことを隠す必要もないので、そのままを告げると「途中から機械と話しているのかと思ったよ。いつも通りの英語で問題ないよ」との返答がありました。たしかに最初のうちの会話は自ら下手くそな英語を入力していましたが、途中からはAI 翻訳を利用していましたので、気づいて当然だとは思いますが、その翻訳が機械のようだと感じたことは驚きでした。
この件で相手の方は特に気分を害されたわけでもないと思いますが、あるいは下手な英語での会話が私との関係の一部であると考えているかもしれない相手に対して申し訳ないことをしたなと反省し、以降のチャットツールでの会話の際において、AI 翻訳を利用することはなくなりました。
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さて、意思の疎通が難しいのは何も英語に限ったことではなく、当地、ホーチミン市での生活も同様であります。
日常生活、仕事の場において、日本語でのコミュニケーションの場というと、時折催される友人たちとの会食、日本とのWeb会議アプリケーションを用いた会議ぐらいしかございません。もちろん職場には通訳者がいるので日本語も通じますが多少の不便さは感じますし、街に出れば日本食が多く集まる特定の地域を除けば、日本語が通じることはほぼございません。
これは日本語に限らず英語も同様で、観光地やホーチミン市の中心部であればそこそこ通じると思いますが、ちょっと中心地を外れれば途端に理解してもらえなくなります。
余談ですが、最近はあまり耳にしませんが、ベトナムで働いて英語の能力を伸ばすといった目論みは、英語が必須である職種、もしくは英語能力の高い人材のみを採用している職場で働き、英語圏の方が多い地域に生活圏を構え、英語圏の方々のコミュニティに参加して生活をするといった、よほどの環境でない限り難しいのではないかと思っています。
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話しは戻りまして、では、ベトナム語で話せばいいのではないかというと、一概にはそうとはいえず、物を買うとか、何かを尋ねる程度のベトナム語でもなかなか伝わらず、日々苦労をしているのであります。もちろん私の語学能力が十分でないことが第一の理由ではあるのですが、それ以前にベトナム語での会話における障壁があるのではないかと考えております。
ともうしますのも、これは偏見などではなく、私の経験上間違いないと考えていることなのですが、ベトナムにおいては外国人が話すベトナム語を理解しようと身構えて会話をしてくれる方が多くはありません。
日本人であれば外国の方が話すカタコトの日本語をなんとか理解しようと努力し、足りない情報は想像で補おうとしますし、英語圏の方においてもそれは同様だと感じるのですが、当地においてはそういった気風があまり感じられないのです。
なぜこのようなことが起きるかを考えてみるに、まずはベトナム語の発音の難しさから、そもそも目の前の外国人が発する言語がベトナム語だと認識されていないという事例があると考えられます。
人によってはもっとあると主張される方もいらっしゃいますが、一般的にベトナム語には6つの声調があり、声調のない日本語を母国語にしている我々には馴染みのない話し方が要求され、また最後の子音を発音しない単語が多いゆえに、英語圏の方にとっても発音が難しいのではないかと思っております。
ですので、こちらが話す発音の悪い言葉をベトナム語と認識してもらえず、この外国人が話しているのは自国語なのか、それとも英語なのかと勘違いされているのではないかと思われます。
余談ですが、それとは逆に、私はベトナムの方がFacebookのことを「フェブッ」、Skypeのことを「スカイピー」、YouTubeを「ユーチュービー」と呼ぶのをはじめて耳にした時はなんのことか理解できませんでした。
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そして次に、外国人がベトナム語を話すはずがない、との思い込みがあるのではないかと考えています。
これは特に高齢の男性に多くみられる事象で、こちらがいくら頑張ってベトナム語で話しをしても、外国語で話しかけられていると思っているらしく、全く理解する素振りも見せず、聞こえないふりや、何を言っているかわからないからあっちへ行けとの身振りをします。
こうなると、人間ができていない私としてはカチンときてしまうわけで、必要以上にそのジジイ…もとい、高齢の男性に大きな声で何度も話しかけることになります。すると周りでその声を聞きつけた方が寄ってきて「何があったんだ?」となります。その方にベトナム語で要件を告げると、その方が同じ内容をその高齢の男性に話してくれ、ようやくこちらの要件が伝わることになります。中継ぎをしてくれた方には伝わっているので、大きな間違いはないベトナム語だと思うのですが、聞く気が無いようであれば、伝わるわけはございません。
この事例については補足をさせていただくと、外国人がベトナム語を話すはずがないという思い込みの場合もありますが、単に外国人が嫌いな事例もあると思っており、この場合においては取り付く島もございません。
さて、それではこのような場面でどうするかともうしますと、後者についてはなかなか難しいのですが、前者の事例であれば、身振り手振りを加え何度も話しているうちに、ようやくベトナム語を話していると理解してくれます。そうなればあとは何とかなるもので、終いには「ベトナム語を勉強しているの?」「何年ベトナムに住んでいるの?」などの質問を受け、またベトナム語を話す外国人にわずかながらも好意を抱いてくれているように感じます。
これはわれわれ日本人も同様に、外国人が自国において自国語でコミュニケーションをとろうとしてくれる行為は、たとえそれがおぼつかないものであっても嬉しいものであり、なんとか相手の意思を読み取ろうと努力するものではないかと思います。
ですので、私は日常の会話においては、たとえ下手でも極力ベトナム語で会話をしようと心がけております。では、職場においてもそうであるかというと、こちらについてはまた別で、この理由については述べませんが、職場の宴会や社員旅行を除き、仕事の場においてベトナム語を使うことはほぼございません。
これは何も私に限ったことではなく、当地でお会いした同胞の方々にお聞きした限りではありますが、みなさまも職場においては日本語や英語など、極力早く意思疎通ができる言語を用い、仕事を離れたらできる限りベトナム語を使うようにしていらっしゃる方が多くいらっしゃいました。
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そのように下手くそながらも極力ベトナム語を使おうと考えている私ではありますが、以前にSNSで見かけた投稿については少し考えさせられてしまいました。
どのような投稿だったのかともうしますと、曰く「日本料理店で酔っ払った中年男性が、店員を呼ぶ際に『エモーイ』と呼んでいるのを耳にして不快になった」といった内容でした。
この「エモーイ」というベトナム語は、日本語で言えば「すみませ-ん」にあたる言葉で、飲食店においては店員の方を呼ぶ際に一般的に使われる言葉です。もう少し詳しく説明をしますと、年下の『あなた』を表す人称代名詞の『エム』と、他者に対して呼びかけの際に使う『オイ』をあわせて、発音は「エモーイ」に近い形になります。
詳しく記すと長くなってしまうので、ここでは省略させていただきますが、ベトナム語には相手の年齢や立場に応じた人称代名詞がいくつもあり、これが年上の方に対して『エム』という呼称を使用したのであれば問題かもしれませんが、料理店の店員の方が酔っ払った中年男性より年上であることはまれなのではないかと思われ、この言葉に問題があるとは思えません。
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ですので、何も間違っていることはなく、ましてや失礼な言葉であるはずがないと思ったのですが、どうもその投稿への返信を見るに、結構な数の方々が賛同されていらっしゃるようで、その男性の発した言葉が失礼だとの流れになっております。なかには「そんな日本人がいることが恥ずかしい」や、「そういう人は女の子のいるお店でいい気になっていそう」など、投稿の本文に記されていない想像の話しまでされている方もいらっしゃいます。
では、なにが失礼なのかと考えるに、たしかに日本語で店員の方を呼ぶ際に「おい」と声をかけたら失礼かもしれませんが、この場合はベトナム語の「オイ」であり、なんら問題はないはずです。はたまた問題は言葉ではなく、『酔っ払った中年男性』という立場の人物に、何らかの偏った感情が生じ、これが若い男性や年代を問わず女性なら問題がなかったのかと、同じく居酒屋などで酔っ払っては「エモーイ」などと発してしまっている我が身を重ね、悩んでしまいます。
そして、なんと声をかけるのが失礼にあたらないかと考えると、日本料理店ゆえに「すみませーん」なのか、もしくは世界共通言語である英語を用い、「Excuse me, I'd like to order.」と声をかければよかったのか、またもや悩んでしまいました。
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とはいえ、その後私が店員の方や職場の宴会の際での呼びかけで「エモーイ」を使わなくなったということはなく、また酒席を共にする友人においてもその言葉を失礼と考える方はいらっしゃらないので、変わらずに多用させていただいております。
言葉は相手が理解でき、失礼にあたらなければ問題がないわけで、たとえその国の言葉を数語しか話せなくとも、その知っている言葉を使って会話をしようとする姿勢は悪いことではないと思います。
そうはもうしましたが、もしこの言葉を不快と感じられる方がおられ、その方の前で私が発してしまった際はごめんなさい。
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