#12 ベトナムの犬
先日、友人から今年、2024年の秋から冬ごろにベトナム旅行に行こうと計画している、といった内容のメッセーが届きました。
その友人はほとんど、というか、いままで一度も海外旅行に出たことがなかったはずなので、私は大変驚き、久しぶりに、しかも事もあろうに当地、ホーチミン市で会えることに嬉しくなりました。
そして、まだ正確な予定は出せてはいないものの、とりあえずパスポートの申請は済ませたとのことで、どこのホテルがいいだとか、どこに遊びに行こうなどのメッセージをやり取りしていました。
当然そのメッセージのやり取りの最中に、友人よりいくつか質問を受けることになるのですが、どう答えていいか悩んでしまった質問が一つございました。
「ベトナムに渡航するにあたって、どの予防接種を受けたらいいのか?」という質問だったのですが、いままで旅行で当地を訪れた友人、知人の中で海外渡航のためのワクチン接種をしてきた、といった話しはあまり聞いたことがございませんでした。
確かに日本と比べて各種の病気のリスクは高いと思われ、当然、当地で暮らす多くの同胞の方々は、日々そのリスクにさらされるわけなので、予防接種をされていらっしゃる方が多いとは思いますが、数日程度の滞在のためにワクチン接種をするのは少々大袈裟に感じます。
しかし、数日とはいえそのリスクに差はないわけで、もし万が一何かが起きてしまった際の責任回避として、「予防接種を受ける時間と費用があるのであれば受けたほうがいいよ」といった玉虫色の解答を返信しておきました。
次に「何のワクチンを接種すればいいのか?」という流れになるのですが、私自身いままで予防接種を受けたことがないゆえ、慌ててインターネットで検索をすることになるのでありました。
いろいろと調べた結果、経口感染により感染するA型肝炎、蚊により媒介される日本脳炎、傷口から感染する破傷風、犬猫に噛まれたり引っかかれ、その傷口より感染する狂犬病あたりは接種したほうがいいと思われ、また、細君と一緒に来越するとのことだったので、あまり危険はないかとも思いましたが念のため、B型肝炎についても予防接種を勧めておいた次第でございます。
先に述べたとおり、私はいままで予防接種を受けたことがないのでありますが、これは決して他人に薦められるようなことではなく、言い訳をさせていただくと、来越直前に念のため接種しようと思い立ち、病院などへ問い合わせをしたのですが、なんでも、特に狂犬病の予防接種は3回必要で、初回接種から3回目までの接種までに1〜1.5ヶ月かかるとのことで、渡越1週間前ではとても間に合うわけもなく、来越後もすっかり忘れていまに至るわけであります。
とはいえ、いまに至るまで何の問題もなく、また、ことが起きてからでないと慌てない私としては、A型肝炎、日本脳炎、破傷風と言われても想像もできなければ意識にも上がらないのも事実なのであります。
そんな体たらくな私ではありますが、唯一、折に触れて狂犬病に対しては憂慮することがございます。
ご存知の方も多いと思いますが、狂犬病は日本での発症例はここ数十年ほど無いそうですが、東南アジア諸国においてはいまだに多く発生しており、当地においても毎年数十人の方々が感染、発症し亡くなっております。
人と犬との関係は大変長く、旧石器時代から続くパートナーなどと言われますが、私もご多分に漏れず、数十年犬と暮らしております。ですのでこの病気に関しては他の感染症よりは気にかかり、そして、この病気で亡くなられた方のニュースに触れると、なんともやるせない気持ちになってしまうのであります。
ちなみに私は現在2匹の犬と暮らしておりますが、こちらについてはきちんと狂犬病の予防接種を毎年欠かさず受けさせております。
さて、当地では犬に限らず何らかのペットを飼育している方が多くいらっしゃいます。出典は失念してしましまいたが、以前に調べたところによると、ベトナムでは25%ほどの方々が何らかのペットを飼育しており、その中でも、最も人気があり多く飼育されているのが犬であると記憶しております。
犬以外でよく見かける動物としては、鶏、小鳥、魚などが多く、猫については少ないように思います。これは私の思い込みかもしれませんが、どうも女性を中心に猫はあまり好かれていないように感じることがあり、『いい女は犬を飼わず、いい男は猫を飼わない』ということわざもあるようなので、いずれこの件については、このことわざとあわせて調べてみたいと考えております。
話しを犬に戻しまして、当地において犬は一般家庭はもちろんのこと、飲食店や商店などだけではなく、警備員の方が職場で飼われていたり、路上生活者の方が一緒に生活していたりするのをよく見かけ、犬に出会わない日はございません。
そして、特に犬に出会える場所としては飲食店が挙げられ、以前に聞いた話しですと、『飲食店の犬は客が落とした食べ物を食べて大きくなり、大きくなったら飲食店の家族や従業員がその犬を食べる』などという、真偽が定かではない話しを聞いたことがございます。犬食文化のある国らしい話しではありますが、幸いなことに、私が通っているお店の犬については老犬になるまで大切に飼われているようであります。
ちなみに、私は人に対しては交際の範囲を広げようとしない質なのですが、対して犬に関してはこちらから寄っていっては仲良くしようとするために、そこらじゅうに顔見知りの犬がいたりします。
さて、そのように犬がそこかしこにいるゆえに、『ベトナムでは狂犬病に注意してください』などとガイドブックなどに書かれるのは当然のことと思われ、さらに、当地で飼われている犬の多くは、放し飼いが一般的であります。
よく『野良犬や野犬に注意してください』といった話しも聞きますし、また私自身友人、知人からそのような質問も受けることがあるのですが、地方部の事情はわかりませんが、少なくともホーチミン市の中心部においては、ほぼそれらを見かけることはなく、大抵は飼い犬であったりします。
そして、余談となりますが、公共の場所や居住区などでの犬の放し飼いは禁止されておりますが、その取り締まりの現場を見かけたことはなく、また放し飼いが多いゆえに犬泥棒が多くいるのではないかとも思っております。
さて、その放し飼いの犬ですが、人に対して害を加えないのか、といえば一概にそうであるとはいえませんが、大抵は飼い主以外の人間に興味がなかったり、むしろ人を怖がっている犬が多いように感じます。また、しつけの成果なのか、もしくは単なる習慣なのかはわかりませんが、歩道では粗相をせずに、車道で用を足す犬が多い気もします。
大抵の場合、猫可愛がりされることもなく放任的に飼われていますが、飼い主に従順で非常に賢い犬が多く、それゆえに仲良くなった人物のことは忘れないようで、私も久しぶりに会った犬に舐めまわされることもしばしばございます。
かような人と犬の関係のホーチミン市ではありますが、そこらじゅうに犬が放し飼いになっているという状況は、一般的には不安となる要素と思われ、狂犬病のリスクが頭をよぎる原因になるとは思います。
では、ホーチミン市における犬猫の狂犬病のワクチンの接種がどのような状況であるかというと、2024年3月24日の新聞、トゥオイチェーのオンライン版の記事によりますと、犬猫の90%が狂犬病ワクチンを接種済みとのことです。これはあくまで私の感覚ですが、大手新聞社の記事とはいえ、個人的には真偽のほどが怪しい割合だと思っております。
それというのも、よくニュースで狂犬病に関する記事を見かけ、さらに今年、2024年はその数が増えているとも耳にしております。
幸い、私はいままでに狂犬病と思われる犬猫に出会ったことはございませんが、この病気は発症するとほぼ100%死亡する危険な病気とのことですので、旅行やお仕事で来越される際は、飼い犬といえども十分に気をつけていただき、また、十分に火の通っていない狂犬病に感染した犬肉を食すことでも感染するとのことなので、もし犬肉を食べる際は十分に加熱したものをお召し上がりください。
そのようなベトナムの犬事情ですが、ではどのような犬がベトナムにいるのか、まずは一番有名な犬種として、ベトナム南部のリゾート地であるフーコック島の固有種である フーコック犬、ベトナム北部の山岳地帯のモン族により飼育されてきた モン コック犬と、バック ハ犬、最も希少な犬種と言われる ライ ソン マー犬、の純血種の4種に加え、最も数が多く、様々な犬種による交配種である コー犬の5種の犬種の犬がいるそうです。
個人的にはこれら中型犬に加え、小型で足が短く、少し毛の長い犬種も多くおり、こちらもベトナムの固有種なのではないかと思っております。拙宅の犬もこれに含まれると思うのですが、散歩の際にこの犬種には頻繁に出会い、なかには拙宅の犬にうり二つの犬を見かけることがあります。
気になってみて、WEBサイトなどを調べてみたのですが、この犬種についての記事を見かけることはありませんので、単に数が多いだけの交配種なのかもしれません。
このようにベトナムにも様々な犬種がおりますが、その中でも私は以前から、いずれはフーコック犬を飼いたいと考えております。そして、以前にWEBサイトなどで譲ってくださる方を探していたのですが、その際に知人に相談したところ「ホーチミン市で売られているフーコック犬などは偽物だよ」と言われたことがございます。なんでも、それらWEBサイトなどで販売されているベトナム固有の犬種のほとんどは雑種であり、純血の犬はほとんどいないとのことでした。
たしかにフーコック犬などは絶滅危惧種といわれており、保護施設もあるほどです。しかし、たとえ雑種でもその特徴を受け継いだ犬であれば飼いたいと思うのですが、なにせ大型犬に属する犬種ゆえ、それなりの広さがある家に住まないことには飼育は難しく思われ、実現は夢となっております。
さて、もちろん当地においても日本と同様に、ベトナムの固有種に限らず、海外原産の犬種も多く飼育されております。
その時々により人気の犬種は移り変わるのですが、私の記憶によると、ちょっと前ですとシベリアンハスキーやコーギー、チワワ、最近ではトイプードルが人気があるように思います。特に最近では小型犬が人気があるように思われ、フレンチブルドッグや小型の柴犬、ミニチュアダックスフンドなども見かけることがございます。
ただ、ちょっと気がかりなのが、以前には大変に人気があり、街中でもちょくちょく見かけたシベリアンハスキーを最近では見かけることがなくなってしまい、不本意ながらよからぬ想像をしてしまい、悶々としてしまうこともございます。犬を飼われている方のなかには飽きっぽい性格なのか、途中で飼育を放棄し、飼い犬を他人に譲ってしまう方が一定数いらっしゃるようです。拙宅の犬もその類の理由により知人から引き取ることになったのですが、せっかく家族の一員として迎えたわけですから、最後までしっかりと愛し、いい思い出をたくさん作ってもらいたいと思います。