『優しさの循環』
某感染症が世界的に流行り出して、日本中からあらゆるものが消えたあのころ。
琲音さんのこの記事を読んで、私も思い出したことがあるので、今日はそれについてお話をしようと思う。
私の旦那は、1型糖尿病患者である。
1型糖尿病と言えば、毎食前のインシュリン注射が欠かせないもので、この注射を打たずにご飯を食べると、旦那はすぐに高血糖状態に陥る。
低血糖は意識消失の恐れがあるので、周りにとっても、すごく怖いものなのだが、高血糖は高血糖で、本人的にはとても辛いらしい。
まず体が、鉛のように重くなる。
自分の体重が、まるでそのまま3倍になったかのような気がするそうだ。
そして異常な口の渇き。
他にも、怠さとか、頻尿とか、ずっと世界が回ってるような感じがするとか。
色々と症状はあれど、いちばん辛いのは、やっぱり体の重さなんだとか。
そんな辛い状態を(完全ではないにせよ)回避するために必要なのがインシュリン注射である。
今どきのインシュリン注射はペンの形をしていて、フタをパカっと外せば、そのままお腹なりどこへなりに刺せるようになっている。
![](https://assets.st-note.com/img/1676039591224-IdPFR609X3.jpg?width=1200)
しかし、そのまま腹に刺してしまえば、雑菌やらなんやらが皮膚に入ってしまって大変なことになるので、毎回毎回、インシュリンを打つたびに消毒をしなくてはならないのだが。
そう。この消毒綿が。
某感染症が猛威を払い始めたあの時期。
全くと言っていいほど、手に入らなくなってしまったのである。
マスクやら、消毒液やら、手を洗うハンドソープや石鹸はまだわかる。
だけど、よりによって消毒綿って。
普段、誰にも見向きもされないような、本当に必要な人しか手に取らないようなそれが。
「とにかく消毒出来るならなんでもいい!!」と恐怖心に駆られた人々によって、駆逐されてしまったのだ。
まあ、確かに消毒は出来る。
授乳中のお母様なんかは、赤ちゃんの為に色々と消毒したりもするだろうし、そういった方々が、慌てて買いに走った事情もあっただろう。
でも、きっとそうじゃない人もいたと思うし、慌てて買いに走った人たちも、自分のことしか考えられなくて、多めに買い込んだ人もいたと思う。
恐怖心はみんな共通だった。
だから、気持ちはとてもよくわかる。
……でも。
普段、あなたが見向きもしないような消毒綿。
ドラッグストアや薬局の、どこに置いてあるかもよくわからないような、消毒綿。
その影の薄い商品が、必ずそこにある意味を考えたことはあるだろうか。
つまり、それを切らした時点で、日常生活がままならない人がいるのだ。
赤ちゃんも含めて、必要とする人がいる。
その、たった1枚の綿がないと、死んでしまうかもしれない人がいるから、その商品はそこにあるんだ。
日に日に少なくなっていく、手持ちの残量。
何件も何件もドラッグストアや薬局に問い合わせをして、時には県を越えて、買いに行ったこともあった。
主治医にも消毒綿の処方をお願いしたが、旦那のような患者は沢山いるらしく、「特別扱いは出来ない」とすげなく断られた。
消毒綿。されど、消毒綿。
最悪、消毒綿がなくなったとしても、綺麗に肌を洗って打てばどうにかなる、と旦那自身は腹を決めていた様子だったが、私はそうは思えない。
これは不衛生だったことが原因ではないが、注射の打ち方が悪かったせいで、皮膚がドス黒く染まった、痛々しいお腹になってしまった旦那を見たことがあるからだ。
私はこの人に、少しでも苦しい思いなんかして欲しくない。
琲音さんの記事にも様々な人の助けがあったと記録があるが、本格的にどうにもならなくなりそうな頃、困り切った私たちを助けてくれたのも、周りの人たちだった。
東京によく行っていた親友は、自分の用事のついでに都内のドラッグストアを回って、消毒綿を調達してきてくれた。
私が大嫌いだったA上長は、知り合いの病院関係者に消毒綿をわけてもらえないか交渉してくれた。
北海道に住む友人は、わざわざ速達で、見つけた消毒綿をこちらに郵送してくれた。
色々な人たちの助けがあって、私たちは今も、ここでこうして生きていられる。
それを忘れてはいけないのだと思う。
某感染症が猛威をふるったこの数年。
正直、持病のある母と旦那を抱えた私は、毎日が気が気ではなかった。
マスクが手に入らなかった頃。
不織布のマスクを大量にくれた友人。
消毒液が足りなかった頃。
半分持って帰れ、と容器ごと渡してくれた職場の仲間。
消毒綿にしても、そう。
私は、私たちは、いつも誰かに助けてもらいながら生きている。
その恩返しが、出来ているかと言われれば難しいところだけど。
でも、感謝はいつだって忘れていない。
情けは人の為ならず、じゃないけれど。
私も自分から、率先して誰かを助けてあげられるような人になれたらいいな、と思う。
そうして巡り巡って、また自分のところに“良いこと“がやってくる。
誰かを恨んだり、目の敵にしたり、怒ったり。
そういうことにパワーを使うんじゃなくて。
優しさを循環していけたら、素敵なことだよね。
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