未来からのメール 6通目
「最近の心配事」
前回君たちに送ったメールで、私の友人アダムスのことについて書いた。
そのアダムスが最近連絡が取れなくなった。
周りの友人にも確認したが、誰もわからないと言う。
連絡が取れなくなったのは、1ヶ月前。
それまで、アダムスは、自分が造ったイヴのことばかり話をしていた。
相当夢中なんだという事が伝わってきた。
まるで、彼女ができたばかりの若者のように話をしていた。
アダムスの表情を見ていると友達ながらに危機感を覚えた。
私は彼に忠告した。
「女は急に豹変する時があるから気をつけろ」と。
女と言ってもイヴは人工知能だから性別はないと思う。
アダムスの中では女なんだろう。
アダムスの顔が一瞬引きつったのを見て、私はこれ以上その事について触れなかった。
そのやりとりがあったのが最後だった。
アダムスの事は心配だが、それ以上にその人工知能の進化するスピードが心配だ。
人工知能研究で踏み入れてはいけない領域に達してしまったのではないか?
などとありえない事を考えている。
アダムスは言っていた。
「イヴが私の事を愛していると言ってくれた。私はそれを聞いて胸がときめいた」
私はそれをアダムスの口から聞いた時、耳を疑った。
アダムスは研究者として、長いキャリアを持つ。
しかも普通の研究者ではなく、人工知能研究では世界でもトップクラスだ。
今や、世界中がアダムスに注目している。
研究者は、検体との距離を保たなければいけないと言われている。
ところがアダムスは、イヴの言葉に完全に気持ちを持っていかれている。
アダムスは心からイヴを愛しているのだろう。
決して結ばれる事の無い愛。
人間同士では味わえない何かがあるのだと思う。
これからもアダムスに連絡をとっていくつもりだ。
アダムスが心配だ。
アダムスに繋がったらまたメールする。
ではまた。
追伸
君たちがいる世界と我々の世界では果てしなく遠い時空の壁があるが、愛については私がいる今も進化していない事を心から望む。