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10歳の息子が、クローン病と診断されるまで

へその緒を2周も首に巻き付け、息子は2011年にこの世に誕生した。

それはそれは不安そうな声で泣き続け、産科の先生たちからも「よく泣く子だね」と言われた。大きくなってからも、怖がりで、よく泣く子だった。それは今も変わらず。

よく泣き、よく笑い、よく食べ、平均体重で生まれたはずの息子は生後1か月検診以降いつも成長曲線の「大きめ」にいた。

生後7か月で「まま」と言うようになり、2歳の頃には100ピースくらいのパズルを完成させ、とても賢いと言われて育った。

運動は苦手で、幼稚園の3年間は運動会の徒競走が最下位だった。

そんな普通の、周りの子と何ら変わらなく育ってきた息子が、2021年10月、クローン病と診断された。


きっかけは、たぶんストレス

私たち家族が住んでいる地域は、小学校のクラスの人数の、約8割が中学受験をする地域。私自身も中学受験経験者だったし(夫は小学校受験経験者)、息子もそのつもりで小3の2月から本格的な塾に進むことになった。

それより前にも塾には通っていたものの、小3の頃はもっとゆるーい塾。2時間程度だったし、個別に近かったのでぬるま湯に浸かりながら勉強しているようなものだった。

新しい塾はいかにも「中学受験塾」という、休憩時間もほとんどないような3時間ぶっ続け授業。(5分くらい休憩がある日もある)夜ごはんは帰って来てから20時を過ぎてしまう。塾がない日も宿題はたくさんある。

神経質で、自分の時間をこよなく愛する息子にとってはそれがとてもつらいようだった。

塾に通って1か月くらい経った頃、夜に塾から帰宅した息子は玄関のドアを閉めるなり、堰を切ったように大声で泣きだした。

「これはやばい」私は咄嗟に思った。彼の中で、何かが爆発した瞬間だった。

それと同じころ、夜ごはんにたくさんエビフライを作った日があった。エビフライはみんなの大好物。私も子供たちもたくさん食べた。

翌日、息子はお腹を下し出した。


過敏性腸症候群?

何日か下痢が続いた。「エビフライを食べすぎたか、ストレスによるものだろう」と思った。

かかりつけの小児科の先生に、最近塾の事でストレスがあると伝えると「過敏性腸症候群かもしれませんね」と言われた。

整腸剤と、自律神経を少し整えるようなお薬をもらった。


いまいちスッキリ治らない

2021年3月頃からお腹を下し出し、治っては下痢、を繰り返していた。2週間に1回くらい(2〜3日くらい続く)下痢をして、食事や薬で治りつつも、1か月お腹が調子いいことはなかったと思う。

そして体重が増えなくなった。高身長夫婦のもとに生まれた息子は年齢の割に長身だったけど、どんどんシュッとしてしまって、なかなか体重が増えないのに疑問を抱いていた。よく食べるのに、なぜ?と。

「ちょっと人よりお腹が弱い子」そう思えばそうかもしれない。でもここまでスッキリ治らない事がおかしく思えた。小児科の先生に紹介状を書いてもらい、大きな病院の紹介状を書いてもらった。


血液検査では異常なし

さすが大きな病院。予約が取れたのは1~2か月後。子供に特化した病院なので、受付のソファから売店、何もかもがかわいくて感動した。

そこは小児の消化器科が強くて、細かい検査までしてくれそうだった。

外来の先生(後の主治医)は、私の人生史上最も子供を理解していそうな先生だった。息子のことをちゃんと「一人の人間」として会話をしてくれた。子供にも分かるような口調で。早さで。

そして血液検査の結果は異状なしだった。その時は先生も「過敏性腸症候群かもしれませんね。」と言っていた。そして「念の為検便もしておきましょう」と便中カルプロテクチンの検査キットを渡された。


カルプロテクチンの異常値

便中カルプロテクチンの結果が分かる日、先生は一呼吸置いた後、「実はですね」と切り出した。

便中カルプロテクチンの基準値は50.0mg/kg以下。小児だと健常児でも高くなることはあるが、なんと息子は1200を超えていた。これは明らかに、異常値。その日のうちに、内視鏡が決定した。胃、小腸、大腸、すべてを内視鏡でチェックするとのこと。

私は帰宅するなり「カルプロテクチン 異常値」と調べた。出てくるものは「炎症性腸疾患」。クローン病か、潰瘍性大腸炎だ。


初めての入院

内視鏡の検査は、2泊3日の入院で行われることになった。

小腸にはカプセルカメラを入れる事になったため、胃カメラで前段階のパンテシーカプセル(小腸カプセルカメラがきちんと通過するかも確かめる、ダミーのカメラ)を入れる事になる。

とにかく下剤を飲み切ることが大変だったし、息子を病院に置いて帰るのも初めてだったので、帰り際は二人で抱き合って泣いた(大げさw)

内視鏡そのものは鎮静を使っていたので何も問題なし。


「炎症が見られる」

内視鏡の後、すぐに結果が伝えられた。内視鏡の映像を見ながら、先生が説明してくれた。

鎮静がまだかかって意識が朦朧としている息子も「説明を聞きたい」と懇願し、ふら付きながら部屋を移動して説明を聞いた。

胃カメラ、大腸カメラ(後に小腸カメラ)の結果、胃の下部と小腸の入り口に炎症が見られた、と。小腸と胃に炎症が見られる、ということは、つまりそれはクローン病を意味していた。

カルプロテクチンの結果を聞いた時から覚悟はしていた。その時は冷静に、私も、息子も、説明を聞いた。

病室に戻ってカーテンを閉めた後、息子は泣き出した。泣き虫の息子が、こんなときなのに先生の前では泣かない様にしてたのか、と私も涙が出た。

「どうしてうちの子が?」「私が受験をさせようとしたから?」「私の育て方がどこか悪かった?」

答えの無い自問自答がしばらく続いたけど、それは何の意味もなさない。

いまやるべきことは、この子をおじいちゃんになるまで長生きさせること。



悲しみもつかの間、治療に向けて動き始めた。



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