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chibijoker
机にはナイフの疵や休暇明/大野朱香
季語「休暇明(秋・人事)」
同じ句集の中に、
電柱の負ひし擦傷春休
という句があります。
作者にとって、長期の休みは、心休まるばかりのものではないようですね。
疵のある机を使った経験は、誰しもあることでしょう。あまりに疵が多すぎて、テストのときに困った・・・なんてこともあったのではないでしょうか。
「休暇明」の休暇は、普通夏休みのことですから、この机は夏休み前にも使っていたものですね。夏休み中に他の子が教室に入ることはありませんから、この疵は夏休み前にもあったものですよね。作者がつけた疵なのか、誰かに付けられたものなのか、もっと以前からあったものなのか・・・
それによって、作者の思いは微妙に変わってくるかもしれませんが、いずれにしても、その疵に触れたことにより、作者は長い休みから現実に引き戻されたのです。また、今日から時間や人間関係に縛られた面倒な毎日が始まる。ナイフは、机だけにとどまらず、作者の心にも幽かに切り込んでいるような、小さな痛みを感じてしまいます。
大野朱香さんの句集「一雫」から、自分なりに好きな句を10句、取り上げてみました。句集に添えられている栞の中で作家の小沢信男氏は、朱香さんのことを「生来の都会派」と評しています。
確かに、大胆な発想や独特な情景の切り取り方など、人目を気にしないで自分の道を行くような強さが感じられ、そんなところが「都会派」と言えるのかもしれません。でも、その切り取られている情景は、誰しも経験したことのある「ああ、そうだった」と読者の共感を呼ぶものが多く、やはり、私の好きな「童子」の句だなあと思えます。
大野朱香さん、一度で良いから句座を共にしてみたかったなあと思う俳人です。