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顔を忘れた人

25年ぶりに町で声をかけられた。

その人は横柄な態度で元気そうじゃん
と言って徐に近寄ってきたが
どう考えても私の記憶の中にその人は
居なかった。

誰? 
怪訝さをあらわに、知らない人!を
アピールするも相手は何故だか
飛びっきりの不快な顔で私を凝視し
からかっているのかと吐き捨てた。

いや、本当に知らない。

申し訳ないけどどなたですか?

相手はほとほと呆れたような顔で
A(息子の名前)は元気かと言った。

え?何故息子を知っているのだ!
親戚か?息子の同級生の親か?

しばらく沈黙。

ほんとに解らないの?
少し語気が強くなる。あ、なんかこの威圧感
何度も味わったことが…

25年前の記憶がざわりと甦る。

目の前の知らないはずの男は
11年生活を共にした元夫だった。

私の人生からチリひとつ残さず
消し去ったはずの男。

それにしても…

忘れるかぁ?普通。

周りの人達の反応は皆同じで
自分でも確かにそう思った。

そして…
急に可笑しくなって大笑いした。

夫婦ってなんだろうね。

私の過去から完全に閉め出された男。

今は病床で、最後の時を
ただ 静かに待つ身の人。

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