七福神日誌47

八時起床。
妻と台所にあったクッキーを朝食に食べていると、店から電話がある。
社長の声で、『のれんが届きました。店は水びたしです』といわれる。
十時に出勤。
店の玄関にのれんがついている。
でかい赤い布に、文字は白抜きで、『串かつぶらり横丁七福神』。
もともとうちは、長年デザート串にりんごを売ってきた、それと合わせたわけではないが、昨年からエプロンも赤い丈長のものに変更、こんどはのれんも赤いのがきて、じょじょに企業のシンボルカラーが赤に定まってきた様子だ。
求人サイト用に何枚か写真に撮っていると「店長、これです」と社長に呼ばれる。
キッチンに入ると床一面に水が張っていて、どうやら水道管のどこかが壊れてしまったらしい。
給湯器に繋いだメインの水道の蛇口から閉めても閉めてもどんどん水が溢れてくる。
ぶくぶく泡立って弾け、これは角度によっては虹が見えるんじゃないかとシンクを覗き込みながら顔を傾けていると、「店長、まるで噴水ですね」とユウさんが暢気にいって、となりでスギさんが、「今日も寒いので雪が降ると思います」と予言。
それぞれ手には、切ったマグロと茄子を持って串刺し中で、仕込みはもうじき終わる気配だ。
一足先にネタをあげたムラさんがテーブル席から順に皿を並べてくれている。
業者に連絡したがすぐには来られないとのことで、仕方なくお湯のでる水道の元栓は閉じて店を開けることになった。
かわりに水がちょろちょろとしかでないキッチン隅の予備の水道を臨時開通。今日は洗い物は全てここで頑張る。
開店と同時にわっと来客があり、十二時頃から雪が降り始める。
ホールのスズちゃん、コグスが合流。
十三時に妻がやってくる。
お気に入りのミツバチ柄のダウンを着てにやにや笑い、髪がもう短くなったのが我ながら少し恥ずかしいのか、聞かれもしないうちからみんなに「エクステを取りました。エクステを取りました」と報告して回っている。
十七時に朝からのメンバーと交代でユアちゃん、ノセ君など。
ちょうどつぎの火曜が建国記念日の祝日で、世間では飛び石連休というのをとる人もあるのか、終日、大きな旅行鞄を持ったお客さんたちで込み合う。
二十時頃、美容学生のユアちゃんがレジの陰に教科書をひろげてまつげとネイルの勉強をしていたので注意すると、「反省したのでもう二度としません。私には先週彼氏ができました」という。
そのあと、ノセ君がカウンターに母が来ているというので挨拶にいくと、「どうも、今日は串をご馳走になります」といってすじこんを食べて帰られた。
土曜の忙しさもあってなんだか頭がぼんやりしてしまう一日だったが、閉店後、お母さんによろしくとノセ君にいうと、実はもう五、六回店にきてます、いつも恥ずかしがってこっそりくるんです、と教えてくれた。
驚いて、お母さんから店の人にばれないようにしてくれといわれてたのかと聞くと、いや、そんなこともないんで、今日は何となくお知らせしましたとのこと。
それでは、これまでお母さんのほうでは当然ノセ君が母が来たと報告していると思って、毎回店の者から挨拶もないのを色々考えるところもあったのではないか。
とても不安になったが、ところでノセ君のお母さんは暢気かと聞くと、まあ暢気ですという。
それじゃあ良いかと良いことにして、またいつでもお待ちしてますと言伝てを頼み、解散。
外にでるとまだ雪が降っていた。
零時過ぎに帰宅して、夜食に冷凍庫にあったうどんを温めて食べる。

いいなと思ったら応援しよう!