七福神日誌34

六時起床。日曜日。
今日は淀川の花火大会。
七時に七福神バルチカ03店へ出勤。
リキさん、社長もきて、一緒におにぎりを食べながら開店準備を始める。
八時に仕込みのスギさん、ユウさんも合流。
メディア向けのプレオープンから数えると今日でちょうど七日目の営業をむかえることになり、朝の仕込みの流れにもやや余裕を感じられるようになった。
あれこれとオリンピックのことなど話題にしつつ、各ポジションで肉を切ったり串を刺したり。
途中、社長が食洗機を回そうとしてお湯が出ておらず、店のガスが上手く通っていないことに気づく。
うちは油もの屋なのでガスが使えなければ当然営業も出来ない。
すぐにリキさんがネットでガスの不具合と対応方法を調べ、排気の確認のため他の店を見回ってくれる。
社長は内装業者やガス会社、施設のセキュリティなど思いつくところ全てに電話して専門家を呼び集め、スギさん、ユウさんには店が通常どおり開くと信じて仕込みを続けてもらう。
そして俺はそれとは別に、毎日レジ金を預けている金庫の鍵が開かないというトラブルがあったため、一人ビルの金庫室にいて金庫の扉を叩いたりしていた。
これは事務所に問い合わせたら「たぶん叩くと開きます」とのことだったので、いわれた通りにやっただけだが、後から後から他の店の人が金を回収にきてそれを目撃し、すごい思いをしたのではないかと思う。
しばらく叩いていると、本当に金庫が開く。店に戻るとどうやらガスも通ったらしい。
仕込みにはチカさん、ムラさんも加わって、今日の昼休憩になにを食べるかといった話で盛り上がりながら、四人で編み物でもするように魚に串をさしている。
朝から色々あったが案外落ち着いたもので、そういえばこの店は開業前日に串や秘伝のソースの材料が届かないという事件もあったので、みんなもうこのくらいのトラブルには慣れてしまったのかもしれない。
無事十一時半にオープン。
終日込み合う。
今日のホールはタイ、テッちゃん、コグス、タケさんなど。
本店勤務で慣れているテッちゃんに中のフォローを任せ、俺はまた店の玄関で案内係。
夜、お客さんから何度か「ここは、元はどこのお店?」と聞かれて、「ぶらり横丁です」と答える。
よく同じことを聞かれるので簡単な説明をしておくと、うちの串かつ七福神はかつて西梅田にあったぶらり横丁という、戦後の混乱の中で生まれたごった煮の地下街で営業していて、十年程前に、梅田再開発のどたばたで現在の大阪四ビルへ引っ越した。
その後、のれん分けで神戸にひとつ同じ名前の店が増えたが、社長直営の店舗としてはこのバルチカ03店で二店舗目。
そんな歴史を話しつつ、ハモはわさび醤油、りんごにはシナモンシュガーをたっぷり振って食べてくださいと串の案内をしていると、「あった、あったわ」と一人、昔ぶらり横丁の店にいったのを思い出したお客がいて、揚場からリキさんが嬉しそうな顔をのぞかせる。
「僕も、横丁からの客です」とリキさん。
これは本当で、リキさんも元は七福神が開業して間もない頃からの通い客。ある意味創業メンバーの一人といってもいいかもしれない。
常連たちの間では、身内経営の七福神がついに客まで働かせだしたと話題だ。
店のテレビに淀川の花火の中継が流れ、客席で歓声があがる。
二十三時まで混む。
閉店後、コグスにグリスト掃除を任せ、リキさんが油の入れ換え。
俺は本日のお勘定をまとめていく。
コグスは今日のピークに独断で外に並んでいるお客さんをみんな同時に入れてオペレーションを著しく混乱させたかどで、アルバイトだが最終退館時刻まで残って力仕事を手伝ってもらうことになった。
しゃがみこんで汗だくになりながら、俺グリスト得意っす、この店のためになることが出来て嬉しいですなどと健気にもいうので、じゃあコグス君の時給はこの店のためにも下げよう、すごくありがたいですねとリキさんと盛り上がる。
テレビでオリンピックを見ていた社長がふいに手を叩き解散を告げる。
二十四時に四人そろって退館。
ビルを降り、みなそれぞれの終電があるため「ではおやすみなさい」と挨拶して四方に走り出す。
帰って風呂に入り、晩飯に妻が作っておいてくれた炒飯を食べて眠る。

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