七福神日誌45

五時起床。六時に出勤する。
店について、まずはグリストを掃除。
昨晩アルバイトのタイが、社員はグリストを怠けているといってサワチーフとバトルしていたので、いつもより念入りにやる。
これは、たいていアルバイトの学生に毎週日曜の夜グリストを頼み、その他の曜日には毎朝社員がグリストを掃除している、そのことが夜勤務メインの学生スタッフたちにあまり知られていないことから起きた揉め事か。
グリスト掃除が週に一度な訳がないだろう、普段は時間があってお客のいない朝にやってもらってるんだよといってきかせると、タイは素直に、おおなるほど、といってわかってくれたが、やはりどんな仕事も、ある程度まわりから見えるように考えてやらないとサボっていると思われて損だな。
そんなことをサワさんと話した翌朝のことで、溝に溜まった油をブラシで擦りながら、今日はぜひとも仕込みの皆さんに目撃されたい思いもあったが、やがて片付き、次に冷蔵庫やキッチンテーブルなど、カウンター内の衛生にうつる。
当然閉店後も毎日ざっと掃除しているが、夜はみな電車の最終など、切羽詰まりがちで、どうしても手の至らなかった箇所を翌日朝一で再度磨きあげる。
八時から、ユウさん、ムラさんがやって来る。
三人で仕込み。
肉、野菜、シーフードと順調に仕上げ、一度バックヤードの事務所に顔をだして戻って来ると店の電話が鳴っている。
でると、社長の声で、
「思うたんやけど、店長も今後を見越して今のうちから趣味人になっておくべきじゃないかな。お客さんとの話のタネになるし、今度一緒に劇団四季のオペラ座の怪人を観に行きましょう」といわれ、ひとまず断る。
劇団四季は一度観てみたいが、うっかり社長と二人きりで観劇ということになると気まずいので、こういう際は話に妻や義母の合流するのを待つようにしている。
十一時に開店。
ランチ利用のお客さんで賑わう。
ランチは定食と串かつカレーとあって、どちらかというとカレーの方がリピーターの多い印象。社長が串かつ屋の前に喫茶店をしていた、その時代からのレシピを引き継いでいて、味は少し辛め。
夕方、サワチーフと交代であがる。
本店へ行ってミツさんと少しお喋りし、第ニビルの空き店で時間をつぶす。
幸田文の『みそっかす』を読む。
これは祖母が生前好きだった本で、好きだというわりにずっとタイトルを『くそったれ』と間違えていたが、俺も初めて読んでみてとても気に入った。
コンビニでコーヒーでも買ってこようかと思っていると、妻が現れる。
ちょっとそわそわした様子で、向かいの椅子に座ってへへへ、と笑っている。
何かと思ったが、どうやら髪が長くなったらしい。
あ、なんか髪が伸びたんですけど、といってくるくる回って見せてくれる。
エクステをつけましたとのこと。
社長もやって来る。
三人で小一時間ほど三号店の話し合い。
いつ頃開けて、人手は新たに何人必要か、店の内装はどうするかなど、決めなければならないことが沢山で、ぽかんとしてしまう。
帰りに社長がフグを食べましょうといって、東通りのたらふくという店を訪れる。
義母も来て四人で夕食。
刺身や唐揚げなどいろいろ出てきたが、中でも焼きフグがおもしろかった。
部屋に炭の詰まった火鉢を持ってきてくれて、タレに浸かった切り身や野菜を自分たちで焼いていく。
すると焦げた表面が細かな灰になって舞いはじめる。
それがだんだんみんなの頭に積もり、ちょっと雪にやられたような気持ち。
鍋には白子もいれてもらって、どれも美味しくいただく。
しかし実は俺は小さな頃フグにあたって死にかけたことがあって、食べながら内心ひやひやしていたが、妻に話すと、かわりに車に気をつけたら大丈夫でしょうという。
要はフグにあたるより車にあたる方が人生の上で確率が高いのだから、フグは気前よく食べて普段事故に気をつけておけば、どっちかというと死ぬ確率はほかの人より低くなるだろうという理屈で、なるほどそういう考えもいいかと思い、じゃあそれでといってフグは食べていいことに決まった。
お酒はビールや日本酒を飲んで、二十二時頃、酔っ払って解散。
帰ってすぐ寝た。

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