七福神日誌49

五時起床。
ガジュマルに水をやる。
仕事の準備をしていると二階から義母が巻き寿司をもってきてくれる。
リュックに詰めて、六時に出勤。
巻き寿司を食べながら昨日の日報や伝票に目を通す。今日のシフト表も確認。
いくつか届いていた事務所への提出物にサインしていると、鳥屋が「まいど、チューリップです」といって現れる。
袋を冷蔵庫の上に置いて帰ったので、全部とりだしてミートペーパーに包み、タッパに詰めておく。
鳥はすべて若鳥の朝引きで、串に刺さず骨付きのまま衣をつけて揚げる。ソースやマスタード、わさびポン酢などで食べるのがおすすめ。
七時から掃除。
今日は落語をききたくて、笑福亭仁鶴のCDをかけて作業する。
壷算、湯屋番、初天神など。
八時からユウさん、ムラさんが合流。
とにかくさむい、大寒波らしいですねと三人で話していると、八百屋の若旦那がやってくる。
相変わらずサンダルに半パン、ダウン二枚重ねのスタイルで、今日はさぶいな、まいたけ忘れたけどいけるかなと聞くので、昼までに届けてくれというと半泣きで帰っていった。
つぎに魚屋。マグロ、カキ、イカ、タコ、ホタテなどが届く。ついで肉屋。牛もも、牛すじ、豚ヘレなど。
野菜、魚、肉とすべて切って、すじコン、カレーも仕込む。
最後に粉を練り、十一時に開店。
十一時から十五時まではランチタイム。
二号店もオープンして半年ほどが経ち、いくらか常連さんもついてくれたのか、ちらほらとテーブル席に知った顔が座る。
昼過ぎにサワチーフがきたので揚場をぬけて挨拶にまわると、奥の席のご婦人からこれ箕面にいったお土産といってもみじ揚げというのをもらう。
見るともみじの形をした天婦羅で、かじってみると衣の中から本当に赤い葉っぱがでてきた。
甘くて美味い。
十四時に妻がむかえにくる。
今日はここで退勤。
サワチーフにあとを任せ、妻と京都へむかう。
阪急電車で、梅田から河原町まで一時間ほど。
到着して烏丸御池のイノダ、大国町の六曜社、三条寺町通りのリプトン、スマート珈琲店など、むかし妻とふたりでよく通った店をはしごして回る。
腹がたぷたぷになる。
俺は二十二か三の歳から、三年ほど、京大前の狭いアパートを借りて暮らしていた。
カフェや百貨店でバイトして、毎週月曜日には大丸横の銭湯に投銭の落語を聞きにいった、オフィシャルではそこの寄席で妻と出会ったことになっている。
当時、妻は京大の院生。一方俺も、誰かにどこに住んでるときかれると京大前のぼろいアパートだと答えてあわよくば京大生のふりをしていた。
スマート珈琲店ではホットケーキを食べる。
ここのホットケーキはべりっと堅焼きで昔から妻の好物。バターだけで美味く、ナイフをいれるとざくざく音がする。
玄関に石油ストーブとコーヒー豆を煎るでかいマシンがあって、ずっとあたたかくていい匂いがした。
満腹になり、「じゃあ私は銭湯にいってきます」という妻を見送る。
妻は今日もお気にいりのミツバチのダウンを着て得意気だが、すれ違った外国人に「チーター?」と声をかけられてちょっとびっくりしていた。
夕飯までの時間つぶしに、適当に商店街の古本屋をみて回る。
久保田万太郎の『春泥』、木山捷平の『大陸の細道』、井上光晴の『地の群れ』を入手。
十九時に妻と合流し、宿泊のホテルまで両親をむかえにいく。
これは俺の両親で、昨日、ふと岡山から遊びにきて、明日から京都に行きますというと一緒についてくることになった。
けっきょく朝から先にきて、錦市場や清水寺などの見物で一日歩き回っていたらしい。
夕飯は四人で京都市役所裏のブションという店で食べる。
フランス料理の店で、メニューをみてうわフレンチだと思ったが、注文したどの料理も一皿にしっかり量を盛ってだしてくれて美味しかった。
カタカナの難しい名前の料理ばかりだったが、父と母は去年まで箱根のレストランに勤めていてそれぞれ調理人としての洋食歴も長く、一緒にメニュー表をみながらこれはあれだね、なるほど、などと会話を弾ませている。
はあふたりとも専門家だなと感心したが、よくよく聞くと、前菜とかかれたページを指さして「これは前菜だ」「うんうん」、肉料理とかかれたページを指さして「ここにあるのはぜんぶ肉料理だ」「たしかに」などと、楽しげにいっているだけで、どうもそれ以上の理智に富むやりとりがあったかは怪しい。
食後、生まれて初めてシェリー酒というのを飲む。
甘い。
コンビニで夜食のせんべいなどを買って、ホテルに戻った。

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