Oasis / Definitely Maybe 30周年記念盤 (2024)
オリジナル盤も2014年リマスター盤も、それぞれの良さはありますが、どの角度から見てもオーウェンは少しやり過ぎたのではないかと思います。発売当時、彼らは「安いシステムで聴いてもそれなりの迫力が出る」と語っていましたが、正にその通りで、イヤホンあるいは中音量くらいまでのスピーカーで聴くのであれば、輝きと迫力に満ちています。
しかし肝心の大音量となると、蒸気機関車のようなシューゲイズノイズが曲全体を覆い、リアムの声が埋もれてしまいそうになることもしばしば。特に、愛してやまない”Columbia”あたりで顕著です。それが彼らの音と言われればそれまでですが、少しばかり残念な気持ちにもなるのも事実です。
今回30周年を記念して、Monnow ValleyとSawmills Studiosでの音源を発売してくれました。控えめに言って、最高です!!
Monnow Valley ミックス
インスパイラルカーペッツの頃からの知り合いであったデイブバッチェラーにプロデューサーを依頼しています。彼が選んだのは、各楽器の音が干渉し合わないようパーテーションで仕切り、ヘッドフォンでモニターしながら演奏する一般的な録音方法でした。しかし本格的なレコーディングを初めて経験する彼らにはそぐわず、戸惑わせてしまいました。彼らの持ち味であったライブ感を出せませんでした。
さて、このモノウバレーミックスの音ですが、オリジナル版と比べ、ノイズは鳴りを潜め、大音量で鳴らしてもストレスが全くありません。完成度は驚くほど高いです。百聞は一見にしかず。ライブ感がないと揶揄されてきましたが、是非とも大音量で聴いてほしいです。凄まじいまでのライブ感があります。
名曲 ”Columbia”なんて本当にライブ録音なんじゃないかと思うほどに鮮度が高いです。”Bring It on Down”は相変わらずの荒々しさでオリジナルと遜色ありません。かの有名なリフで始まる”Cigarettes & Alcohol”ですが、こちらも持ち味のパンク魂が炸裂、完成版よりも粗さが際立ち、魅力が倍増しています。
もちろん完成度の高さを求めるという点では、後のソーミルズでの再録音が不可欠でした。モノウバレーの録音で世に出ていたなら、今ほどの評価を受けていなかったと言われるのも分かります。完成版でのあのノイズが存在せず、オーウェンがかけた魔法 (音の壁)がまだ存在しないので、物足りなさもあります。
しかし、それを差し引いても余りある魅力があるのも事実です。何よりリアムの声が、天使のように美しく輝いているのです。
Sawmillsレコーディング
デイブバチェラーとのセッションはうまくいかず解雇となり、オアシスのライブの音響を支えてきたマークコイルと共に再レコーディングに臨みます。結果的には、満足にいく形にならなかったのですが、このソーミルズ録音はとても魅力に溢れたものになっています。何よりも精気に溢れています。
“Up in the Sky”の完成度は高いです。完成版より少しだけパンク感が増しますが、音の厚みはしっかり構築されています。そしてここでも”Columbia”が光ります。終盤以降は完成版と大きく異なり、歌詞も違い、ジャム感が色濃くて出ています。ノエルのギターがイキイキしていて最高です。デビュー曲”Supersonic”の前にプロモーション用に”Columbia (Demo)”をラジオ局などへ配布したように、彼らとアランマッギーはこの曲を相当気に入っていたことが分かります。個人的には、完成系よりもこちらのソーミルズバージョンの方が好みです。
名曲”Slide Away”は、最終的にモノウバレーでの録音が採用されています。ソーミルズでの録音も素晴らしいですが、本人たちもモノウバレーの完成度が高かったことに気づいているような気がします。
”Definitely Maybe”は、ロック史に名を残す彼らの偉大なデビューアルバムです。モノウバレーとソーミルズでの音源を聴くと、このアルバムが出来上がっていく過程を垣間見ることができます。ブートレグなどでその断片は聴いてきましたが、素晴らしい保存状態のまま世に出してくれたノエルの計らいには感謝してもしきれません。ファンへの究極のプレゼントだと思います。これから先も繰り返し聴き続けていきたいお宝です!
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