技術者が独立するために必要なこと
この記事は2017年4月20日に書きました。
その後、2021年7月15日に書き直しています。
公開当時、セカンドキャリアが注目され、早期退職が促された時期です。
当時、この記事は高いPVがありましたので注目されていたと思います。
2021年は新型感染症の影響により在宅ワークが推奨され、早期退職制度を利用した独立志向が強くなった時期でした。
独立に関する記事へのPVが増えてきたことから、内容を見直した記事になります。
2024年の今、定年年齢が60歳から65歳に延長されたり、定年後も継続雇用で70歳近くまで働くことが当たり前のような状況となってきました。
また特定のプロジェクトのみに参加するジョブ型雇用も広がっています。
最近の動向を加筆し書き直してみました。
1.はじめに
『フリーランスのエンジニアになりたい。』
あるいは、『時間や場所に縛られない仕事の仕方に憧れている。』
そんな思いを持つ人が、どの世代でも一定数は居ると思います。
反対に、勤務先の自分への評価が適正ではない。
そんな理由で独立を考える人も居ると思います。
2011年に技術士の資格を取得し、フリーランスのエンジニアとして私自身は個人事務所を開きました。
その後2014年に、経費管理を厳密にするため個人事業を法人化しました。
独立して13年。法人になって10年が経過しました。
独立を迷っている皆さんの参考になればと思い、これまでエンジニアとして体験してきたことをご紹介します。
2. 技術士資格の取得について
技術士資格を取得しようとした動機は、
『技術士会や親しくなった会員から仕事が融通してもらえるかも…。』
という見通しの甘さからでした。
技術士会は人的ネットワークの形成と最新技術の情報交換を、主目的としている会です。
2017年当時と比べれば、業務紹介はかなり増えてきました。
しかし、紹介された業務だけで生活できる状況にはなっていません。
また『技術士』の管掌官庁は文部科学省です。
産業界との接点の薄さや「技術士」に対する認知度も低い状況です。
そのため「技術士」資格だけで、収入につながる仕事は少ないです。
補助金申請のお手伝いで中小企業診断士の方々と組むことが多かったです。
新型感染症の流行を境に、設備投資の補助金は少なくなりました。
資格取得のメリットは、技術者としての能力が技術士法により担保されることです。特定の独占業務はないため、メリットと感じる点は少ないです。
海外で働く時、就労ビザ申請時に、個人として高度な専門知識を有している証として「技術士」のメリットを感じます。
客観的に個人の専門性の高さを証明する資格として利用できます。
大手企業での勤続年数はキャリアを示す時間であり、就労ビザ申請時に提出できる書類としては勤続年数ということになります。
個人の能力を客観的な証明書としては利用できません。
3、 経費の管理
仕事を受託すると、経費が発生します。
個人事務所を開業した当初は
『領収証を集め、整理しておけば良いのかな?』
と考えていました。
個人事業として開業した当初は、青色申告会で簿記を勉強しました。
法人化してからは、月度と期末の決算処理を顧問税理士にお願いし、それ以外の経理業務は自分で行っています。
経理業務は、決算などの実務以外に税法の変化もあります。
2015年から確定申告の色(白色か青色)に関係なく現金出納帳の記載義務化されています。
2022年1月1日から電子帳簿保存法が施行され、2023年10月1日から請求書適格請求書等保存方式(インボイス制度)が施行されました。
これから独立を考えている方は、簿記3級程度の知識と実務能力を身につけておいたほうが良いと思います。
同時に税法の概要についても知っておいた方が良いと思います。
また、年々、税法は変化し国税の在り方も変わります。
税理士との顧問契約を締結することも検討してみてください。
便利な記帳ソフトもありますが、簿記実務に関する知識がないと正確なデータ入力ができません。ある程度の簿記の知識は必要です。
4. 自己資金
明日のことは誰も判りません。
私の場合、サラリーマンを辞め会社の玄関を出たところで電話が入り、当てにしていた仕事が流れてしまいました。
その後、頭を下げて回った結果、開発の仕事を得ることが出来ました。
しかし受注後、7カ月間、お客様に拘束され他の仕事ができませんでした。
しかも、その7か月間は無収入です。
その間は貯金を崩し、生活費に回しました。
また法人化した初年度は収入と支出がほぼ等しくなり、次の売上まで現金が手元にありませんでした。
そのため法人市民税(地方税)や税理士への決算報酬の支払いのため、個人の貯金を崩すなど資金繰りに苦労しました。
そんな体験を踏まえ、独立する場合、自己資金は1年の間、無収入でも生活できる貯金は必要だと思います。
目安として500万円の自己資金は準備しておいた方が良いと思います。
5. 資本金
2019年に資本金300万円に増資しました。
最低でも設立時の資本金は300万円を目安に準備しておいた方が良いと思います。
じつは法人設立後、5年の間の累積赤字が約300万円でした。
ちょうど累積赤字と釣合う資本金の額が300万円ということです。
その時に準備した資本金と累積赤字の額が釣り合ってしまい、事業資金が枯渇するのは困ります。
その時に備え、100~200万円は準備しておいた方が良いと思います。
6. 事業計画の検討時に忘れられることが多い経費
事業経費を検討する時、忘れられることが多い経費項目を挙げておきます。
仕事を得るための営業経費
決算利益に応じて支払う県民市民税(地方税)
人件費に含まれる年金保険、健康保険などの社会保険料(法人負担分)
日々の生活費 (役員なら役員報酬。従業員なら適正な給与額)
自己資金については資本金と法人に貸与できる資金(借入金)の額を慎重に見積り、ご自身でご判断下さい。
7. まとめ
今回、大事な点として以下のようなことを説明いたしました。
技術士の資格だけでは、仕事は得られません。
経費を税務書類として記帳管理する簿記3級程度の能力が必要です。
仕事がなくても事業を継続し、生活が維持できる自己資金の準備。
8. エンジニアが独立するために必要なこと (2021年に追記)
エンジニアが独立するために必要な要素を考えてみました。
大学の工学部や工業高等専門学校を修了した学生、工業高校を卒業した生徒の多くは、就職した企業で事業維持・拡大に必要な技術開発を任されることになります。
最近では工業高校の名称を工科高校と改めました。
そして、より高度な実践力を養うために専攻科(2年コース)を設けています。
工科高校を卒業後、一部の生徒は専攻科に進学し、より高度な実践力を身に付け、学生自身が身に付け能力を伸ばせるようにカリキュラムが組まれています。
学校で学び自分の能力を育むことは大事なことですし、学校選びやその中で何を学ぶかも大事なことだと思います。
技術者として就職し活躍するにあたり、次の要素についてマネジメントする力が求められます。
【費用】(勤め先との交渉力)
技術開発に必要な開発予算や生活に必要な給与【情報・教育】(自己研鑽能力)
自己の成長に必要となる知見や継続的な教育の機会【経験・能力】(能力向上)
個人では用意できない研究施設を利用した経験や能力の獲得
これらの要素を自分のマネジメント力で用意できるようでしたら、「フリーランス・エンジニア」として独立しても大丈夫だと思います。
勤務先企業が用意した環境や構築してきたビジネスモデルの中で、エンジニアとしての能力は、より磨かれ育まれるものです。
エンジニアとしての能力は、個人の努力だけで高められるものではありません。
独立をお考えのエンジニアの皆さん。
独立をお考えのエンジニアの皆さん。
実際に独立して苦労した自分が、特に思いついたことをまとめた記事になります。
早期退職への応募や独立を考える前に、一読し改めて考えてみてください。
エンジニアとしての高い能力以外にも、管理職に求められるようなマネジメント能力も必要になります。
独立後の自分が想像できますか?