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たぬきち、サギにあった話

そのサギにあったのは、日曜の朝だった。

出勤前に訪れた駐輪場で1人ぽつねんとしていた。

いつからここにいたのだろうか、もしかしたら昨晩の雨に打たれていたのかもしれない。冷えた身体でじっとうつむいていた。

首をぎゅっと折り、顔を下に向け、「周りなんか絶対に見ない」そう言いたげだった。

声をかけようかと思ったが、乗るべき電車の時間が迫っており、そのまま駅へ急いだ。

あの、サギどうなったか。

仕事をしながらも、時折あのサギの姿が脳裏に浮かぶ。

仕事を終え、薄暗くなりかけた駐輪場に戻ると、あのサギはまだそこにいた。

朝、じっとしていた位置から少し移動していた。そっと近づくと、トボトボと距離を取る。

そして、遠い目をしながらまたじっとしている。

どうしたものか?今日は日曜日。「ここにサギがいます」と誰に伝えたらいいものか。

サギから少し離れた場所で、たぬきちも突っ立っていた。

すると、1人の女性が心配そうにたぬきちに近づいてきた。

「どうしたらいいんでしょうね。警察にでも言ってみますか」

彼女の提案を受け、近くの交番に行くことにした。

交番には誰もいないようだったが、少し間をおいて、どこからか
「何かありましたか?」
と声がする。

ドアがガチャリと開いて、口をモグモグさせながら若い警官が顔を出した。

「こんなこと言っていいのか、駐輪場にサギがいるんです」

警官を連れ立って、駐輪場に戻ると、先の女性とサギが突っ立っていた。

サギを見るなり警官は、
「これはペットじゃないですよねぇ。ペットだったら保護するんですが」と言った。

悲壮感漂う鷺美

たぬきちは続けた。
「そうですね。でも野鳥は捕まえたり保護したりしてはいけないですよね。どうしたらいいんでしょう」


「内部で相談し、できることがあれば対処しておきます。また、ご連絡しましょうか」そう警官が言ったが、咄嗟に「そこまでは結構です」と答えてしまった。なんと無く良い連絡は来ない気がしたから。

その鷺は、鳥にしては大きいが、鷺にしては小さく見えた。
写真を撮って画像検索をすると、ゴイサギという種類のようであった。

小さな鷺は、虚な目で空を見つめていた。昨日まで一緒だった母や仲間を思い出しているのか。

鷺の嬉しい時の顔も悲しい時の顔もわかるはずないが、たぬきちの目には悲しそうに見えた。

メスかオスかそんなこと到底わからないが、あの鷺を思う時、気づけば鷺美さぎみと呼んでいた。

家に帰ってからも鷺美の姿が頭に浮かぶ。野良猫に襲われていないか、駐輪場から出て車に轢かれていないか、寒さで凍えていないか。

もう誰も信じないとでもいう様子の鷺美

今も鷺美は寒さと孤独の中にいるのだろうか。でも、野鳥を無闇に保護してはいけないし。

過去にスズメに餌付けしていたモト冬樹さんがネットで炎上していた記事を見たことがある。

翌朝、駐輪場に鷺美の姿はなかった。交番を覗いても鷺美の姿はない。

仕事が終わって、再び交番に寄ってみた。日曜日に勤務していた警官はおらず、次の出勤日に連絡してもらう約束をして帰宅した。

数日経って、交番から連絡があった。
「あの鷺は野鳥なので、警察ができることはありませんでした」

そうでしょうなぁ、、、

「怪我をしてる猫や側溝に落ちている猫(基本は猫)などがいれば消防署が対処したりすることもあるが、野鳥にできることはない。できるとしたら市役所の管轄だから」とのこと。

そうでしょうなぁ、、、

それはわかっている。でも日曜の夕方だったから、、、そう思ったが、わざわざ連絡をくれただけでも迷惑をかけているし、どうしようもない話。

誰も何もしていないのに、鷺美はいなくなったのだから、自分でどこかに飛んでいったか、誰かが持ち帰ったのか。

どうすることが良かったのか。鷺美のためにできることはあっただろうか。

困ってそうな野鳥に出会った場合、どうすればいいかご存知の方、ぜひご教授お願いいたします。

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はたらくたぬきち
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