自由詩『シロサイが燃える』

自由詩を公開いたします。発せられるべき声を焼却する歪んだ大きな力をそのままにしたくない。

シロサイが燃える

シロサイが燃える
うめきが軋む
氷河が壊れたらしい
太古のバクテリアの
小さな音楽が
開陳される
そのシベリアの便りを
聞いた旅行家の
旅行を諦めた手記
歯車の錆のような色の
古びた羊皮紙は
屠りの記憶
うめきが軋む
シロサイが燃えている

シロサイが燃える
体内に巣食う
寄生虫のうごめきに耐えられず
森の湖に落ちる
確かな不協和音を
聞いた祈祷師の
深き嘔吐
跪拝の形にも似て
注がれる悲哀の体液が
体内に巣食う
シロサイが燃えている

シロサイが燃える
イーゼルの前で
眠りに落ちた画家の
黄色い夢の中のこと
驚きつつ醒めて
つぶさに確かめる
心臓と喉の座標
その位置に番う
錫製の天秤に
一粒の砂が落ちる音を
絵筆に溶かす
落成を祝う画家の
イーゼルの前で
シロサイが燃えている

シロサイが燃える
表皮を侵す
否定めいた黒い爛れ
作動するものが
沈黙の凝りに
還元されるときに割れる
半透明の膜の音を
聞いた幼子は
まだ星の頃の記憶を宿し
懼れて高い木に登る
中心に宿る
まだ赤く熱い岩石に
細胞が跋扈し
表皮を侵す
シロサイが燃えている

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