宇宙のコンビニ
『空気がきれる剣』
『空気がきれる剣』で空気を切ると、別の次元が現れる。もし、君が何かに追われ、逃げ場を失くしたら、その空間に逃げ込めば良い。相手から君の姿は見えない。危険が去ったら、速やかにその空間から出ることをお勧めする。なぜなら、剣で切り開いた空気の傷は、時間と共に閉じてしまうからだ。中に閉じ込められてしまわないよう、ご注意。
宇宙のコンビニに、騎士がやって来た。
「こちらに、よく切れる剣はありますかな?」
騎士がよく通る大きな声で尋ねた。
「いらっしゃいませ、お客様。こちらのコンビニでは、生き物を傷つける物は置いていないのです。」
私は、宇宙のコンビニの店長。騎士に丁寧にお断りする。
「そいつは、困った。今度、立ち向かう竜は、最強最悪、今まで何百人もの騎士を八つ裂きにしてきた奴なのだ。百戦錬磨のわしでも、さすがに足がすくむ。」
騎士が残念そうに言う。
「なぜ、竜に戦いを挑むのです?」
私が尋ねた。
「村にやって来て、荒らすのじゃ。大人しく山で眠っておれば良いものを。いくつかの村が、奴のせいで壊され、みんな嘆いておる。」
「傷つける物はありませんが、守る物はあります。」
私が言うと、
「おお、では、そいつをくれ!」
と、騎士は喜んで言った。
「では、こちらへどうぞ。」
私は、騎士を店の奥の森へ案内した。
「随分、深い森じゃのう。肺の中まで緑に染まりそうじゃ。」
騎士は、しばらく森を見ていたが、
「では、行ってくる。」
潔く森へ入って行った。
暫く待ったが、騎士は現れない。首を長く伸ばし、森の中を覗き込んだ時、
「ありましたぞ!」
騎士が、一振の剣を手に現れた。
「これは『空気がきれる剣』。」
私は、騎士から剣を受け取り、説明する。
「これで空気を切り開き、その内側にできた空間に隠れると、相手からあなたの姿は見えなくなるのです。」
「よし、それをもらおう。」
騎士は、何重にも巻い自分のベルトの内一本を外し、
「これは、竜のヒゲで作ったベルトじゃ。竜のヒゲには、病魔、災厄を寄せ付けない力がある。このヒゲは、わしの戦った中でも、最も力の強い竜の物じゃ。これをあなたに差し出そう。」
と、私に渡した。私は、快くそれを受け取り、騎士は『空気のきれる剣』を手に、コンビニを出て行った。
騎士は竜と向き合い、胴震いした。怒り狂った竜が襲いかかってくる中、騎士は、『空気のきれる剣』をたくみに使い、一歩ずつ近づいて行く。竜は、現れては消える騎士に苛立ち、やみくもに突進してきた。
騎士は、竜の牙が自分の脳天に振り下ろされる寸前、空気を深く切り裂いた。竜が、突如現れた深い穴にはまりこみ、もがく。出ようと焦れば焦る程、闇に捕らわれ、出口がわからなくなる。その間にも、出口は急速に閉じて、竜を閉じ込めてしまう。
騎士は、出口が完全に消えてしまう前に、ちょろりとのぞいた竜のヒゲの先を切り取り、
「今回は、これでよしとするか。」
腕に巻き、町へ帰って行った。
(おわり)