宇宙のコンビニ
『おまつりうちわ』
お祭りの日には、おいしいものに楽しい音楽。愉快に踊って、嫌なことも悲しい気分も忘れてしまう。
この『おまつりうちわ』であおげば、気分高まり、お祭り気分。怒り狂った暴君も、ケラケラ笑って、踊り出す。
気分が沈んだ時には、うってつけの代物。ただし、この『おまつりうちわ』、あおぎすぎると、ゲタゲタ笑いが止まらなくなり、踊りをやめられなくなってしまう。くれぐれも、やり過ぎないよう、ご注意。
テストで連続3回、0点を取った子供が宇宙のコンビニにやって来た。
「今度、0点取ったら、おしり叩かれて、100点取るまで、遊びにいかさせてもらえないんです。」
子供は、青い顔を更に青くさせ、
「でも、取ってしまったんです、ほら。」
4回目の0点を掲げた。
「ぼくの人生は終わってしまった。たった紙切れ一枚の上に、大きなマル一個で、ぼくの楽しみ全てが奪われてしまう。間違っていませんか? たかが紙切れの上の出来事なんですよ!」
子供は、唇をぶるぶる震わせ言った。
「いらっしゃいませ、お客様。あなたのおっしゃる通り、あなたの人生は紙切れの外にある。あなたの価値も、紙切れの上には現れない。」
私は、宇宙のコンビニの店長。お客様に頷いてみせる。
「あなたならわかってくれる、とわかってた。だから、ぼく、ここに来たんです。」
子供は、安心したように頷いた。
「お願いです。ぼくを助けて下さい。」
「こちらへどうぞ。」
私は、子供を店の奥の洞窟に案内した。
「真っ暗だ。ねぇ、一緒について行ってくれる?」
子供は、私を見上げて言った。
「本当に大事なものは、一人で行って、その手につかまなければ、得られないのです。たとえ100人いたって、あなたの助けにはならない。」
子供は、唇をぐっとかみ、
「ぼく、一人で行ける。」
洞窟の奥へと入って行った。
しばらく経って、右手にうちわを持った子供が洞窟から出てきた。
「これ見つけた。でも、このうちわで何ができるの?」
そう言って、出し抜けに子供は、そのうちわで自分をパタパタ、あおいだ。
「おっと、やめ! やめ!」
私は、子供の手から、うちわを取り上げた。が、すでに子供は、お祭り気分で、陽気に笑って踊り出す。
「ああ、いい気分。楽しいねぇ。」
「これは、『おまつりうちわ』。怒っている人も泣いている人も、これであおげば、たちまち楽しい気分になり、笑って踊り出す。」
私が説明すると、
「それ、ぼくにちょうだい。ぴったりの物だ。」
手を伸ばしてくる。
「お客様、代金が必要です。」
「代金? ああ、お金か。ぼくのおこづかいは、消えてなくなったよ。ラジコン飛行機になって、パァッ、とね。」
アッハハ、と子供は、愉快そうに笑った。
「そうだ、これ、あげる。」
子供は、ポケットから、小枝を取り出した。
「すごいんだ、これ。金ののべぼうが埋まってる。ほら、ここに。」
子供が、小枝の真ん中辺りを指差した。見れば、キラリと光る筋が一本、入っている。流れ星がかすった跡だ。まだ、星のきらめきが、息をするように光っている。
「これで大丈夫でしょう?」
子供が尋ねる。
「ええ、確かに。受け取りましたよ。」
私は、その小枝をポケットにしまった。これでお茶をかき混ぜれば、金の泡が立つ。口の中でパチパチはぜ、楽しくお茶が飲める。
私は、子供に『おまつりうちわ』を渡した。
子供は家に帰り、両親の前で大きくマルのついた4枚の紙切れを並べた。
「ぼく、0点をとる天才かもね。」
子供の冗談に、両親の顔が赤く火を噴いた。その拍子、子供が『おまつりうちわ』でパタパタとあおぎだす。
「こんな紙切れ、どっか飛んでっちまえ!」
子供が叫ぶと、紙は、くるくる回って、窓から外へ出て行った。川へ落ち、海へと波乗りしながら流れて行く。
両親はそれを見て、大笑い。
「細かいことは、気にするな! 父さんは、テストで100点は一度も取らなかったが、生きるに何の損はない。バッタに足が6本あろうが10本あろうが、元気に働いて、おいしくご飯が食べれりゃ、100点満点だ!」
父さんは、お腹抱えて笑った。
「あなたは、自分をよくすることを学びなさい。いつも笑って楽しく、人を喜ばせることができたら、100点満点よ!」
母さんも、笑い転げながら言った。それから3人で手をつなぎ、ぐるぐる回って踊った。
子供は、うちわをあおぐ手を止め、
「自分をみがくって、どうすればいいのかな?」
と、考え始めた。
(おわり)
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