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宇宙のコンビニ

『魔女のステッキ』

 願い事がありすぎて、ひとつやふたつ叶っただけでは足りない人には、『魔女のステッキ』が、うってつけだ。どんな願い事も、たちどころに叶えてくれる。庭を花園に変えることも、山をアイスクリームに変えることも、思いのまま。ゴキブリを金貨に変えることだってできる。
 しかし、ひとたびこの『魔女のステッキ』を握った者は、ステッキと運命を共にする。ステッキが折れれば、持ち主の体も、パッキリ折れてしまう。物は丁寧に扱い、乱暴に扱わないこと。自分と同じに大切にしてほしい。

『魔女のステッキ』

 宇宙のコンビニに小さな女の子がやって来た。
「ようこそ、いらっしゃいませ。何をお探しでしょう?」
 私は、宇宙のコンビニの店長。お客さまに、丁寧に挨拶する。
「わたし、魔女になりたいの。魔法の杖をちょうだい。」
 女の子は、きっぱりと言った。
「魔法の杖は、力が強いのです。強い魔女しか、持つことはできないのです。」
 私は女の子に言った。
「あら、大丈夫よ。わたし、一人で夜、トイレに行けるし、歯医者さんでも泣かなかったもの。ねえ、聞いて。そのごほうびに、わたしが一番ほしい物をプレゼントしてくれるって、お父さんとお母さんが言ったの。だから、『魔法の杖』を頼んだら、何を買って来たと思う? ペロペロキャンディよ! そして言うの。『お前は魔女より、良い子になりなさい』って。わたし、良い子だわ。そして、魔女になるの‼︎」
 女の子は、鼻息をふーふー荒くして、足をドン、と踏み鳴らした。
「いいでしょう、こちらへ。あなたの望む物がありますよ。」
 私は、女の子を店の奥の林へと案内した。
 女の子は、林の中をじっと眺めていたが、
「あっ、今、リスがいた。あそこの木のところで、こっちを見てるわ。」
 と、林の中へ入って行った。
 しばらく経ち、女の子が一本の杖を握って林の中から出てきた。
「みて、これを見つけたの。」
 女の子が私に杖を渡す。
「これは『魔女のステッキ』。どんな願いも思いのまま叶う。けれど、ひとつだけ注意する事は、これでいじめっ子の頭を叩いたり、川底を突いたりしないこと。もし、このステッキが折れたら、持つ人も同じにパッキリ折れてしまうからです。」
「大丈夫。いじめっ子は叩くより、小さなかわいい子猫に変えちゃえばいいのよね?」
「そう、その通り。」
 女の子は、スカートのポケットから、青いビー玉を取り出した。
「代わりに、これをあなたにあげる。これ、特別なの。まん中に、魚の卵が入っているのよ。」
 よく見れば、小さな空気の玉が一つ、入っている。
「この卵から魚が生まれたら、教えて。わたし、見に来るから。」
 私は、女の子からビー玉を受け取ると、手の平に転がした。まるで、本物の海のように白い波が立ち、青い色は微妙に濃さを変えた。懐にビー玉を収めると、女の子に『魔女のステッキ』を渡す。
「生まれたら、必ず教えますよ。見にきてくださいね。」
「うん。」
 女の子は、嬉しそうにステッキを持ち、宇宙のコンビニを出て行った。

 女の子は、家に帰ると一番に、友達の人形に命を吹き込んだ。人形は、
「ワタシ、お腹が空いた。おやつ食べましょうよ。」
 と、女の子に言った。
「そうね、ちょっと待って。」
 女の子は、『魔女のステッキ』を振ると、家をケーキに変えた。二人でムシャムシャ食べていると、
「お家をかじるのは誰だい。」
 おばあちゃんが家から出て来て尋ねた。
「ねずみよ、おばあちゃん。大きなねずみ。」
 二人はくすくす笑いながら答える。
「ねずみなら捕まえなくちゃ。」
 おばあちゃんが網を持ってくる。女の子は、その網を綿菓子に変えた。それからお父さんの車を馬車に変え、二人で庭をぐるぐる回った。お母さんが出て来たので、髪の毛を花でいっぱいにしてあげた。
「こら! いたずらばかりしおって‼︎」
 お父さんが出て来て、女の子の手から『魔女のステッキ』を取り上げ、真っ二つに折ってしまった。
「あっ‼︎」
 女の子は悲鳴を上げる。そして大急ぎで『魔女のステッキ』を拾うと、ボンドでくっつけ、なお、テープでつなぎ目をぐるぐるに巻いた。
「お父さん、元通りくっつけ!」
 と、ステッキを振る。たちまちお父さんは一つにくっついた。
 それから、『魔女のステッキ』は、女の子の手からヒューンと抜け出し、魔女の森へ、折れた体を直しに飛んで行った。女の子のかけた魔法は全て解け、何もかも元通り。
 でも、お父さんは元気で、お母さんはテーブルに花を飾り、人形はいたずらっぽい瞳で女の子に「また遊ぼうね。」と、語りかけていた。
                           (おわり)


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