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宇宙のコンビニ

『お金ブタ』

 口から10円入れると、お尻から10万円出てくる貯金箱がある。いつもご機嫌で、10円玉をホイホイ、喜んで食べてくれる。ついつい、調子に乗って100円、1000円、続けて入れたくなってしまう。だが、そいつは御用心。
 『お金ブタ』は生きている。食べ過ぎれば腹を壊し、逃げて行ってしまう。欲をかいたが運の尽き。
 果報は寝て待て、焦らずゆっくりいこう。

『お金ブタ』

「両手を上げて机にうつ伏せろ。妙な真似をするな。お前の頭が火を吹くぜ。」
 強盗が宇宙のコンビニにやって来た。
「物騒な物をお持ちですな。」
 私は宇宙のコンビニの店長。どんな事態になろうとも、平常心を保つ。
「わかっているだろう、金目の物を出せ!」
 強盗は鉄砲を構え、ちろちろ辺りを見回した。
「ご覧の通り、ここはあなたの探している物はありません。お引き取りください。」
 私は丁寧に頭を下げた。
「ふざけるな! ここは宇宙一珍しい物の集まる店だ。宝物だらけなのはわかっている!」
 強盗は、覆面の下で叫んだ。無抵抗な私を縄でぐるぐる巻きにすると、
「おとなしくしていろ、おろか者め。」
 と、唾をはいた。
 私は言われた通り、おとなしく強盗のするがままに任せた。
 強盗は、店の奥に続く林に分け入り、あちらこちら覗き込んでは、「うへっ!!」とか「うおっ!?」とかの悲鳴を上げる。それに合わせて、巨人の鼻がくしゃみしたり、こん棒が飛び出し、強盗の頭を殴ったりした。
 強盗は、それらの物に手も足も出せない。なにせ相手は『物』だ。包丁を突き立てられても、鉄砲でズドンとやられても、へいちゃら。逆に何をされるかわからない。今しも恐竜の牙をさわり、八つ裂きにされるところであった。
 冷や汗を流しつつ、びくびくと池の淵を覗きこむ。人喰い魚に鼻先をかじられた。泣きながら、こちらに戻ってこようとし、何かにつまずく。
「おおっ、神様!!」
 強盗に神様がいるとしたら、とんだ神様だ。悪魔の回し者だろう。
 くじた足をさすりさすり拾い上げた物--それは、ピンク色した貯金箱『お金ブタ』だった。
「良いものを見つけましたな。」
 私は強盗に言った。
「お前のか? いくら入っている?」
 強盗は、『お金ブタ』をガサガサ振ってみる。
「音がしない! カラか‼︎」
 くそうっ、と悪態ついて、私に『お金ブタ』を投げつけた。ひょいっと私は受け止める。瞬時、縄を抜け出したのだ。縄より細くなればカンタンなこと。私の手はゴムのように長々伸び、『お金ブタ』を強盗の目の前に突きつけた。
「10円お持ちかな?」
「強盗に金を出せ、とは不貞野郎だ。」
 強盗は苦々しく笑い、「ほらよ。」と、10円玉を懐から取り出した。
「このブタの口へ入れてごらんなさい。」
 強盗が言われた通りする。
「おおっっ!!」
 おしりから、10万円出た。
「なんだこいつは! 大した宝じゃないか!」
 強盗は大いに喜んで『お金ブタ』を小脇に抱えた。
「お代をお忘れなく。」
「良い根性だ。がめつい野郎め。欲しけりゃくれてやる!」
 強盗は、私の胸に短刀を突き刺した。ぐらり、と私は前のめりになる。瞬時、男に一枚の札を投げつけた。札は、強盗の後ろ頭に引っ付く。しかし、彼は気づかない。『お金ブタ』を小脇に抱え、店を出ていった。
「フフフ。」
 私は床に顔がつく寸前で跳ね起きる。
「私をあまくみてはいけません。」
 
 強盗は隠れ家に戻り、
「そら、エサだ。」
 『お金ブタ』に100円食わせた。
 100万円、ぺろんと、出てくる。
 1000円、入れた。
 1000万円、出た。
 一万円--いや、100万円、一気に食わせた。
「ピギューー!!」
 『お金ブタ』は、悲鳴を上げると、窓ガラスをぶち破り、夜のしじまをすっ飛んで出ていった。
 後悔しても、宝は戻らない。過ぎ去ったのだ。男は床にひれ伏す。
 その後ろ頭で札が光った。男の体から生気が失われていく。髪は白髪に変わり、歯がぼろぼろ欠け落ち、目がくぼんでいった。
「あっ。」
 と、一声洩れた。男の胸に短刀が突き刺さっている。
 床に赤黒い染みが広がり、やがて、何もなくなった。
                            (おわり)


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