宇宙のコンビニ 2
『毒キノコ』
宇宙のコンビニには、珍しいものが色々ある。それらを片端から触っていくお客さんがいるが、時には、それが災いすることもある。
たとえば、これ、『毒キノコ』。これに触ったら、溶けてベトベトになってしまう。
そら、ちょうどナメクジに塩をかけた状態さ。匂いを嗅いだだけで、脳みそが溶けてしまう。ああ、いや、心配しなくていい。きちんと透明シートにくるんであるのでね。
いつだったかーーあ、ほら、噂すればなんとやら。おいでなすった。
やって来たのは、わし鼻とがらせた、おん歳◯百歳の若い魔女だった。魔女も宇宙魔女とくれば、百年二百年は、ひよっこ。千年万年、大ベテランとなる。ひよっこ魔女は、大ベテラン魔女への貢ぎ物にこの『毒キノコ』を買い求めた。
「いいですか、お客さん。お客さんの魔力が弱いと、このキノコを持っただけで、あの世行き。きちんとバリアーを張ったでしょうね?」
私は、手袋をはめ、棚の一番隅から『毒キノコ』を取り出した。さすがにこれは、誰でも手の届くところに陳列できない。
「かまわないよ、やっておくれ。」
魔女は、震える手で『毒キノコ』を受け取った。
「あっ!」
瞬時、魔女は消えた。ただ、魔女の立っていた所に、黒いマントのような水たまりが佇んでいるのみ。
「ああ、ダメだったか。」
それから数百年、何事もなく過ぎ去った。
今度やって来たのは、大ベテランの魔女。さすがに威力が違う。傍へ来ただけで、吹き飛ばされそうだ。
「『毒キノコ』は、まだあるかい?」
「ありますよ。こちらです。」
私は、『毒キノコ』を渡そうとした。
「ちょっと待ち!」
こんなことは、今まであり得なかった。もう一人、大魔女がやって来たのだ。
その大魔女『宇宙のバルマンママ』は、にゅっと横から爪を伸ばし、『毒キノコ』をわし掴んだ。
「なんてことをするんだい!」
先に来た大魔女が、しゃあっ、と毒の塊の息を吐いた。
「こいつは、わたしがもらう。文句はないだろう?」
宇宙のバルマンママが、愉快そうに言った。
大魔女も、宇宙のバルマンママの噂は知っている。とても歯の立つ相手ではないのだ。
ぶつぶつ文句を言いながら、宇宙のコンビニを出て行った。
「さて、いただくとするか。」
宇宙のバルマンママは、人差し指と親指で『毒キノコ』を掴むと、あーんぐり、口に入れた。
「ああ、うまかった。もう1ダース、注文しておくよ。」
次の『毒キノコ』が生えるまで、数百年。1ダース集めるのにーーさて。
(おわり)