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幸福を売る人♪の精神は、どこかに脈々と 

音楽学校でのいじめ事件、宙組娘役の自死とみられる事件、パワハラ問題でこの10数年、大きく揺れている宝塚歌劇団。
私は、宝塚が大好きだった祖母からの隔世遺伝で、小学生の頃から40代頭まで、断続的にながら宝塚を観てきました。
その間、熱を入れて応援したスターは3人。中でも、一番長く応援している(退団後もずっと)のが、元月組トップ・久世星佳さんです。
特に温かみのある「声」が大好きで(歌でも芝居でも)。

大きな事件がたて続けに起きただけではなく、その際の劇団側の対応の拙さに幻滅して、今はライブでは勿論、テレビ等でも全く観ていないのですが、
昨日、久世さんのディナーショー(3人のOGが共演)で、久々に宝塚の世界に触れました。

そこで改めて思ったのは…

宝塚の中の久世星佳も、外の世界の久世星佳も、同じ位私は好きなんだなということ。
楽しそうに愛おしそうに宝塚の歌を歌う姿も、youtubeで宝塚とは無関係の朗読の短編動画を配信する姿も、両方応援しています。

久世さん(以下、愛称の「のんちゃん」と表記)は、宝塚出身ということを前面に押し出さないタチのOGの一人ですが、照れ性なのと、「宝塚の世界は現役さんのもの」という持論故に、あからさまにしないだけで、実は宝塚愛のとっても強い人だと思われます。
その「宝塚は現役生徒のもの」という考えからの、一歩引いた「宝塚愛」の形が昨日のショーに表れていました。
「ライブプレイショー『Nonstop Dream Ⅱ』」と銘打ち、廃業が決まったホテルの従業員二人(久世星佳、未沙のえる)が、控え室に迷い込んできた女性客(風花舞)の相手をするというフィクションの大枠の中に、彼女達が現役だった頃の作品の設定やナンバーを、笑いをまぶしながら散りばめる、という仕立て(のんちゃん自身が台本を手掛けたらしい)。
同じく宝塚で以前、雪組トップ・朝海ひかるさんの最後となったバウホール作品において、演出家の荻田浩一氏が朝海の過去の出演作のナンバーを様々にコラージュして、新旧両方のファンに響く味わいの作品にしてくれたことを思い出させる構成でした。

あまり大きな声では言えませんが、宝塚の男役のOGが、時を経て男役の歌やダンスを披露する場合、往々にして(熱烈なファン以外には)変に生々しくとか痛々しく見えることが、正直あります。
宝塚の場合、いわゆる「時分の花」と独特の舞台化粧、鎧の如き衣装などによって、その魅力が成り立っている部分が大きく、そこから生まれる難しさなのかなと。

その点、今回のショーにおいては「宝塚」をそのまま再現するのではなく、廃業間近のホテルという、新阪急ホテルの実際の状況を反映した設定を挟み若干デフォルメすることによって、観客をスムーズにライブショーの世界に惹き込むことができたのではないでしょうか。
「懐かしくも新しい」、「宝塚の香りはするけれど、宝塚じゃない」絶妙な匙加減だと感じました。

「WANTED」「マンハッタン物語」「CAN‐CAN」「珈琲カルナバル」
「Me & My Girl」「バロンの末裔」「Non-STOP!!」「銀ちゃんの恋」…

わあ、作品名を並べながら思い出しただけで、また泣きそう…。
のんちゃんはじめ、出演者の皆さま、スタッフの皆さま
とっても盛りだくさんで大満足の、温かいショーをありがとう!

<追記>
当日のセットリスト
1 'S Wonderful~Mission:impossible~ ニコルのテーマ 「WANTED」
2 地下鉄は眠るのに最高「マンハッタン物語」
3 コーヒールンバ「珈琲カルナバル」
4 王様の休日「マンハッタン不夜城」
5 Never Give Anything Away「CAN-CAN」
6 Me and My Girl「Me and My Girl」
7 Live And Let Live「CANーCAN」
8 C'est Magnifique「CANーCAN」
9 ダンスはうまく踊れない
10 恋心「バロンの末裔」
11    I wish「バロンの末裔」
12   遙かなる大地「「バロンの末裔」
13   Once You Lose Your Hearts「Me and My Girl」
14   Child「Non-STOP 午前0時に幕は開く」
15   さよならの向こう側
16   大きな古時計
17   エイシェント・ドリーム「WANTED」
18   蒲田行進曲「銀ちゃんの恋」
19   夢で逢えたら


それにつけても…。
冒頭に触れた、宝塚を巡る不祥事に関しては、問題の大きさと根の深さに、長年のファンの一人として、とても悲しく憤りを禁じえません。
小林一三先生が創設し、慈しみをもって育てた時代の、家族的な温かさとか良い意味でのアマチュアっぽさが、いつの間にか「上意下達、年功序列」が絶対という、日本の縦社会、体育会系の欠点を凝縮したような閉鎖的組織へと変容してしまったようです。
そして今や、誰がどこが悪かったものやら、部外者には到底窺い知れない、「やりがい搾取」とさえ言える独善的ルールがまかり通る、一種の「魔窟」になってしまっているのではないでしょうか。例え少しずつでも、内部から変わっていってくれることを切に願います。

「私は夢を売るフェアリー、フェアリー♪」

長年宝塚歌劇団で歌い継がれてきた名曲の一節です。

「夢はいかが 希望はいかが 明るい笑顔 お安くしましょ
 幸せの歌 お買いなさい そうすりゃこの世は いつも天国♪」


この『幸福を売る人』も、『すみれの花咲く頃』共々、宝塚を代表する歌。

その精神が、のんちゃんというOGを中心とする輪に脈々と息づいているのを昨日感じたからこそ、宝塚の将来にも絶望はしないでおきたいです。

「虎に翼」ヒャンちゃんの台詞じゃないですけど
「きっと最後はいい方に流れます」と。


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