はじまりの入り口
社会人になって誰もが一度は聞かれる質問。
それは「なんで今の職についたのか」だと私は思う。
何かを始めるにはいつもきっかけがある。
私は今、看護師をしている。人の役に立ちたいとか子供の頃にお世話になったとかではない。もっとありきたりな理由、手に職をつけたかった。
うちは母子家庭で母に負担をかけたくなかった。だから、学費はできるだけ抑えたかった。
そこで、14歳の私が考えたのは大学まで公立に通うことだった。
学力は中の中ぐらい、俗にいう「真面目な生徒」だった私。
真面目だったが、学力において欠点があった。
そう、理系が絶望的に苦手だった。
当時、文系だけであれば学区内トップレベルの高校に入ることができると言われていた私。
しかし、理系が絶望的だった。勉強してどうにかなるレベルではなかった。文系と理系、月とすっぽんだった。
ある日、母が一枚の紙を持って帰ってきた。そしてある高校を推してきた。
創立してまだ10年も経たない生まれたての公立高校、偏差値は中の下ぐらい。家からもそんなに遠くない。一見してあまりに普通で魅力がないように感じた。
しかし、公立大学への推薦枠を持っている学校で、私の学力問題を解決し、公立大学への道を切り開くことができる条件を満たしていた。
あれよあれよと話は進んだ。オープンキャンパスは予定が合わなかった。だが、母が電話をすると快く一人の教師が対応してくれたのだ。新しい門前で初老のにこやかな女教師が迎えてくれた。彼女はぐるりと構内を案内したあと、私と母の質問に穏やかに答えてくれた。そして、私はこの時、ここに通うことに決めた。自然に、自分が通学するイメージできたからだ。
思えばこの時、対応してもらえなかったら、この人に出会っていなかったら、多分私の学歴は変わっていただろう。まず。大学には行っていなかった。
そして、この高校に通ってなかったら、今の私の10年来の友人や大学の同級生の夫にも出会っていなかったし、今の職場にも勤めていなかっただろう。
思えばここから私の人生をスタートしたと思う。
なんとなく退屈だった世界が、彩りを、輝きだした瞬間だった。