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通勤電車
立ち上がってぐっと足に力を入れた。
長い間座っていたために固まってしまった膝がピンと伸びて気持ちいい。
それにしても電車に1時間20分は長い。
座れたからいいものの、立っていると遅延を告げる車内放送にも、ついいらっとしてしまう。
転職前は電車に乗っている時間は20分ほどだった。
そういえば電車が構内に入ってくる時には、地元出身のファンモンのメロディーの一節が流れて、いつも聞いていた。
駅で録音して、妻に、「駅でヒーロー流れるよ」と言って聞かせたら「本当だ」といって喜んでいた。
以前、彼女がカラオケで歌ったとき、画面にアナウンサーのお父さんが仕事を頑張るビデオが流れていて、見入ったことを思い出した。
階段を降りて乗り換えを急ぐと、前方から人波が通路いっぱいに押し寄せてきた。電車が到着したばかりなのだ。
その波の一番左側の、人の通れる隙間を人並みと逆方向に進んでいく。
時々向こうの列から飛び出してくる人がいて、ぶつかりそうになる。
階段を上がって停車している電車に急いで乗った。
車内で真ん中に立っていた女性が僕を避けた。
なんとなく違和感を感じて周りを見渡すと、車両の中は女性ばかりだ。
「あっ」
慌てて外に出て隣の車両に乗ろうとしたら、ドアが閉まって電車が行ってしまった。
…まあいいか、
いや、待てよ、降りずに隣の車両に行けばよかった、しまったなあ。
僕は、こういう失敗をすると悔しさが尾を引く。たいしたことではないのに、
次の電車はすぐに来た。
チャイムに促されて乗り込むと、ふと、チャイムがメロディーとして聞こえた。
「あ、これ、曲だ」
よく聞くテレビコマーシャルの曲だった。
「お口クチュクチュモンダミン」
小さな声でつぶやいて、嬉しくなった。