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赫サタナ

深夜0時。
街灯の暗がりの向こうで何かが崩れる音がした。その音は一瞬にして暗闇中に溶け込み、遠くからバイクのエンジン音が聞こえた。
俺は布団の中で丸くなり、眠りにつくところだった。半分夢に浸かっていて、体からはあたたかい蒸気がゆっくりと吹き出していた。しかし、鋭い物音で膨張した眠気は破裂した。
 その日は一睡もできなかった。
車窓を叩きつけてすれ違う新幹線の機械的で暴力的なスピードで時間は過ぎていった。
朝になり、夜になった。今度は待ち伏せてやろうとバッティングセンターから盗んだ金属バットを握りしめて暗闇に潜んだ。目を凝らして闇の中の人影を睨む。固く握ったバットのグリップにじんわり汗が滲んだ。呼吸のスピードが加速する。その度に乾いた口から白い息が出る。頭の中まで真っ白になっていた。だけど、俺は負けたくない!今日こそはやっつけてやる。俺は瞬きもせず、黒い影と睨み合う。やつもこっちを見ていた。暗闇よりも深い真っ黒の瞳。彫刻刀で掘ったような鋭い輪郭の目。街灯の光を反射して、ギラギラ光っている。

深夜3時。街灯の灯りが一斉に消えた。

あいつは一面の黒い視界の中に溶け込んでしまった。そして音もなく近づき、不意に背後からゆっくりと抱きついた。裸体を密着ささて、水死体のようにブヨブヨした冷たい手で優しく体中を撫でる。そして乱暴に俺の口をこじ開けて、冬の寒い夜に温もりを求めて布団の中でにでも入るかのように、体を喉の奥へ滑り込ませた。黒い景色を引っ張りながらあいつが体の中に入っていくのを感じた。嗚咽と屈辱で涙が止まらない。おれは何千トンもの圧力を加えるプレス機で怒りを圧縮させた。やつはとうとう、俺の体に全身を潜り込ませた。目を開いて辺りを見回した。あたりは明るくなっていた。

それから永遠に夜は来なくなった。
それからいつも腹が痛い。俺は健康な老後のために毎日積極的に毒を食べている。血まみれの弦を引っ掻いて、ギターを爆発させながら。

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