【ショートショート】この世の終わり
海辺まで来た。
今日は平日だが、僕は代休を取っている。
息子は高校へ行き、カミさんはパートで出かけている。
何もする事がない僕は、ブラブラと散歩をし、海辺まで来たのだ。
11月1週目の晴れた午前11時過ぎ。
きちんと整備された砂浜の上にあるコンクリートの遊歩道には、珍しく人がいない。
犬の散歩をするのには遅すぎるし、子供たちを遊ばせに来るのには、少し早すぎるのか?
東に延びる遊歩道は、2㎞ぐらい先まで見通せるが、人はその2㎞先にぼんやりと二人だけ見えるだけだ。
東へ行くと、海に面したカフェがある。
僕はそこを目指す事にして歩いてる。
空は白っぽい青色で、太陽は低めに輝いている。
南東の空に突然、ピカっと光る点が見えた。
その点はゆっくりと大きくなってきた。
人工衛星か?それとも火球?
僕はスマホを取り出し、写真を撮った。
今日の夜に、カミさんと息子に話すネタが出来た。
点はますます大きくなってきた。
それに伴い、ゴーっという音が小さく聞こえ始めてきた。
何か、不吉な事が起きそうだ。
そう思った瞬間、光は目が見えなくなるほどの白さで辺りを照らした。
落ちてくる!
想像を超えた大きな球が、海に着水した。
着いた瞬間、空気が一時止まった。
僕は息の仕方を忘れた。
少し遅れて、海水がビックリするほどの量で、跳ね上がって来た。
海辺の横を走るJRの線路に普通電車が入線してきた。
車両に大量の海水がぶつかった。
8両編成の車両があっという間に横倒しになった。
次の瞬間
海の底から光と炎が噴き上がって来た。
少し遅れて、ゴォォォォー、ゴン、ゴッゴーーーーン! という爆発音が聞こえた。
爆風で飛ばされた。
僕は背中から落ちた。
岩のモニュメントに頭をぶつけた。意識が飛んだ。
何も聞こえなくなった。 多分、耳をやられた。
爆風は猛烈で、風だけではなく色んなものを飛ばしてきた。
石や枝や板が、僕の身体に当たった。
目が覚めた。
目の前は相変わらずの白く眩しい光の中だが、防風林の松林は炎に包まれていた。
逃げ出さなきゃ…
そう思うが、僕は動けなかった。
多分、神経回路を切断している。
目の前が赤くなってきたのに気づいた。
それは頭から出ている血が、目を伝って滴っているからだと認識した。
轟音がした。
次の球が着水した。
同じように空気が振動した。
三発目の着水までは覚えてる。
後は…
ブラックアウト
了
毎日、世界のどこかでこんな目に遭ってる人々がいます。
僕は無力ですが、こんな事がなくなるように祈ってます。