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4-6 統合推進者に求められる「胆」

率先垂範の心

 統合推進者に求められるスキルとしては「胆」が大切である。ここでいう肝とはビジネスにおいて課題に向かう姿勢である。どんな危機的状況に置いたとしても、その場において必要な行動を率先垂範する姿勢であり、たとえ一時的には嫌われようとも必要なことを発信する胆力である。

 統合推進者が売却サイドの企業に送り込まれるとき、迎えいれる側が確実に抱く感情がある。それは、その人は私たちにとって味方なのか敵なのか、単なるお飾りなのか強権者なのかということである。単に発信する言葉から感じられることのみならず、一挙手一投足が全て先ほどの感情判断の対象になる。統合推進者においてPMIを実現する上で絶対的に必要なことはその組織に対して影響力を発揮することであり、敵認定されて反旗を翻されたり、単なるお飾りと認定されて面従腹背されたりしたら進めるべきものも進めることはできない。

 ある人の話だが、異なる言語圏に派遣された統合推進者が、最初の幹部を前にしてスピーチするとなった時、慣れない言語で話は拙ないばかりか、緊張で足が震えて、内容もボロボロになり、聴衆の反応は冷ややかなものとなったらしい。通訳などを使わずに頑張ったことは評価できるが、そのままでは統合推進者の発信はスルーされ、面従腹背の関係性ができあがってしまうだろう。その人は、そこで打ちひしがれるだけで終わるのではなく、すぐさま予定になかった宴会を設けて、率先して自らをさらけ出し、酒の勢いも借りて片言で思いの丈をぶつけ、最後には肩を組みながら英語の歌を歌った。結果として「この人は人間的に信用できる」という信頼を勝ち得たのである。とにかくどんなピンチの状況でも逃げずに向き合い続ける「胆力」が求められるのである。

孤独を打ち破る本気

 統合推進者は孤独である。まず、信頼関係がそもそも薄いにも人間関係の中にある一定の権力をもって送り込まれるのである。お酒を酌み交わすことで得られる人間模様や、1on1などを通じて不満を吸収することもできるであろう。しかし本当の意味での影響力を及ぼせるようになるためには、同じ釜の飯を食うだけでは足りない。それは危機的状況においても逃げることなく前線に立つ勇気であり、新たな領土を広めるために誰も手つかずの土地を、たとえ誰もついてこなくても一人で開墾しようと懸命になって耕している背中を見せることである。まさに「本気は伝播する」のである。逆にこの気概がなければ統合推進者としての影響力は薄いものになるであろう。平時においてはどっしりと構えていることは大事であるが、いざ動くとなった時に真っ先に行動し、たとえ火の中であったとしても先陣を切って指揮を執るくらいの覚悟が必要である。

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