小栗隆志

株式会社カルチベートの代表を務めております。M&A後の事業・組織統合をサポート…

小栗隆志

株式会社カルチベートの代表を務めております。M&A後の事業・組織統合をサポートするコンサルタント事業を営んでいます。

マガジン

  • After M&A ~PMIのリアル~

    M&Aの成功を大きく左右する、事業や組織の統合作業であるPMIを進める上で有用な情報をまとめています。

最近の記事

7-3 ボタンの掛け違い③(支配者)

支配者として振舞う  M&Aというイベントを経た後は、資本関係上は親会社子会社という従属関係になったり、たとえ対等合併であったとしても、新しいリーダーを一人に決めなければならないので序列がはっきりと決まってくる。序列の上位に入ってくる社員は、組織文化も異なる新しい人間関係のなかでリーダーシップを発揮していかなければならない。その際に、「自分が新しいリーダーだ」ということを見せつけようと、過度に自分の立場を強調し、新しい組織を束ねようとして失敗している例がある。まさに「支配者

    • 7-2 ボタンの掛け違い②(変革者)

      変革者として振舞う  買収した会社に送り込まれる人は、これまでの仕事でそれなりに評価されてきた人が多い。自分の仕事の進め方にある程度の自信を持っているのである。それゆえに「自分の役目は買収した会社を立て直すこと」とか、「自分のやり方でこの会社を成長させる」など、肩ひじが張った状態でPMIを進めることもある。一方で、買収された側の会社の現場社員はできるだけ、今までのやり方を変えたくないと思っている。ここにボタンの掛け違いが起こる。  組織にも慣性の法則が働く。これまでのやり

      • 7-1 ボタンの掛け違い①(救世主)

        PMIにおけるボタンの掛け違い  買収された会社は、子会社としてもしくは吸収合併された会社として、親会社と一緒に事業に取り組んでいかなければならない。その際、親会社からPMI担当と呼ばれる人が買収された会社に送り込まれるのが一般的である。その担当者は、社長としてくるとこともあれば、単なる親会社とのつなぎ担当としてくることもある。いずれにせよ、この担当者の存在は、買収された企業にとっては一緒に未来を創っていく同士にもなれば、会社や組織を荒らす脅威にもなりえるので、受け入れ側が

        • 6-8 モテない買い手企業④

          優柔不断な会社  「どこに行きたい?」と相手に聞くばかりで、自分の意思を発信してくれない人は、相手のことを思ってくれているようでいて相手に依存している人が多い。聞かれる方も、最初の内は自分のことを尊重してくれているように感じるかもしれないが、やがて相手の優柔不断さに物足りなさを感じてしまう。  M&A直後は、売り手企業もこれからどのような変化が起きるのか不安になっているものである。そのタイミングで強引に何かしらの戦略の変化を求めたり、新しい制度を導入されたりすると不満も大

        7-3 ボタンの掛け違い③(支配者)

        マガジン

        • After M&A ~PMIのリアル~
          36本

        記事

          6-7 モテない買い手企業③

          口先だけの会社  付き合う前は「一緒になったら毎週デートしよう」などと都合の良いことばかり言って、付き合った後に何もしない人は信用力が無い。M&Aにおいても、契約成立前は「経営ができる人材を送り込みます」「御社の文化を大事にします」「絶対にリストラしません」などと言っておきながら、いざPMIのフェーズに入るとあっさりと前言を撤回する買い手企業はモテない。  Day1においては、買い手企業が最初に売り手企業に対して挨拶する際に、「私たちのグループに入ったらもう安心です。撤退

          6-7 モテない買い手企業③

          6-6 モテない買い手企業②

          強みが曖昧な会社  企業を売るときの理由は、独自での事業展開の限界、株主の資金需要の確保、オーナーの高齢化による事業承継などさまざまだ。しかし、売り手は最終的には売却した会社や事業が安定もしくは成長してくれることを望んでいる。M&Aによって事業を成長させていくためには、掛け算の発想が必要になる。例えば、買い手企業が持っている人材力と、売り手企業が持っている顧客資産を掛け算することによってさらに事業を拡大させるといったいわゆるシナジーの発想だ。ここで、買い手企業が提供できる資

          6-6 モテない買い手企業②

          6-5 モテない買い手企業①

          頑固な会社  M&A契約の段階では、事業や組織について大まかな合意はするものの、細かいところまでは決められない。例えば、会議の設定や組織図の作り方など、事業を進めるのに必要なテーマにはじまり、職場でのロゴの取り扱いや、慶弔関係のルールなど、日々の活動における取り決めなどは決まっていない。さすがに事業にとって必要な部分は早めにすり合わせておくことが大切であるが、細かい部分は後回しにしても構わないテーマも多いものである。売り手企業にとっては、ひとつひとつが自分たちに起こる変化な

          6-5 モテない買い手企業①

          6-4 モテない売り手企業④

          秘密主義の会社  共に生きていくという事は、辛いことも楽しいことも共に分かち合って生きていくということである。辛そうにしているのに、何を聞いてもその理由を教えてくれない。嬉しそうに帰ってきたので、何をしてきたかを聞いても答えてくれない。そんな時、何か一緒に住んでいるのに一緒に住んでいないような秘密の空間がそこにあるように感じる。秘密にされた側は、今後も共にいきていくことに不安を感じるようになるであろう。開示してくれない人はモテない。  たまに、買い手企業に手の内を明かさな

          6-4 モテない売り手企業④

          6-3 モテない売り手企業③

          妥協できない会社  一緒に生活を始めるようになると、お互いの微妙な価値観の違いに気づく。朝ごはんはパンにするのかご飯にするのか。バスタオルは毎回洗濯するのかしないのか。寝る時は真っ暗にするのか明るくするのか。その都度、お互いに自分の欲求を伝え、理想の在り方を考え、お互いに妥協することで折り合いをつけていくものである。しかし、妥協できない人は変化することを嫌い、自分のこれまでの生活パターンに固執する。妥協できない人はモテない。  M&Aにおいては、会計、法務、人事などの本部

          6-3 モテない売り手企業③

          6-2 モテない売り手企業②

          自虐マインドの会社  付き合っている相手に「アジア料理を食べよう!」と提案して、相手は賛同してくれたにも関わらず、料理が机に並ぶとほとんど手を付けない人がいた。体調が悪いのか聞いてもそうでもない様子。後日、他の人から実はパクチーが嫌いだったと聞かされた。「それならそう言ってよ!」と思わず叫んでしまった。「自分には選ぶ権利がないから」と言われるがままに従属する姿勢は、謙虚を通り越してもはや自虐マインドに満ちている。自虐マインドで行動するする人はモテない。  M&Aは経営権の

          6-2 モテない売り手企業②

          6-1 モテない売り手企業①

          モテない会社 よくM&AやPMIは会社同士の結婚のように例えられる。恋愛や結婚に、モテる男女がいるように、M&AやPMIでもモテる買い手企業と売り手企業が存在する。両社でしっかりと話し合って、未来を共にすることへの合意がM&Aであり、契約後にはお互いの価値観をすり合わせ、さまざま起こる変化に協力しながら活動するのがPMIである。M&A活動とPMI活動ではそれぞれでモテる条件が少し違ってくる。資本契約の合意であるM&A活動の段階でモテる買い手企業は、しっかりとした事業基盤があ

          6-1 モテない売り手企業①

          5-4 本社機能シナジーの罠

          「かたより」の罠 PMIの初期段階ではプロダクトや顧客のクロスセリングによる売上向上よりも、機能統合による費用削減の方がメリットを生み出しやすい。その中でも特に検討されやすいものが本社機能の統合によるシナジーであろう。M&A後も自律的に企業経営を任す形態の子会社化であったとしても、本社機能だけは統合することでメリットを享受しようという会社も多い。特にM&A慣れしている会社においては、本社統合パッケージが整っており、M&A後すぐに統合プロセスを着手できるようになっていることが普

          5-4 本社機能シナジーの罠

          5-3 生産シナジーの罠

          「こだわり」の罠  一般的にコストコントロールが求められる製造やサービスなどの生産機能を持つ部署同士が生産拠点、生産プロセス、生産要員、生産設備を統合することによって効率を上げるということはM&Aにおける生産性向上においてよく語れるシナジーである。「同じような商品を扱っているのでこれで生産規模が倍増する」「生産プロセスを統一することで両社がノウハウを共有できるようにする」「これをきっかけに工場を一緒にすることで、運営費を下げる」などである。飲食や小売りなどのサービスなどのソ

          5-3 生産シナジーの罠

          5-2 購買シナジーの罠

          「しがらみ」の罠  購買シナジーもM&Aにおいて語られやすいものの一つである。特に似たような事業同士による水平統合の場合、仕入れ、物流、プロモーションなどビジネスに関わる全ての購買活動においてシナジー検討を図れる。購買活動において得られるシナジーとは大きく3つある。一つ目は安い方に寄せるというという方法である。具体的には物流において各拠点まで資材を運ぶときに、A社は輸送会社との契約交渉により130円/個となっていが、B社は通常通りの150円/個となっていたとする。この状況で

          5-2 購買シナジーの罠

          5-1 顧客シナジーの罠

          「あまよみ」の罠  M&Aのシナジーでよく語られるものの一つに顧客シナジーがある。コンシューマー向けビジネスでも、法人向けビジネスでも、似たようなニーズを持つターゲット顧客に対して双方のプロダクトをお互いに販売することで売上を高めていこうという、いわゆるクロスセルによるシナジーである。目の前に実際に顧客が存在しているので、戦略紙面上では簡単に実現できそうに語られやすい。しかしながら、以下の要因での障壁が立ちはだかりやすいことを理解しておかなければならない。ポイントは「あまよ

          5-1 顧客シナジーの罠

          4-6 統合推進者に求められる「胆」

          率先垂範の心  統合推進者に求められるスキルとしては「胆」が大切である。ここでいう肝とはビジネスにおいて課題に向かう姿勢である。どんな危機的状況に置いたとしても、その場において必要な行動を率先垂範する姿勢であり、たとえ一時的には嫌われようとも必要なことを発信する胆力である。  統合推進者が売却サイドの企業に送り込まれるとき、迎えいれる側が確実に抱く感情がある。それは、その人は私たちにとって味方なのか敵なのか、単なるお飾りなのか強権者なのかということである。単に発信する言葉

          4-6 統合推進者に求められる「胆」