見出し画像

【精霊の贈り物】第1話 能力

【あらすじ】
何百年前から争い続ける魔王軍と人間達。
闇の能力を使う魔王軍、闇を特殊能力で無にする12人組織の12聖将。
人間は生を受けた途端にいずれかの能力を持つ。
能力は大まかに「近接攻撃能力」・「攻撃魔法能力」・「遠隔攻撃能力」・「回復能力」。
貴族社会で生きる人間達は能力で存在価値が決まる。
産まれた時に身分が高ければ高いほど、能力は高く、身分が低ければ低い程、能力は低く。

そんな世界の中である日、庶民の主人公が12歳の時に両親が突然姿を消し、
主人公が両親を探しに行く旅物語である。
そんな主人公には何か珍しい能力が…!?
主人公、仲間達はどのような冒険をするのか…そして結末は…

【補足】
キャッチコピー:友情×努力×勝利!王道冒険ファンタジー!
主人公:ライト・フォーレン
真っすぐな性格で正義感が強い。純粋さ故か空気を読むのも嘘をつくのも下手。飲食店を見つけてはヨダレを直ぐに垂らすほどに食べる事が大好き。

~☆~★~☆~★~☆~★~☆~★~☆~★~☆~★~☆~★~☆~★

【第1話】
―――この世界は能力で存在の価値が決められる。
 神々にお祈りをする教会。1人の女性は産声を上げる男の子の赤子を抱いていた。泣く我が子をあやす女性の前には顎に髭を生やす特徴的な男性が立っていた。

 男性はひげをさすりながら片腕を前に出すと魔法を詠唱し、腕の周りに白色の光り輝くうずまきを出す。白く輝く光は1分も経たずに消え、クスリと笑い詠唱を終える。

 「この子は全然能力無いね。一応、近接攻撃能力者みたいだから国を守る為に頑張ってよ。騎士団長になれたらいいね。あっ、能力低いから無理か。まっ、がんばってねー」

 笑う男性に赤子を抱いていた女性と、その隣に立つ夫らしき人物と共に睨む。

―――産まれた時に能力を鑑定するのは義務付けされている。

 夫婦は鑑定を終えると我が子に対しての発言に怒りがこみ上げていたが、神聖な場で怒る事も出来なく必死に堪え外へ出る。

 外に出ると真っ暗な視界の中、夫はランタンに灯りを灯す。ふわふわと白い物体が頭の上に落ち、冷たさを感じると2人は顔をあげる。

 「雪…珍しいわね」
 「本当だ…」

 空を見上げると次にふわふわと柔らかい雪は服の上に落ちる。冷たい…と妻は呟くと羽織っていたショールを赤子に巻く。

 「この子が風邪を引かないうちに家に戻りましょう?」
 「そうだな」

 2人は肩を並べ歩き始めると、妻は首を横に動かし夫の方へ振り向く。

 「ねえ、ルイエ。鑑定者の人って本当にむかつくわ…。庶民だからって…」

  ルイエは横目でチラリと妻の顔を見る。勘に障る言葉を発したものなら更に怒りが爆発しそうなぐらいの険しい顔にルイエは頭の中で言葉を選ぶ。

ルイエ 「レイア…。回復能力じゃなくてよかったじゃないか。無事に我が子を育てられるよ」

 ルイエは、火に油を注がないよう話すとレイアの肩をポンっと優しく叩く。

レイア 「そうね、回復能力だと教会に強制的に入れられるもの。私とあなたの愛する子供ですものね。名前はやっぱり、ライト…『ライト・フォーレン』ね」

 ルイエの冷静な言葉に気分が紛れたのか、レイアは穏やかな顔に戻る。

ルイエ 「はは!昨日まで考えに考えた名前だな!」

 教会から遠ざかると、手に持つ灯りだけを頼りに2人は肩を並べゆっくりと歩き続ける。次第に薄っすらと雪が積もり、2人の足跡が残る。

―――この世界では能力が、大まかに『近接攻撃能力』、『攻撃魔法能力』、『遠隔攻撃能力』、『回復能力』と分けられている。
 
 生まれた瞬間に教会で所持している能力を鑑定し、希少な回復能力者は強制的に教会入りとなる。

 7歳から学校に入学し読み書きや自分の能力を専門的に磨き、16歳になった暁には学校を卒業し能力相応の仕事に就く。

 能力が低い者は自国の兵に 能力が高い者は王族の側で働ける。魔王軍と何百年前から争っているこの世界は能力が高ければ高いほど優遇されていくのだ。

 強者ばかりが優遇されていく、このくすんだ世界。

———【5年後】

 時の流れは早く、ライトは5歳になった。好奇心旺盛、性格は真っすぐで純粋。心に一切、穢れのない少年ライトはこじんまりとした家の庭で木刀を握り、ルイエに突撃する。

ライト 「やあ!」

 子供ながらに地から空に向い飛び跳ねると、ルイエに向い縦に木刀を振る。ルイエは木刀を横にしライトの木刀を受け取めると片腕を伸ばし手を広げる。

ルイエ 「ライト!ちょっと待て!」

 ルイエの額から1滴、2滴と汗がツーと流れる。ゼェーハーと息を切らし、ストップの声を掛けると、ようやくライトの動きがピタリと止まる。

ライト 「なんだよ!父さん!良い所だったのに!」

 稽古を止められライトは頬を膨らませると、両腕をあげ持っていた木刀を荒く振り回す。

ルイエ 「ちょっと休憩しよう。父さん疲れちまったよ」
ライト 「俺は元気なのにー!」

 稽古をしてから2時間もの時間が経過していた。子供相手と云えど流石にルイエは疲れが溜まりその場で座り込む。

 幼いにも関わらず、十分に溢れる体力と力を持つライトに、ルイエは目を細め疑いの目で顔を見つめる。

ルイエ (本当に俺の子供なんだよな…?俺の子供にしては能力がありすぎる)

 2時間の稽古をしても尚、ライトは木刀を再び握りしめ、素振りをする姿にルイエは呆れ顔をする。

ルイエ 「ライト、父さんが仕事の間は何してるんだ?」

 質問を投げられたライトは素振りを止める。木刀を片手に手を腰に回し当てると、仁王立ちで笑う。

ライト 「動物と遊んでる!」

 子供からは予想も出来ない言葉が口から零れ、ルイエは驚愕する。

ルイエ 「遊ぶ!?家の近くにある山中でか?」
ライト 「うん!」
ルイエ 「はぁ!?」

 ライトは白い歯を見せながら力強く言葉を発する。ルイエは子供であるライトの性格を知っている。ライトは嘘をつくのが大の苦手だ。

 そして、虚勢を張るような言葉も一切口にしない。だからこそ、ライトの言葉にルイエは表情が強張り目線を下に移すとアゴに指を当てる。

ルイエ (あそこは最悪クマもいるんだが……)

 心の中で呟くとルイエは顔をあげ、ライトの顔を見つめる。

ルイエ 「あそこはクマもいるから父さんと一緒じゃ無い時は入るなと言っているだろう!」
ライト 「クマこの前いたぞ!」

 にわかに信じがたい言葉にルイエは目を大きく見開くと、立ち上がる。

ルイエ 「はぁ!?逃げてきたのか?」

 ライトは首を横に振り、木刀を空にあげる。

ライト 「ううん。後ろからこの木刀で殴った!そしたらあいつ逃げていきやがった!」

 クマと遊んだ、光景をライトは思い出したのか大笑いをしながら話す。ルイエはライトの言葉を鵜呑みにし、まさに開いた口が塞がらない状態だ。

ルイエ (ライトはもしかすると『天性てんせい能力者』なのだろうか……?いや、鑑定者には能力が低いと言われたしな…)

 産まれた時から人並より優れている能力を持つ者、【天性てんせい能力者】の文字がルイエの頭の中に浮かぶ。

 黙り込むルイエにクマとの光景を思い出し無邪気に笑い、はしゃぐライト。空がオレンジ色に染まり夕方となった時刻に、背後から声が聞こえ2人は振り返る。ライトの母親、そしてルイエの妻であるレイアが腕を組んでいた。

レイア 「あなた、ライト…。まだ稽古していたの?夕飯の時間よ」
ライト 「めしーー!食べる!」

 レイアの大きな声が庭に響くが、話している最中も関わらずライトは一目散に家の中に入っていく。レイアは走り去るライトの後ろ姿を見つめため眉をあげる。

レイア 「ライト!ご飯と言いなさい!もう、あなたの言葉を真似するようになったわ」
ルイエ 「細かい事は気にするな。いいじゃないか好きにさせたら。飯だ!飯!」

 ライトの後を追うように2人は家の中へと入る。家の中に入ると、テーブルの上にオムライス3皿、緑色の鮮やかなサラダが置かれていた。
 
 ライトはというと既に着席し、目の前に置かれているオムライスが早く食べたくソワソワとしていた。家族全員が着席すると口を揃えて「いただきます」と手を合わせる。

 ライトは不器用にスプーンを持つとオムライスをすくい口の中へ運ぶ。運んだらライトの顔が輝くように至福な顔を見せ、ルイエも美味しいと何度も口にしていた。レイアは2人の顔を見つめると幸せの余りに微笑む。

———【3時間後】

 日は落ち、時刻は夜となった。レイアはライトを寝かしつけると小さな窓から輝く星を横目で見つめ口元が緩む。ライトの頭上の横にある小さなテーブルから火が灯されているロウを持ちリビングへと向かう。

 レイアはロウを暗いリビングの上に置く。ロウと、かまどの火の灯りだけは物足りない部屋にルイエはランタンの灯りを灯し家族団らんで過ごすテーブルの上に置く。

 薄暗い部屋が一気に明るくなり、レイアは置いているロウに息を吐くと火は消え小さな煙が出る。

 視界が明るくなると、ルイエは椅子に座り、レイアはキッチンの方へと歩く。椅子に座ったルイエは息を深く吐き、キッチンの前に立つレイアの後ろ姿を見つめる。

 一方。レイアは鼻歌を歌いながらかまどの上に冷たい水を淹れたケトルを置く。そして食器棚からティーポットを用意しキッチン台の上に置き、紅茶の葉を中に入れる。ルイエはレイアの後ろ姿を直視すると眉を下げ、顔を俯ける。

ルイエ 「レイア、ライトなんだが…」

 ルイエはティーポットにお湯を注ぐレイアに小さな声を出す。

レイア 「あら、ライトがどうしたの?」

 ルイエの言葉に反応しながらレイアは手に分厚いミトンを手にはめると、湯煙の出るケトルの取っ手を握り、紅茶の葉が入ったティーポットにお湯を注ぐ。

 夫の口からは返答が無いが、レイアは特に気にも留めず鼻歌を歌い続けティーポットから紅茶をカップに注ぐ。ハーブの香りを放つ紅茶を注ぎ終えるとレイアは2つのカップを持ち運び静かにテーブルの上に置きルイエの対面に座る。

ルイエ 「本当に俺たちの子なのだろうか…」

 取っ手を持ちカップの器が唇に触れた所でレイアの手が止まる。

レイア 「はぁ…。あなた、あたしがライト出産する時に一緒に居たじゃない」

 レイアはため息を吐くと再びカップの器を唇に触れ少量の紅茶を喉に通す。

ルイエ 「俺の子にしては能力がありすぎるんだ…。俺の子じゃな…」

 と、ルイエが言いかけるとレイアの目から大粒の涙がポロポロと零れる。

レイア 「正真正銘あなたの子供よ…?」
ルイエ 「ご、ごめん。疑って悪かったよ」

 大粒の涙を零すレイア。ルイエは罪悪感を抱きながら席から立ち上がる。レイアの側まで駆け寄ると屈みハンカチを渡す。

ルイエ 「本当にごめん…。レイア」

 レイアは渡されたハンカチで涙を拭くと目は赤く腫れていた。謝罪するルイエに頷くと気持ちが収まりティーカップの取っ手を握り紅茶を飲み干す。

レイア 「あの子の容姿は私達、2人にそっくりじゃない?」
ルイエ 「そうだな、あのそっくりなくせ毛と顔は俺の子だな…。目はレイアの色にそっくりだ」

 2人はライトの顔や目を思い浮かべる。肩上まで伸びている薄く黄色の髪色のくせ毛。そして薄く青い透き通るような瞳。浮かべ終えると2人は顔を合わせ微笑む。

レイア 「あの子は産まれた時から…」
ルイエ 「ああ。ずば抜けて能力を持つ…」

 2人は口を揃え「「天性てんせい能力者」」と同時に言う。

レイア 「あの子の未来が楽しみでしょうがないわ」

 2人は我が子の将来を口角を上げたまま妄想する。ルイエは能力鑑定者に言われた言葉に引っかかるがライトが本当に国の騎士団になった姿。レイアは困った人々を救い出すヒーローになった姿。あれやこれやと、笑い声を出しながら妄想する2人だが、ルイエの笑い声がピタリと止まる。

ルイエ 「ただこの貴族性社会に能力を易々と発揮させてくれないだろうな…」

 拳を丸くし不安気なルイエの手を覆うようにレイアは振れ、首を横に振る。

レイア 「大丈夫、あの子ならきっと…」

 レイアは小さな窓から見える満天に輝く星を見つめ続け微笑む。

———【11年後】

 ライトは学校を無事に卒業し16歳となった。背は伸び、体格も年相応にガッシリとし外見は成長期真っ最中の好青年。ライトは部屋の片隅にある小さなテーブルの前に行くと座り手を合わせる。

ライト 「んじゃ、父さん、母さん行ってくるよ!」

 両親がいつも身に着けていたアクセサリーに挨拶をすると、玄関口まで走り扉を開ける。外は青い空が広がり、太陽はライトの姿を照らす。玄関外の地に足をつけると扉を勢いよく閉め全力で走る。

———部屋の中はライトの荒々しい行動に母の呆れたような声も、父の苦笑いする声も一切無く静まり返る。3年前、父と母は急に姿を消した。

 3年前当時、急に姿が消えてしまう現象が起きた。王族や貴族は何故か被害が少なく、庶民に多かった。

 ライトは家から外へ出ると馬車が通る固い土の道を歩く。

ライト 「今日も冒険者ギルドで依頼依頼~っと!」

 両親を探すためにライトは学校卒業後、収入が安定しない冒険者になった。

 冒険者は証として冒険者パスポートが取得でき他国に入国する際、提出すれば安易に入国できる大きなメリットがあった。

ライト 「今日の依頼は何があるだろうなぁ」

 そんな事を考えながらいつものように冒険者ギルドのドアを開け中へと入る。

 中に入ると沢山のテーブルと椅子が並べられ、ガヤガヤと騒がしい冒険者は椅子に腰を掛けながら雑談や情報の共有をしていた。冒険者ギルドの受付嬢はライトの存在に気付いた瞬間、自然と笑顔の表情で元気に挨拶をする。

 「おはようございます、ライト様!」

ライト 「メルさん!おはよう!」

メル 「今日の依頼は…」

 2人が話していると間に割り込むようにドアがバァン!と激しく開く音を鳴らす。冒険者達は一斉に静まりドアを開けた人物に注目する。冒険者達の目には爺さんが映り、急いで走ってきたのか息を切らしながらその場で立ち止まる。

 「うちの孫が魔物に捕まったんだ!誰か助けてくれないか!!」

 メルは受付越しだが落ち着きのない、爺さんに声を掛ける。

メル 「こちらで詳細をお伺いします。報酬はいくらを設定しますか?」

 メルの声で爺さんはヨロヨロになりながら受付まで歩く。

 「報酬はワシがあげられる物ならなんでも構わん!!頼む!!」

 具体的な報酬が決まらず、メルは困惑した表情する。

メル 「大体の報酬を決めて頂くと有難いのですが…報酬によって皆さん依頼を受けるか受けないかを決めますので…」

 爺さんは服の上から下まで物が無いか慌てて探し始める。上着のポケットの中に手を入れると、ようやく物が見つかり受付カウンターに置く。

「持ってるお金がこれで後はこのアクセサリーしか…」

 出された物はお金100シルとかなり古いアクセサリーで誰の目から見ても、明らかに価値があるとは思えないものだった。

メル 「どなたかこちらが報酬で魔物討伐をお願い出来ませんか??」

 周りの冒険者達に対して大きな声でお願いする…がざわめく。

「魔物討伐であの報酬は…」
「魔物討伐の報酬は最低でも10万シルだろ…。俺の冒険者ランクはそこまで高くも無いし…」

 この冒険者ギルドには『冒険者ランク』が設定されている。冒険者ランクにより、どのような依頼を今までこなしてきたか分かるような仕組みだ。

 冒険者ギルドに登録されている人達は自分のランク相応のバッジを冒険者ギルドから配布される。依頼主によってはランクの条件が決められているものもある。

―――【冒険者ランク】

 冒険者ギルドに登録後、ランクはブロンズ3から始まりブロンズの中でもブロンズ3→ブロンズ2→ブロンズ1と細かく設定されている。

 ブロンズ→シルバー→ゴールド→プラチナ→ダイヤモンド→スターとの順でランクは昇格していきスター1が最高評価とされている。

 王族や国家に関する仕事は最低でもゴールド以上の能力が必要であり、今回の魔物討伐はシルバー1以上の能力が求められる。

 シルバー1以上の能力があると月に約100万シルも稼げる事があるので冒険者ギルドの中でも安定で稼げる程度だった。

―――【現在】

「万が一でも闇に浸食されたら困るし…」
「浸食されたらどれだけ治療に金が掛かるやら…」

 冒険者達は次から次へと爺さんから目を背けていく。

 「だ、誰か頼む!!孫が孫が……!」

 爺さんは冒険者達から目を背けられ、段々と涙目になる…が、ここでようやく1人が手をあげる。

ライト 「じいさん!俺がやるよ!」

「ライト!お前正気か!」

 ライトの発言で周りの冒険者達は一斉に驚く。そして、ライトも受付カウンターに駆け寄り爺さんの隣に立つ。

メル 「ライト様はつい最近シルバー3に昇格されたばかりですが…」

ライト 「俺、そのアクセサリー欲しいからやるよ!」

 ライトは緊張感が無い顔でヘラヘラと笑い報酬の指輪に指を差す。爺さんは依頼を受けたライトを見ると涙を拭う。

 「引き受けてくれるのか!!ここから近くにある山中で孫が魔物に捕まったんだ!」

 目の前に立つ爺さんの話しにメルは頷くと、ライトの方を振り向く。

メル 「おじい様、詳細は分かりました。ライト様この依頼はシルバー1以上の方推薦の依頼ですよ?」

 メルは依頼に関して注意を促すが、ライトの顔からは一切の不安、緊張、怖さも無く自信に満ち溢れていた。

ライト 「大丈夫!まかせろ!俺はこのアクセサリーが欲しいから引き受ける!」

 2つもランク上の依頼に対して物怖じせずあっさりと受けるライトの顔を見てメルは顔を俯ける。メルは呆れたようにため息を吐くが、表情はどこか嬉しそうな笑顔をし、再び顔を上げ爺さんの方を振り向く。

メル 「おじい様の依頼を掲載する為契約魔法を掛けさせて下さい。ここから近くにある山中でお孫様を助ける為に魔物討伐の依頼で間違いありませんね?」

 爺さんは頷く。

 「ああ、そうだ」

 メルは手を爺さんの身体まで伸ばす。

メル 「レメート?」

 メルの手首に渦巻く魔法陣が出始め、爺さんの手首にも魔法陣が出る。

お爺さん 「レメート」

 爺さんが了承すると互いの手首から魔法陣は消え、依頼主との契約は完了となった。爺さんの手首には依頼が終えるまで小さな■の刻印が印された。

メル 「では次にライト様、報酬の契約魔法を掛けます」

―――冒険者ギルド管理者であるメルはトラブルを防止するために『レメート』と契約魔法を掛ける。

 冒険者ギルドでは以前依頼を受けて倒してもいないのに報酬だけ貰いにきたり、違う依頼と勘違いし違うものを討伐したりするトラブルが多かった。

 複数人等で依頼を受けて一人だけ報酬を占領したり、前もってどのように報酬を受け取るか事前に決め依頼の詳細を再度確認し契約魔法を掛けるようにしたのだ。

メル 「ライト様。報酬はこちらの物で間違いありませんね?」

 受付カウンターの上に置かれた100シルと古い指輪にメルが手を伸ばすと、ライトは頷く。

ライト 「あぁ、大丈夫だ!」

 メルは先程、爺さんに契約魔法を掛けた動揺に手を伸ばす。

メル 「レメート?」
ライト 「レメート」

メル 「契約完了です。」

 ライトの手首にも■の刻印が印され、契約魔法を掛け終える。

ライト 「じゃ、行ってくる!」

 ライトは冒険者ギルドを早々と後にし依頼完了の為、近くの山中に出かける。

「ライトは確かに強いが今回は魔物だぞ…」

 1人の冒険者は早々と出かけた、ライトの後ろ姿を見つめながら呟く。

———【山中を散策】

 依頼を受けたライトは近くの山中に辿り着き、辺りを散策する。

ライト 「この山中は昔よく散策したけど魔物なんてそうそう居ないはずなんだけどな。……ん?」

 辺りを見渡しながら歩いていると足元に違和感がありライトはふと見る。その場で立ち止まり、よくよく観察すると大きな足跡がありライトはしゃがむ。

ライト 「これは足跡からするとかなり大きい魔物だな。近いな!急ぐぞ!」

 近くに魔物がいる事に気付き、ライトは立ち上がる。急いで足跡を辿りながら走ると小さな子供が叫んでいる声が微かに聞こえライトは大きな木に身を潜める。

 「だれかーーー!たすけてよおおおーーー!」

 「ダァレもタスケにナンテくる、ハズナイ」

 ライトは物陰に隠れながら様子を伺う。子供は魔物の手の中に握られもがいていた。ライトは爺さんが助けて欲しいであろう子供なのだろうか…と頭に疑問がよぎるが、何よりも魔物が話している事に対して驚いた。

ライト (あれ、このブタみたいな魔物、話してたような…?語尾にブヒって付ければ通じるか?)

 身を潜めながらライトは考え込む。

 「うぅぅう。おじいちゃーーーん!」

 子供が大きな声で叫ぶと、ライトは冒険者ギルドで依頼を受けたお爺さんの孫だと確信をする。そして居ても立っても居られず、魔物の目の前に姿を現した瞬間、鞘から剣を抜き構える。

ライト 「おい!じゃなくて…。そこのデブったブタ、ブヒ!」

 声が聞こえた方向に魔物は振り向き視界に剣を構えているライトが映り、反応する。

 「ニンゲンか?オレはブタじゃない!イノシシだ!」

ライト 「イノシシか、ブヒ!ブタと言ってスマン!…ブヒ!」

 ブタと思っていたがイノシシだと魔物に指摘されライトは軽く笑いながら発言するが孫は会話のやり取りを聞きながらも早く解放して欲しさの余りに助けを求める。

 「そんな事いってる場合じゃないって!助けてよ!!」

「イヤ…。タイセツなコトだ!」

 ライトの発言が気にくわなかった様子で魔物はイラついていた。

 「どうでもいいって!!」

 2人のやり取りに孫は『今はそんな状況じゃないって!』と心の中で叫ぶ。

 「オマエ、このヤミにフれたらどうかわかってオレにイドんでいるのか?」

 身体の周りに闇を纏いながら魔物は声を荒げる。

ライト 「もちろんだ!……あっ、語尾に付けるの言い忘れた!ブヒ!」

 「オイ、人間!さっきから語尾にブヒブヒ言ってるのは何だ!!俺はブタじゃないぞ!!!イノシシだぞ!」

 更に怒り突進するもののライトは瞬座に回避し、魔物に向って大きくジャンプするとくるんと回り剣を空に向いあげると大きく縦に振る。

 「バ、バカな!!ニンゲンごときにヤミをマトってるオレをキれるワケないだろ!!グフッ!」

ライト 「それがあり得るんだって。…ブヒ」

 魔物はドスンッ!と横で倒れると、腹から紫色の血がドバドバと流れ、飛躍していたライトは地に着地し幼い頃の記憶を思い返す。

———【何年か前の記憶】

ジイ 「ライト、お前は魔物に対して本領発揮出来るぞ。何せ簡単に闇を斬ってしまう」

———【現在】

ライト (やったぞ!ジイ!)

 何年か前の記憶を思い返すとライトは心の中で呟き口角をあげ微笑む。

 「お兄ちゃん凄い!!一瞬だ!!」

 無事に助けられた孫は先程まで戦っていたライトの姿を実際に見て「かっこいいな~!」と心の中で感動していたようだった。

ライト 「さっ、じいさんが待ってるぞ!帰るか!」

 孫はライトに向かって笑顔な表情になりながら答える。

 「うん!」

 依頼を無事に完了したので、2人は冒険者ギルドに戻る。

———【30分後】

 ライトは冒険者ギルドに着きドアを開ける。

ライト 「ただいまー!ブヒ。…あっ、人間だから語尾にブヒって付けなくて良いんだった!」

 冒険者達と受付のメルは『ブヒって何だ?』と首を傾げる。だが、ライトは子供を連れている事に、冒険者達とメルは”魔物”を倒した…と確信をする。

 「おじいちゃん!!」

 「おお、無事だったか!!良かった、本当に良かった…。ライト様この恩は忘れませぬ…」

 孫は爺さんを見かけた瞬間に走りながら抱き着いた。そして抱き着きながら爺さんは安心し泣き崩れる。

「ライト本当に魔物を倒しちまったのか!」
「お前、闇を纏ってる敵に対しても戦える程なのか…?」

 ライトは冒険者達の注目の的となりガヤガヤと騒がしくなる。そして、ライトはメルの前まで辿り着くと、立ち止まる。

メル 「ライト様!おかえりなさいませ!」

 メルはライトにニッコリと微笑み、挨拶をするが心の中では無事な姿で戻ってきた事に気持ちは舞い上がっていた。

ライト 「メルさん見ての通り、無事に孫は助けたぞ!」

メル 「はい、では報酬をお渡しします!」

 爺さんから受け取った報酬をメルは受付カウンターの上に用意する。ライトが報酬を受け取ったと同時に魔物討伐依頼の紙は任務完了と書かれた。そして、ライトと爺さんの手首についていた■の刻印も薄っすらと消えていく。

メル 「ライト様今回の依頼の件ですが、シルバー1の昇格条件が『闇を纏った魔物討伐の任務を完了した事があること』なので今回の任務完了によって昇格です!」

 メルは銀色に輝くシルバー1と書かれているバッジを受付カウンターに置く。

 「ライト!お前一気にシルバー1に昇格かよ!シルバー1になったら受けられる依頼も多くなるぞ!」

~☆~★~☆~★~☆~★~☆~★~☆~★~☆~★~☆~★~☆~★

第2話


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?