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【精霊の贈り物】第3話 魔獣

―――【1時間後】

 2人はグリーン村に向う途中、森の中に入り、唯一馬車が通る道を歩き続けていた。

ライト 「ネイリーは王族だから金がいらないのか?」

 ネイリーは足を止め、ライトに顔を近づける。

ネイリー 「違う!私はっっ!!」

 ネイリーの剣幕に押され、ライトは焦りながら両手を振り後ずさる。

ライト 「そ、そんなに怒るなって…」

 ネイリーはライトから顔を遠ざけると、顔を俯け胸に手をあて深呼吸をする。心を落ち着かせると顔をあげ縦一直線まで続く木の道を真っすぐ見つめる。

ネイリー 「私はこの国をもっと良くしたいんだ。3年前、庶民が急に姿を消えた事件を知っているか?」

 見つめていたネイリーからライトは目を逸らし頷く。

ライト 「もちろん知ってる。『庶民隠し事件』だろ?俺の父さん、母さんもそれの被害者だ」

  ネイリーは驚き、ライトの方を再び振り返る。

ネイリー 「!?…そうだったか、それは辛い話をしてしまったな」

 隣に立つライトから反対側へと目を逸らし、申し訳ない顔をする。

ライト 「いいんだ、父さんと母さんを探すために俺は冒険者ギルドに入ったんだ。冒険者ギルドに入っていれば他の国も行けるからさ!」

 ライトは過去の辛い記憶にそのまま浸る事も無く、笑顔で前向きな言葉を吐く。

ネイリー 「あの事件後の風景忘れもしない。民は悲しみ憎しみに満ち溢れあのような思いはもうさせたくない」

ライト (あぁ…。ネイリーは王族でも本当に良い奴なんだな)

 正義感に満ち溢れるネイリーを見つめながらライトは心の中で呟く。そして、2人はグリーン村へと向かうため、止まっていた足を再び動かし歩き続ける。

ライト 「ネイリーは何で冒険者ギルドに入ったんだ?」

 歩きながらネイリーを見つめ質問をする。

ネイリー 「冒険者ギルドは民が困っている依頼が沢山あるからな。民の為になれば…もあるが、一番の目的は『庶民隠し事件』の真相の暴く為に入会したんだ。冒険者ギルドは情報収集には一番良いし、ライトがさっき言ってたように冒険者ギルドは他国に行きやすいからな」

 ネイリーの話にライトは頷くと手を叩く。

ライト 「ネイリーと俺はやりたい事が一緒な気がする!良かったら、一緒に俺と行動しないか?」

 ライトの提案にネイリーは思わずため息を吐く。

ネイリー 「ライト、お前が強いのは私も知っている。だが私も2席とはいえ貴族校の2席だぞ?庶民校の首席の能力は貴族校で例えるとせいぜい良くて5番目だ。私は足手まといはいらない。その分カバーしないといけないからだ」

 ネイリーから前向きな返答は貰えなかったものの、ライトには”諦める”という言葉の選択は無くニッ!と笑う。

ライト 「じゃあこの依頼で俺の活躍を見てから決めてくれよ!」

 諦める様子の無いライトに、ネイリーは再びため息を吐く。

ネイリー 「あまり無茶はするなよ」

ライト 「よーし!ネイリーに認めて貰う為に頑張るぞー!!」

 只でさえ、元気なライトは更に意気込み熱くなる。両手をあげ大声で張り切るライトにネイリーは冷静な顔で見つめる。

ネイリー (ライトには悪いが、庶民の首席と云えど大した事はないだろう…)

 そんなやり取りを続けながら森の中を歩き続けると、ようやくグリーン村の門前が見え始め、太陽の光も強くなる。

ライト 「ようやく、グリーン村の入り口が見えてきたな!」

ネイリー 「あぁ。そうだな」

 2人は太陽の陽射しが強くなり目を細めながら歩く。ようやく、グリーン村の門前まで辿り着くと、太陽の光に慣れ、目を完全に開ける。グリーン村の門の左右にはだだっ広い農場が広がり、そろそろお昼ご飯の時間なのか住民の人達は家の中へと入っていく瞬間だった。

ネイリー 「―――!」

 ネイリーの瞳に3体のゴブリン族が、人の視界に入らぬよう農場の端でニンジンを引っ張り袋の中へと入れている瞬間が映る。

ライト 「ん?ネイ———」

 ネイリーはライトの頭を押さえ門前にある茂みに身を潜めると、自分の唇に人差し指で押さえ「静かに」と口パクで合図をする。ネイリーはゴブリン族がいる方向に指を差すとライトもようやく気付きコクコクと頷く。

 ゴブリン族はニンジンを引っ張り続け、袋の中へと入れていくが、荷物が重くなり畑の端にある洞窟の中へと入っていく。

ネイリー 「少人数だな。後を追うぞ!その先がゴブリンの巣だ!」

 小声でライトに命令をすると、ゴブリンの後に続くように洞窟の中へと入っていく。

 洞窟の中に入ると各場所にたいまつが設置され、天井から水滴が1滴…2滴…とポチャンと静かに落ちる。各場所に設置されている、たいまつの灯りを頼りに、2人は歩き続け奥へと進んでいく。

 2人は階段を下り続けると、小さな部屋の一角が気になりネイリーは足を止める。辺りを警戒しながらネイリーはライトに小さな声で指示しながら小さな部屋へと入っていく。

ネイリー 「獣人族は知性はそこそこあるが…。これだと人並の知性だぞ。人が仕切っているのか?」

 壁にぶら下がっている服や武器を2人は眺めると、ネイリーは服や武器を手の上にのせ、作成段階を細かく確認する。

ライト 「獣人族は集団で群がるから囲まれないように気を付けろと授業では習ったけど…。服や武器を作ったりも出来るのか?」

 ネイリーはライトに向かって首を振る。

ネイリー 「いや、お前の言う通り獣人族は集団で群がって簡単なチーム連携を取り一斉に攻撃してくるものだ。物づくりは人間じゃないとさすがに無理なはずだが…。妙だな」

 頬に手をあて考え込むネイリーだが、ライトは再び下ってきた階段の方へ振り向く。

ライト 「ん…。なんか美味しそうな匂いするな…」

 ライトの突拍子の無い発言にネイリーはイラつく。

ネイリー 「こんな時に何言ってるんだ!…いや本当に料理の匂いがするな…」

 2人は匂いが漂う方へ階段をひたすら下り、歩き続けると洞窟の最奥であろう大きな広場へと辿り着く。豆粒ほどの人物像を発見すると、2人は更に警戒心を強めギリギリまで詰め寄る。

ネイリー 「かなり大きいゴブリンだな…。しかも闇を纏っている」

ライト 「あいつ食いすぎだろ…」

 広場の中心には、大きな鍋がグツグツと煮え大勢のゴブリン達は囲む。その中でも通常のゴブリンより10倍程、大きいゴブリンが鍋の一番近くに座る。

ネイリー 「ここの巣のボスだろうな。しかし…なぜ服や武器があそこまでしっかりしているのだ?」

 どのゴブリン達も服を着こなし、剣や棍棒、槍などの武器を片手に握っていた。

ネイリー (人が関与しているのか…?ゴブリンが服や武器など着ているハズが…)

 ネイリーが考え込んでいる時だった。

 「今日の鍋は何の肉だ?」

ネイリー 「!?!?」

 大きなゴブリンが人間の言葉で話している現場を、生で見たネイリーの顔は一瞬で真っ青になる。

ライト 「ネイリーどうした?顔が真っ青だぞ?」

 ライトはネイリーの顔を覗き込むと唇はガクガクと震わせていた。

ネイリー 「ライト、あれは私たちでは討伐は無理だ…」

ライト 「へ?なんで?」

 声が震えながら話すネイリーに、ライトは首を傾げる。

ネイリー 「あれは意思があり人間の言葉も話せる『魔獣』だ。『魔獣』は魔王の配下に近い存在だ。【12聖将せいしょう】ではないと我々で敵う相手ではない!!」


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