「てならいのうた」3日目
「白紙を前に」
白紙を前に
白紙のままにいると
天候とか山野の地形とか
動物とか草木とか
風や雨や注ぐ光
たまに人のこと
社会や世界の事件とか
要は喫緊の課題も
摘み立ての果実
のような欲望も
浮かんでは消える
だけだ
十歳前後
学校から家に帰ると
お店に走った
決まってくじ付きの駄菓子を買った
当たるとうれしかった
記憶では
五円十円を
自販機の下を探すみたいに
家中くまなく見つかるまで探し続けた
母の挙動を思い起こし
引き出しやタンスの中
落ちていそうなあらゆる場所
また時には母の財布の中
それでたいていうまく見つけていた
その頃の衝動のようなものと
根気と諦めの悪さと
ついこの間まであって
今もあり続けているのかどうか
薄まってきているのかどうか
薄まるものなのかどうか
共稼ぎで親は外
兄も妹も遊びに出て
ぼくひとり盗人じみて
いけないことも平気でした
今白紙を前にして
そんな衝動を思い出していると
生きると探すは同じことで
結局似たことをしているって思ってしまう
ぼくだけかも知れないけど
あれもこれも悲しい仕草だなと
生きるってそういうことだなと
そうして
こうして
少しずつ
白紙に文字が埋まって行く
※ 70すぎて毎日、詩の練習を始め、ホームページで展開して来ました。ほぼほぼ詩とは呼べない拙いものにすぎませんが、1年前のものからこちらにも、一日一篇の割合で、転載させてもらおうと思っています。現在進行形の作や、過去の作は下記のホームページのアドレスから見ることが出来ます。
http://kiminori.html.xdomain.jp/