夏目漱石『素人と玄人』全文
自分はこの平凡な題目の下に一種の芸術観乃至文芸観を述べたい。自分が何故こんな陳腐な言葉を選んだかというに、普通の人の使っている素人と玄人という言葉には大分の誤解が含まれている、従ってそれを芸術上に用いる時に、一種滑稽な響きを与える例が多いからである。
普通世間ではその道に堪能でないものを捉えて、あれは素人だと軽蔑する。それからその道に熟達したものを指して、あれは玄人だと尊敬する。そう言われるものも単にこの二つの言葉だけで自分の芸術上の位置が極まるかの如くに考えているらし