少女 【散文詩】
小さな絵のようなものを、心のなかの窓辺において…だれもがそうなのかは分からないけれど…少女は、おそらく、そういうふうにして、眠るまえの時間を過ごしている。毎晩、それを眺めながら、時には、水の匂いがしたり、起こるはずのない出来事を、空想したり、そうかと思えば、もっと何か、言葉にならないようなことを、たくさんの不思議なざわめきを、それらの気配を、感じて、ただじっとしている夜もある。
その絵に描かれているのは、かんたんなものだった。海の底に沈んでしまった王国と、雲と、それらをさがしている光…それだけ。少女のところにやってきた日から、ずっと、絵のなかのモチーフは変わらない。青みがかったキャンバスは憂うつで、疲弊していて、やさしくて、まるで、いつか訪れる、何ごとかの終わりを告げているようだった。少女は、いつも、その絵が変わらずにあることを、知っていた。けれど、そこに描かれている、海に沈んだ王国のことや、雲の名前さえ、まるで知らずにいた。知りたいとも思わなかった。怖がることもなく、嘆くこともなく、どんな夢たちも、そこに落ちることはないように思われた。それは、ただ、眠りにつくまえの、ほんのわずかな時間、どこからかやってくる、静かな夜の気まぐれのようで、どこにも辿りつかないまま、いつのまにか、その見知らぬ海の底で、少女は寝息を立てていた。琴の音色もなく、黒いリボンもなく、花々もなく。
そのようにして、少女は、物語のない千夜一夜を、奇妙な絵の幻影とともに過ごした。そして、何百日めかの夜、気がつくと、きみは大人になっていた。
〈了〉
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