夢なのに

思うこと、詩、短編小説、エッセイ、夢の記録…その他雑記。

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最近の記事

ランボオ

 バラバラに分解した時計の部品をプールに投げ込む。そして、それが水の流れによって、ふたたびまた組み上がる。  そんなことは起こり得ないと、誰もが思うに違いないでしょう。これは、何もいなかったこの地球上に、生命というものが誕生したことの確率の低さを表した例え話だそうです。だれがこんな表現を思いついたのかは知らないけれど、私はこの例え話が好きです。  そして私は、なんだか気が遠くなってしまうようなこの話を反芻しながら、それと同時に、どうして自分はこんなところで、遠い国の、会っ

    • 少女 【散文詩】

       小さな絵のようなものを、心のなかの窓辺において…だれもがそうなのかは分からないけれど…少女は、おそらく、そういうふうにして、眠るまえの時間を過ごしている。毎晩、それを眺めながら、時には、水の匂いがしたり、起こるはずのない出来事を、空想したり、そうかと思えば、もっと何か、言葉にならないようなことを、たくさんの不思議なざわめきを、それらの気配を、感じて、ただじっとしている夜もある。  その絵に描かれているのは、かんたんなものだった。海の底に沈んでしまった王国と、雲と、それらをさ

      • メロディーのような何か

         夕食を終えてぼんやりとしていたら、ふと草の匂いを吸い込みたくなった。部屋を出て、歩いて数分の公園へと向かった。線路沿いのその場所には、小さな池と、草むらと、ちょっとした木立がある。昼間は半袖で過ごせるくらいの暖かい季節になってきたけれど、陽が落ちると冷んやりした空気が戻ってくる。長袖のシャツ一枚で出かけて、ほんの少し肌寒い…そんな夜だった。遊歩道を辿るとき、目的地もないくせにいつものように足早になってしまう。やりきれない気持ちになる。もっと余裕のある足どりで、植物にふれたり

        • 「ムーミン谷の彗星」のこと 【感想文】

           わたしたちが毎日している過ちのなかで、いちばん多いのはたぶん、時間をたいせつにしないことかも知れませんが、その次か、そのまた次くらいに多いのはきっと、自分とは性格の合わない人たちを、すみっこのほうに押しやってしまう、ということではないでしょうか。ムーミン谷から旅をつづけて、何人ものはじめての人たちと出会うムーミントロールとスニフは、いちどもその過ちをおかすことがないように見えます。気むずかしいじゃこうねずみやヘムルたちのふるまいは、物語を読んでいるわたしたちをやきもきさせる

          ブルーランド回想録 n.6 【連載小説】

                   ✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎  おでかけの日。空はぼうしパンみたいな雲をいくつか浮かべて、気まぐれに陽を遮ったりしていた。   ちょっと早めに待ち合わせの駅につくと、改札口を出たあたりに黒のキャップをかぶったあおいさんがいた。と…手もとの端末が通知音を鳴らす。 〈いま改札口の横にいます〉  私は彼女から数メートルと離れていない場所で立ち止まって、すばやく返信した。 〈いまあおいさんの目の前にいます〉  ハッとして顔を上げたあおいさんが私を見つけて、キャ

          ブルーランド回想録 n.6 【連載小説】

          ブルーランド回想録 n.5 【連載小説】

           私はそっと手を振っている。だれに向けてだろう。妖精たちの国の、低い位置にある植物の葉や茎が、足を踏み出すごとに絡みついてくる。つめたい砂漠。水晶のなかの。そして、眠られぬ夜の浅瀬で、やわらかな薄紙に包まれている氷砂糖…。  目をひらくと、絵のなかの睡蓮が見えた。画集のページを切りとって壁に貼りつけただけのそれが、水のいろを揺らしながら、私を何処か別な場所へと誘うような気がした。絵ってそういうところがある。だから私は絵を見るのが好きなのかも知れない。  次に会えるのはいつだ

          ブルーランド回想録 n.5 【連載小説】

          ブルーランド回想録 n.4 【連載小説】

                   ✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎  どこかに大きな隔たりがあって、その向こう側へ行けずにいる。どこへも辿りつかない夜を、またひとりで歩きだす。物語はそもそも時間とともにある。かといって、時間が進行すれば、いつもそこに何某かの物語が付随してくるというわけではないらしい。つまり、おそらく、そこに人間がいなければ、叙事だろうが叙情だろうが、そういうものを紡いでいくことにはならないのではないか。たとえば、ピーターパンの冒険に出てくるネバーランドという場所があったとして、もしそ

          ブルーランド回想録 n.4 【連載小説】

          ブルーランド回想録 n.3 〈連載小説〉

           次の日、空が暗くなるのを待ってから私はコンビニへと出かけた。もしかして、私のこと、忘れてないかな。いやそんなわけないよね…、瞬間的に発動するネガティヴ思考…この性格ほんとどうにかしたい。すこしだけワザとみたいに上を向いて、息をしてみる。とにかく、借りたものは返さなくちゃいけない。なんて自分に言い聞かせたものの、私はコンビニに着いてもすぐには中に入れず、しばらく外からようすをうかがったりしていた。そしてお客さんがいなくなったのを見計らって、思いきってドアを開いてみた。  あの

          ブルーランド回想録 n.3 〈連載小説〉

          ブルーランド回想録 n.2 〈連載小説〉

                    ✴︎✴︎✴︎  学校の帰り、突然降り出した雨が街を沈めてゆく。そんな景色を電車の窓からぼんやりと眺めていた。こんなことはよくあることだ。そして、こういう時にかぎってカバンのなかに傘がないなんてことも、私にとってはよくあること。  改札口を出て、雨の降り込んでこない場所から地面に打ちつける雨粒を眺めていた。駐輪場では、だれのだか分からない倒れた自転車のハンドルが、水滴をしたたらせながら雲間からの日差しを反射させている。屋根の反対側は晴れてるのかな。すぐにや

          ブルーランド回想録 n.2 〈連載小説〉

          ブルーランド回想録 n.1 〈連載小説〉

          ブルーランド回想録  蛍のように、きれいな水辺をさがしていた。でもそんな場所は何処にもなくて、私たちは息の根を止められる思いで世界を彷徨うハメになってしまった。  これはそんな日々をくぐりぬけてきた私たちの物語。どこにも辿りつかなかった、二人のお話。みじめで、不器用で、消えそうで消えない儚げな光と。  ブルーランド回想録。           ✴︎  ベッドからもそもそと這い出して、カーテンをあける。夢の中で何か願いごとをしたような気がするけど、窓ガラスにふれた途端に、

          ブルーランド回想録 n.1 〈連載小説〉

          スノーランナー 〈短編小説〉

           植物を眺めながら海沿いの道を歩く。何を見ても名前なんかは分からないのだけど、その陽に照らされ風に揺れるさまは、そんな事とは関わりなく私の心を穏やかにさせた。振り返るとポッピが尻尾をゆらゆらしながら、気ままに後をついてくる。二週間ほど前からこのあたりで見かけるようになった茶色い野良猫で、近所の子どもたちからポッピと呼ばれている。人に対する警戒心がないらしく、皆に可愛がられ、民家の庭先で出汁殻のニボシをもらったり、小学生に抱えられて秘密基地の見張り番をさせられたりと、いろいろな

          スノーランナー 〈短編小説〉

          水色の国 〈散文詩〉

             水仙の花がひらくときを世界は知らない。  それは、行方知れずの恩寵。それは、どこにも入り口のない城。それは、高い塔のうえから、海をはるかに望む、古代からある幻想としての。  いつからか、わたしたちの心は湖の底にあって、呼吸を止めたまま。今はまだ目をとじて、待っている。波間に貝の舟を浮かべて、風たちは時をつくる。それだけしか、することがないから。わたしは階段を降りよう。何もかもが水に落ちてしまう。どんな季節もそれを遠ざけることはできない。ひとつひとつ、物語を辿っていた

          水色の国 〈散文詩〉

          ずっと真夜中でいいのに。(頌) 〈批評〉

           誰にだって真夜中の時間は訪れるものだとしても、それがずっと続くわけではないということは、窓の外の空が青く染まっていくようすを確かめるまでもなく分かりきったことだった…。そう、ずっと真夜中でいいのに。の音楽に出会うまでは。  世界が終わろうとしているのか、自分が終わろうとしているのか、それはたぶん、どちらでもあるのかも知れないけれど、だからといって正しさを放擲してよいことにはならないし、考えることをやめてしまっていいことにもならないだろう。そんなふうにACAねの歌声は、わた

          ずっと真夜中でいいのに。(頌) 〈批評〉

          夢で見た海辺に似ている 〈短編小説〉

           ほんの些細なことに過ぎない。それはたとえば、何処にでもある言葉をつかって、何処でもない世界について仔細に語ることだとか、あるいは、まるで本当に存在しているかのように、架空の人々におしゃべりをさせるだとか。つまり、そのようなことを言うのだが、そういったことは文学が長いあいだ続けてきたことだとしても、それが一体何だというのか。            プロローグ  海のうえを、やわらかな風がなでてゆく。夜は、月の光で波間を照らしながら、影をひとすじに追いかける。それは、音も

          夢で見た海辺に似ている 〈短編小説〉

          忘れられた航海日誌 〈散文詩〉

           小さな花々が群れをなして、わたしたちを狂わせる。終わりの日に向かうつもりだった陸地へ、いま舳先を巡らせたところ。ミルクの波をかきわけて。善悪の溶けあう温度をたしかめて。わたしたちは微笑みかわそう。火も星座たちも、ふりそそぐような空の下。  オルフェウス、ゆるやかに浸水する忘却の部屋。夢の手。物語のエピローグ。盗賊たち。リリパット国。魚たちの回廊をめぐる夜。繭のなかでくりかえし唱えられたあの言葉たちは、陰翳をまとった、顔のない声色によって、この陸地の地下水脈のすみずみにまで

          忘れられた航海日誌 〈散文詩〉

          はじめに。

           分からないもの、無意味なもの、そういうものたちが、この世界をひそかに支えているのかも知れない。そして、その分からないものや無意味なもののなかには、美しいと感じるものが時々見受けられます。  もしかしたら、美しいというのは、分からないことなのかも知れない。あるいは、無意味なことなのかも知れない。そんなふうに思うことさえあります。でも、その答えはいつも得られないまま、私はここにいます。  このような事情にもとづいて、私は何か言葉をならべてみたい。此処にやってきたのは、そのためで