結婚するかどうかの相談。大抵こう返し、そして皆んな結婚していく。
「結婚するかどうかって、どうやって決めるんだろ」
「ん、結婚したいの?」
「ん、ああ、どうしようかと思って。これで良いのかなとか」
「なるほどな。その子との結婚、嫌じゃないか?」
「嫌?、いや、嫌じゃないよ。でももっと良い人がいるんじゃないかとか、まだいうてそこまで歳もいっていないし、結婚しても良いんだろうかとか、色々」
「そうか。あのな、先に結論から言うけど、その子と結婚した方が良いぞ」
「え?何で?」
「お前嫌じゃないって言ったよな」
「ああ、言ったよ」
「男にとって、結婚が嫌じゃないって、とんでもなく貴重な事なんだ」
「え?どういうこと?」
「結婚が言わずもがな男にとって大抵は自由が制限され、時に理不尽とも言える責任を負わされる何かだという事はわかるよな」
「まあ、それは」
「加えて現代においては、結婚することで会社での地位が向上するなんていう副次的な効果もない。つまり、メリットは同棲以上にはなく、デメリットはたんまりある、というものだ」
「まあ、わからなくはないな」
「そんな負の要素ばかりのもので、嫌じゃないって、普通起きない感情なんだ」
「そうなのかな」
「例えば知り合いの女性を何人か思い浮かべてみろ。今まで出会った、というだけで良い」
「あ?ああ」
「その一人一人との結婚を想像してみろ」
「うん」
「どうだ、大抵の相手とは、明確に結婚が嫌な理由が浮かび上がらないか」
「…」
「…」
「あー…、うん、確かに。結婚したくないって感情ははっきりしてるかも」
「そうだ。その彼女には起きない、明確に嫌だという感情と理由が湧き起こるだろう」
「確かに、会話のテンポとか、容姿とか、考え方とか、何かしらちょっと結婚は嫌かもって思う何かがあるな」
「じゃあ次に、高校卒業後あたりから、今のその相手と出会うまでに要した年数を数えて」
「8年かな」
「…それがお前が次嫌じゃないと思える女性と出会えるまでにかかる年数だ」
「…!」
「そしてその時、相手がお前との結婚を望むかどうかはわからない。相手が望まなければ、もう8年だ」
「…貴重なのは良くわかったよ。でも嫌じゃないだけで、結婚したい!って感情はなくても良いのかな」
「それなんだがな。結婚したい!、は危険だぞ」
「え?」
「結婚したい!って事は、何かを相手に期待しているだろ。でもその期待通りにいくかどうかなんてわからないし、現実は辛いことの方が多い。そこにギャップがあればあるほど、失望は大きいし、それによって別れる可能性も高まる」
「うん…」
「だから、嫌じゃない、ぐらいでちょうど良い。コイツとの苦労は別に嫌じゃない。そんなぐらいの心構えというか、精神状態が、結婚には最適で、今のお前の話からすると、俺にはその状態に見える、ということだ」
「そういうことだったのか…」
「嫌じゃない、は最強だ。もっと良い人が、と迷っているぐらいが実は一番良い。この人との結婚が自分にとっての一番だ、なんて思ってる奴ほど盲目で危ない」
「なるほど」
「まあ、結婚式には呼んでくれ。祝儀は弾んでおこう」
「…わかった(苦笑)」