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【田中一村展】絵画で見せきるヒューマンヒストリー

東京都美術館の「田中一村展」を観てきました。
雨模様、空いているとされる平日午後ですら大盛況。

写真撮影不可で、SNSでどれだけ盛り上がっているかは分かりませんが…これは名展でした…!!

画家のヒューマンストーリーをドラマチックに、ほぼ画業のみで魅せきる圧巻の展示。

散逸した一村の作品を追い求め、収集し、整理し、編集する。その過程で失われた画家の人生に肉薄する。
本ならノンフィクション大作、テレビなら大河ドラマというところ。

尽力されたキュレーターや研究者、協力者の方々に敬意を表します。

と言いつつ、ドラマと違い、画家の内心までは計り知れません。手紙が残っている後半生はともかく、特に前半生は、展示されている絵そのものや、断片的な経歴、刻印などから推測するしかありませんでした。

そこをあれこれ考えるのが、鑑賞の醍醐味かもしれません。

豊富に残っている「神童」伝説。
子供としてはあまりに早熟な繊細な線。墨の濃淡。
見え隠れする彫刻家の父による熱烈プロデュース。

しかし父子の関係性は本当はどうだったんだろう。
父が手を入れた箇所を引きちぎったという逸話から垣間見える、反発、プライド、激情。
父には、優秀な息子への嫉妬もなかっただろうか。

ストレートで入学した芸大をあっという間に退学。
それでも数ヶ月後に「画伯」として応援される画会が催され、コンスタントに仕事ももらえていたみたい。
そこから読み取れる画家の心、人柄は?

一村自身のイメージが、後年の奄美での写真のイメージしかないために、若き日のありようは作品から想像するしかありません。

多くは水墨画で、雑にも思える奔放で早い筆運び。
けれど特に植物画は、葉脈や花びらの描き方に情念のような執拗さを感じます。

私たち観客は、展覧会のメインビジュアルに使われている晩年の奄美でのエキゾチックな絵と、斜め下から撮影した一村の(ちょっとカッコいい、もしかすると少しナルティスティックな)表情を思い浮かべながら、そこに至る一村の心象を旅します。

そういえば会場の構成も、最初と最後のパッと開けてズラッと並べた展示が、迷路のように入り組んだ中盤を挟んでいるようで、一村の長い「模索の時」を包み込むようでした。

従来、20〜40代は「迷走」や「空白」のように考えられていたのが、新たな作品の発見で見直されているようで、バリエーションに富んだ画風や画題が「キャリア迷子」かも知らないけれど画家として充実した模索の時間を表していました。

紆余曲折がありながらも真摯に生業に向き合う彼の(絵を通して見えてくる)姿に、私たちは自分たちのキャリアや人生も重ねて観ていたに違いありません。

今日はここまで。次回、もう少しの感想を書かせていただきたいです。

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