86歳の父 いざ白馬岳へ

2024.8.4(日)
「明日は朝4時に出発やな」父はいつも通りやる気満々。あ、声だけは意気揚々。栂池ヒュッテの自然公園を少し歩いて早めに就寝。
2024.8.5(月)4:29
猿倉から大雪渓を経て白馬岳を目指す予定だったけどあいにくクレバスができて通行止め。計画変更し私と姉と父の3人は今回、栂池ヒュッテから山頂を目指すことにした。86歳という歳を考えると倍の時間がかかると読んで早朝ヘッドライトを頼りに山小屋を出発した。
父にとって4度目の、そして人生最後の白馬岳。私と姉は去年大雨で断念したリベンジ白馬岳。

しかし読みが甘かった。栂池コースは岩だらけで足の力を容赦なく奪っていくコースだった。予定より3時間遅く白馬大池山荘に到着。ここから普通の脚力で4時間の白馬岳山頂。父に余力がなかった。
「えらいこっちゃや。バランス感覚がな。ヨロけてしまいよるわ。俺の足。」何度も繰り返し言い、ゴロゴロ岩の急登を登った。
行きかう人に姉が「父は86歳なんです~」と話していた。横で「そんなん言わんでくれや、85歳や、まだ。印象が1歳ちゃうと変わるやろ。」とボソボソ呟いていた。
「え!86!すごいですね!」と声をかけられると
「くたばったらね、雪渓のクレバスに放り込んでくれって思ってます。」
と周りを大笑いさせていた。

「俺はここまでで。お前ら2人で白馬岳行ったらええわ。」
白馬大池山荘に宿泊予約をした。大部屋しか空いていなかったが仕方がなかった。
「3人で白馬岳の山頂に立ちたかったけどな。楽しみにしてたんやけどな。悔しいけどアカンわ。」父が珍しくきっぱり諦めたってことは完全に足にきてたってこと。

姉の背中を見ながら


2024.8.5(月) 13:12
姉と2人で白馬岳を目指した。ここまで9時間、父の速度とはいえ岩場で足を使ってきた後だ。50歳を超えた2人の下半身は乳酸が溜まってきていた。
「一歩一歩前に進めたら白馬岳に確実に近づいてるもんな!」
何に助けられるってお花畑!!雷鳥さん!!南アルプスの景色!!真っ青な青空!!雲海!!
暑いな、と思ったら陰ってきて冷たいガスが下からサーッと吹き上げてきて身体を冷やしてくれて、寒いと思ったらお天道様が照らしてくれて。
「感謝して!私が晴れ女やし感謝してや!」雨女の私に何度も大笑いしながら叫んでいる姉。
(くっそ~頭痛い~吐き気もする~やば~高山病や~)と頭の片隅で考えながらも暗くなる前に山小屋に到着することばかり考えて気が焦った。
17:54
白馬岳を味わうことなく白馬山荘到着!
遅すぎて山荘の人に「登山とは登って降りること。登ることだけを考えて計画を立てたらダメだよ」と注意とアドバイスを受けた。
その後「明日は4時からココにいるから何でも聞きに来て。下山コースを栂池から蓮華温泉コースに変更するなら電話してあげるよ。」と、電波が入らないスマホを気遣ってくれて山荘に連絡を入れてくれた。
優しくて、ジーンと心に沁みて、彼に抱きつきたかった。振り返るともう姉は食堂に向かっていた。
しかしさすがに私も姉も疲労困憊過ぎて、夕ご飯を食べることができなかった。
「寝よ寝よ寝よ」
登山靴、靴下、膝サポーター付きのスパッツから解放され、3人泊まるはずの個室に4人分の布団を敷いて大の字になって2人で就寝。
2024.8.6(火)6:37
白馬山荘出発。姉は朝食があまり入らず。私は無理やり?完食した。
「お父さんさ、絶対出発時間遅い!って怒るから6:00に出たことにしよな」と2人で口裏を合わせた。
まあ!すんばらしい晴天!昨日は夕方通った白馬岳が素敵すぎ!!さすが日本百名山!(ああ!白馬山荘でピンバッチ買うの忘れた~(´;ω;`))
やっぱり高山病・・・。
山頂で人がいないことをいいことに「やっほ~!!!」「ヤッホーーーーーー!!!!」叫びまくって気を紛らわせた。
2024.8.6.(火)10:41
白馬大池山荘到着
「おっそいやないか~心配したでホンマに~」父は苦笑しながら迎えてくれた。(後ほど「お前らが白馬山荘を5時に出ればこんなに遅く蓮華山荘に着くことにならへんかったのに!」と怒っているwww)
1時間ほど昼食休憩をとって(モンベルのリゾットは不評、やっぱ登山ではカップヌードルが最高の食事と判明)個人的にはドライマンゴーが食べたかった。干し梅はイマイチだった。柿ピーはまぁまぁ美味しかったな。
父は殆ど食べることが出来なかった。

緑と同化中のヨロヨロ父


11:54 蓮華温泉登山口に向かって出発。あいにく雨がだんだんきつくなり父の足はもう限界だった。
「ちくしょ~情けないわ。腹タツゴロウや!難儀や、ホンマに難儀や。」
ずっと遠慮していたが最後まで降りることが最優先だと言い聞かせて父の荷物を私が背負うことにした。
「さちこに足向けて寝れへんわ。ああ、でも歩きやすい。」段差の2歩目に必ずといっていいほどヨロッとヨロけていた。雨は容赦なく降り続けた。
「誰がこんな道にしたんや。岩を全部どけとけって。こんな道にするなって!」笑えることばかり言い続けてヨロヨロ。
そのうち父親としての懺悔が始まった。
姉が小さいころ小さな交通事故にあった際も「俺、テニスに行ってたんか?最低な父親やな!」
「さちこに小さいころの写真を全く撮ってなかったこと謝らなあかんってずっと思ってたんや」え?今?今さら?父よ、死ぬのか?
笑いが止まらなかった。面白すぎた。
2024.8.6 19:22
蓮華温泉ロッジ到着~!!
父は「もう、ご飯食べれへん!風呂先やな。」とお風呂に向かった。
私たち2人は山荘のオーナーさんに謝罪しながら美味しい夕食を頂いた。
お味噌汁が五臓六腑に染み渡った。 
お風呂から戻った父は小さなビールジョッキ片手にふらふらと帰室。「もうあかん~」と畳に寝っ転がった。
「お風呂に行ってくるからちゃんとお握り食べてや。」
山荘の人は、父が夕食を食べることが出来ないため糸魚川コシヒカリで美味しそうなおむすびを握ってくれていた。少しのビールとおむすびを1個食べて父も私たちも就寝。
2024.8.7 
起きてから父の声がヘンだった。咳もしている。公共交通機関ではちゃんとマスクをしていた。
ラーメンも食べれない。かき氷もほんの少ししか食べれず。
結局帰宅して自転車で病院へ行ったらしい。父はコロナだった。
そら帰りしんどかったはずやわ。
父はサッカーをしていてマスターズ陸上記録も持っていて、毎日ランニングしていたけどやっぱり86歳やな。

少し予定通りにはいかなかったけど、私にとっては大満足の白馬岳山行だった。しかもいっぱい笑った。
ちょっとは親孝行出来たかな。冥土の土産になった?3人での写真ほとんどとらなかったけど、楽しかったね。

翌日から写真をアップロードして送れだなんだといつも通りの父に戻っていた。母の献身的なサポートのお陰で父はまだまだ元気。
「ええ姉妹や。ええ2人や。」
その言葉聞けただけでも幸せ。

さぁ、次の山はどこに行こうか。

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