アメリカアリゾナ州KyokofromTokyo#7 ナバホ族の町へ、荒野をゆく
荒野の一本道
真っ暗闇。街路灯もない。
前にはヘッドライトに照らされた、白く小さなキャンピングカーが走る。「Kind a slow. 遅いなあ」運転するダニーがつぶやく。確かに遅い。
道が1本しかないので追い越せない。止まってくれるのを待つか、少し道幅が広くなるタイミングを待つしかない。キャンピングカーは頻繁にみかけた。
アメリカならいくらでも、どこまでも広くドライブできるから、キャンピングカーでノマドしながら生活している人もいるだろうな。いいなあ。
見えるものといえば、膝下の高さの、小さな木柵が車道の両脇に延々と続くナバホネイションの境界だけ。
長い長い暗い道。音楽もラジオもなし、それがまったく悪くない。
でも真っ暗闇の細道ドライブ、運転するダニーは慣れていても疲れるはず。
銭湯?アリエナイ
音楽もラジオもつけない車の中で、私はダニーに日本の文化を伝えようとアンバサダー気取りで日本の魅力を電子辞書片手にあれこれと話をした。
そして銭湯や温泉の話をした。
「日本に来たら温泉にぜひ行ってみて」というと、共同浴場の意味も分かるし、Hot Spring 温泉はアメリカにもあるけど、「知らないやつの男の裸なんて見たかないよ、興味ないね」とダニーは一蹴り。笑 そういう視点じゃないんだけどな 笑
温泉文化は西洋人ダニーには理解しがたいようだ。銃社会の国、あまりにも無防備だし。裸の付き合いなんて呑気なこと、きっと言ってられない。
日本の卵は安全
シンプルな日本食を紹介しようと思って、
「あったかいライスに、生卵、ソイソースをかけて混ぜて食べるの、美味しいのよ」
生卵かけご飯を説明する。究極のシンプルな日本食、良いんじゃないかな。
「へえ、raw egg 生卵をそのまま食べるなんて、日本の卵はよっぽど安全なんだねえ」
あ、そこなんだ。考えたことなかったけど、そう言われてみれば、生卵を疑ったことなかった。ちょっと究極の日本食すぎたみたい。
基本的に食べ物を生で食すことにアメリカは抵抗があるかもね。
はりきって紹介してみたものの、日本独特のものを意外に感動してくれなくて、ちょっとがっかりする。
でも逆にとても正直で率直な感想を受けて、文化、感覚の違いを暗闇の車内で味わっていた。
アメリカ中部のコロラド出身のダニーは日本人がイメージしがちなNYやLAっぽいアメリカ人のイケイケ感はまったくなくて、とても穏やかで質素な人柄。
こちらが入ってくる情報から勝手に先入観でイメージを作っているところも、多々あるのだろう。
「アメリカ人」といっても、実際に会ってみないとわからないものなのだ。
ナバホ族の町ペイジへ
フラッグスタッフのレッドロブスターからペイジの町まで約200km、
さすがに3時間も暗闇ドライブすれば飽きてくる。
早く着かないかなー
やがて、きらきら、きらきら、白く揺らめくものが遠くに見えだした。町かな?!
それにしてもあれは何だろう?
なかなか近づかない。見えてから先が長い。期待が大きくなりすぎるのかもしれない。
ただ広がる闇夜に、ぴろぴろん、ぴろぴろん、っていう白い光が、上から斜めに下へ、数本流れる。
走ってる車からずっと見えていて、近づいているはずなのに、あんなに遠いものがずーっと見え続けてる。
すごいなあ。なんて広大なんだろう。さえぎるものが全くないなんて。
そして、やっと、やっと近づいてきた。暗がりの中に煙突が3本、その煙突につけられた衝突防止用のネオンの光だった。ナバホジェネレイションステーション、町の発電所の煙突だったのだ。この町の高層の建築物はその煙突だけである。
荒野のスイートルーム
すっかり夜中。とにかく宿だ。
町の入り口にある宿の駐車場にすぐさま入る。ホテルのロビーも真っ暗。フロントを呼ぶ。 しばらくしてやっと女性が出てきた。中高年の白髪交じりの白人女性。ダニーが空室があるかどうかを聞いている。
なんとスイートが空いていると。最上階スイートといっても荒野の3F建てのホテルだ。それでも確かに部屋は広かった。
「予約しなくても当日だといい部屋があいてるんだよ」とダニー。
余裕だ。慣れてるなあ。 スイートでもこういう場合は普通料金で泊まれるだろう。
フロントの女性と立ち話を始めたダニー。国立公園のCLOSED(閉鎖)のことみたいだ。私たちは国立公園グランドキャニオンを目指してドライブしていたが、途中国立公園CLOSEDのサインと共に道路が閉鎖されていたために、迂回してこの町ペイジへやってきたのだ。
(ペイジはナバホネイション(居留地)準自治領の町で国立公園ではない)
フロントの女性のたくさんの知り合いが国立公園で働いているのに、
「突然、仕事がカットされて、いつ再開するか分からないし、ほんとひどい話よ」といったところだろう。国立公園の閉鎖は、時々予告なく起こることらしく、ダニーが現オバマ政権(2013年現在)が嫌いな理由のひとつだそうだ。
またもハプニング深夜長距離ドライブ、Vol.2となった。
とにかく今は寝たい。ダニーはだだっ広いベッドにバタンキュー。
私は、またも棺桶のような長いバスタブで風呂に入ってから、ベッドへ。
深夜の荒野長距離ドライブは、助手席でもかなりこたえるのだった。
つづく、、
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