小規模大学vs大規模大学 徹底比較!
はじめに
この記事では、学部を小規模大学で、大学院修士課程を大規模大学で過ごした経験を持つ私の感じた、規模による大学間の違いについて語っていこうと思う。
もちろん、この記事で想定している大学は私の通った2校のみである。そのため、いわゆる一般論的な話もするが、私の経験に基づいた話も多くなることをお断りしておく。
規模の異なる大学を比較することで、読者の学部における大学選び、院における大学選びに少しでも役立てば幸いだ。
第1章 小規模大学の特徴
まず、私が学部時代を過ごした小規模大学の特徴について説明しよう。
小規模大学は、
①アットホームな雰囲気
①教員は研究者というよりも教育者としての役割が求められる
②学生と教員の距離が近い
という主に3つの特徴があると思う。一つずつ見ていこう。
①アットホームな雰囲気
小規模大学では人数が少ないために顔の見える関係になりやすい。私が所属した学科は学生が1学年80人程度だったが、だいたいの人間が知り合いや顔見知りだった。
別の学科はもっと少なく、5、60人しかいなかった。ここまで来るとほぼ高校のクラスのような雰囲気となる。
大体が知り合いになるので「みんな友達」という感覚で楽しめる人もいることだろう。一方で、そうした雰囲気に馴染めない人にはつらい環境かもしれない。
②教員は研究者というよりも教育者としての役割が求められる
これは実際に学部時代の教員から聞いたことだが、教員の採用にあたっては「学生の教育に力を入れられるかどうか」が問われるそうだ。
つまり、「学生の面倒そっちのけで論文を書きまくる」研究者タイプの教員は小規模大学においてはNGとなる。そういうタイプの教員は学生や同僚から疎まれやすい。
学生からすれば「面倒見がよくない」、同僚の教員からすれば「学生の教育を疎かにして自分の研究ばかりやっている」ということになる。
そのため、小規模大学の教員は、「学生の面倒見がよい、教育熱心な先生」が多い傾向にある。
また、小規模大学では「学務」が重視される。
すなわち、「研究以外の、大学教員としての業務」である。たとえばオープンキャンパスの体験授業や受験生との面接相談、高校への営業回り(大学の宣伝!)、欠席気味、成績不良の学生への対応などである。
小規模大学(小規模校は一般に、受験偏差値の低い大学が多い)は大学のPRや問題のある学生への対応に教員があたる機会が多い。学生対応はともかく、大学のPR業務などは負担に感じる教員は少なくなく、「雑務」といって嫌う教員もいる。
少子化で大学も殿様商売とはいかなくなってきており、学生という「顧客」に「手厚い教育サービス」を提供するのが主流になりつつあるし、18歳人口の半分が大学に進学する「全入時代」の現在では、かつてなら大学に進学していなかったであろう、低学力や意欲の低い学生も大勢進学してくる。
そのため、今はどの大学も多かれ少なかれ教員のこうした「学務」負担は増えているのだ。
③学生と教員の距離が近い
学生数が少ない大学では、学生と教員との距離は近くなる。私の卒業した大学も、ゼミは一つにつき10人前後で収まっていた。
また、オフィスアワー以外の時間でも研究室に行けば話を聞いてくれる教員が多かったように思う。さらには、ゼミのあとに長いアフタートーク(ゼミ延長戦!)が研究室で行われたり、複数のゼミ合同で鍋パーティが開かれたりなど、学生と教員との間の垣根がとても低い。
大規模大学の事情は後述するが、大規模大学は気軽に教員と話をするということが難しい環境にあると思う。
以上が私の通った大学に偏るが、小規模大学の特徴である。
第2章 大規模大学の特徴
次に、私が大学院修士課程で通った大規模大学の特徴について説明しよう。
大規模大学は、
①ビジネスライクな雰囲気
②教員は教育者というよりも研究者としての役割が求められる
③学生と教員の距離が遠い
という3つの特徴があると思う。一つずつ見ていこう。
①ビジネスライクな雰囲気
大学院に入学直後、研究室で指導教員に以下のように言われたことがある。
「ここは結構きっちりとした大学だから、その辺にまず慣れていかないとね。大学の雰囲気があなたのいたところとは違うから」
この言葉の意味するところは言われた当時はよく分からなかったが、今ならなんとなく分かる。
おそらく、「あなたの大学は牧歌的な雰囲気があるが、この大学はそういうものはないよ」ということではないだろうか。それは大学の偏差値とも関係しているかもしれないが、やはり大学の規模そのものが大きいため、小規模大学よりものんびりとした空気はないという実感はあった。
私が進学したのは大規模大学でも私立大学なので院生の数は少なかった。それでも、学部時代のような牧歌的な雰囲気は全く感じられなかった。それは、大規模大学の文化が院の雰囲気にも反映されていたのだと思う。
教員も学生もよそよそしく、お互いに必要以上に関わろうとしない感じがあった。授業やゼミの場だけの関係として割り切っている人が多いように思えたのだ。外部受験者の私には尚更それが冷たく感じたものである。
②教員は教育者というよりも研究者としての役割が求められる
私の卒業した小規模大学と比べ、明らかに教員は研究に勤しんでいたし、メディア出演や本の出版など、多忙な教員が多かったように思う。
このことから、大規模大学では研究者型の教員が採用される傾向にあるのではないだろうか。大規模大学ほど受験偏差値が高くなる傾向にあることからも、そのことはいえる。
③学生と教員の距離が遠い
私は大学院から大規模大学に入ったので学部の事情は詳しくない。だが、意外にも少人数教育を行っている学部学科はあった。私の所属する研究科の学部も少人数体制だった。
しかし、それでも学生と教員の距離が遠いというのは、学生数だけの問題ではないということだ。②で述べたように、大規模大学は教育者タイプよりも研究者タイプの教員を採用する傾向にある。
そのため、単純な気質の問題もあるし、仕事量(研究やメディア出演で多忙!)の問題もあって、学生は教員にあまり構ってもらえない。私の指導教員も大学内外の仕事に奔走していたため、あまり落ち着いて話す機会がなかった。
大学院において指導教員は重要な存在だが、私はあまり指導教員と信頼関係を築けず、結果としてコミュニケーションが不足していたように思う。それは大学院の研究活動においてマイナスに働いたと思っている。
第3章 小規模大学と大規模大学、選ぶならどっち?
第2章で紹介した小規模大学と大規模大学のそれぞれの特徴をまとめると以下のようになる。
たとえるなら小規模大学は田舎的、大規模大学は都会的といえるのではないだろうか。
では、結局のところ選ぶならどちらのほうがいいのか? 2章では私の経験上かなり小規模大学の方に肩入れしたが、次は学部段階、大学院段階、それぞれをできるだけフェアに考えていきたい。
学部編①均質性を求めるなら小規模大、多様性を求めるなら大規模大
小規模大学は小規模ゆえに大学全体が均質的だ。学生は特定の地域から集まるし、それゆえに似たような経験をしてきた人が多くなる。教員も数が少ないため研究テーマの数も少ない。また、地域に根差しているタイプの大学は、地域に特化したテーマの教員が多くなってくる。小規模大学の雰囲気は「似たような感じの人が多く、色々なことを体験できるというより、高校までの生活の延長」といえるだろう。
一方、大規模大学は大規模ゆえに大学全体が多様的だ。学生は全国から集まるし、それゆえに個々人の経験はバラバラだ。教員も数が多いため研究テーマの数は多い。大規模大学の雰囲気は「多様な人がおり、高校までと違った新しいことを経験できる」といえるだろう。
学部編②アットホームを求めるなら小規模大、ビジネスライクを求めるなら大規模大
アットホームな雰囲気があるのは小規模大学の特徴だ。小規模なため人と人との距離が近く、学生にしても教員にしても濃密な関係が築きやすい。小規模大学のなかでも、特に小さな大学となるとクラス単位で生活が完結するようになる。
一方、ビジネスライクな雰囲気があるのは大規模大学の特徴だ。大規模なため人と人との距離が遠く、「広く浅く」、「その場だけの」関係が築きやすい。超大規模な大学となるとゼミが必修でないことも多いので、ほとんど他人と関わることなく卒業することもできる。
続いて、大学院編に入ろう。
大学院編①一人でコツコツ研究したいなら小規模大、みんなと切磋琢磨したいなら小規模大
一人でコツコツ研究したいなら小規模大学だ。小規模大学、特に私立は院生の数がとても少なく、研究科に自分一人しか院生がいないという場合もあり得る。そのため、人間関係に煩わされることなく一人で黙々と研究に打ち込むことができる。授業も教員とマンツーマンで行われることも多く、その道の専門家たる大学教員を独り占めすることができるのだ。
一方、みんなと切磋琢磨したいなら大規模大学だ。特に国立は院生の数がとても多い。そのため、近い分野の院生たちと議論を交わせる機会が多く、共に研究者としての能力を高め合うことができる。授業は、他専攻の学生、他大生、外部の研究者が参加することもあり、多様な人々から多様な意見を聞くことができるため、自らの視野を広げることができるだろう。
大学院編②ほどほどに研究したいなら小規模大、本格的に研究したいなら大規模大
ほどほどに研究がしたいなら小規模大学だ。小規模大学は小規模ゆえに研究設備が少ない。たとえば文系院生の生命線である図書館も蔵書が少なく、必要な資料を外部から取り寄せなければならないことも多い。
一方、本格的に研究に打ち込みたいなら大規模大学だ。大規模大学は研究設備が充実しており、図書館の蔵書も豊富だ。また、全国の大学・研究機関で研究者として活躍するOBも多いため、「学閥」が形成されており就職がしやすい。博士課程の院生も多く、科研費の申請書の書き方や研究職の就活ノウハウを学ぶこともできる。
おわりに
本記事では、小規模大学と大規模大学を、一般論のなかに私の経験を交えつつ比較した(かなり小規模大学の方に肩入れしてしまった)。両方の大学に通った私自身は、どちらも一長一短あり、どちらの方が総合的に優れているということは言えないと思っている。
理想は、二つのタイプの大学を目的によって自由に行ったり来たりできることだろう(そんなことはできないのだが)。一つの大学だけではなく、複数の大学に在籍できるようなフレキシブルな制度があればいいのになぁと思う(単位交換制度のような類似制度はある)。
小規模大学も大規模大学もそこに総合的な優劣はないと言ったが、正確には少し異なる。「大は小を兼ねる」というように、小規模大学でできることは大抵大規模大学でもできてしまうという現実はある。大規模大学でも学生や教員と濃密な関係を築くことはできるし、一人で黙々と研究に打ち込むこともできる。つまり自分次第なところが大きい。
一方、小規模大学は選択肢が限られているという欠点がある。大規模大学は多様な選択肢の中から選ぶことができるが、小規模大学は一つの生活スタイルしか選ぶことができない。その意味では総合的にも大規模大学に軍配が上がるといえるだろう。
しかし、小規模ゆえのアットホームさやローカル性は大規模大学にはない魅力なので、その人の目的や性格次第でどちらがよいかは変わってくるだろう。
この記事が大学・大学院選びの参考になれば幸いだ。
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