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マインド・トリガー

スマホ小説版


ジェネシスベイエリア崩壊
大海嘯により故郷を失い
ランドシップへの移転を
余儀なくされた私達
かけがえの無い友人の死。

エノラ‥ゲン‥。




私は神崎雫

中学生に入学し
始めての夏。

悲しみを乗り越えて
トリガーの扱いにも
慣れてきた頃だった



カンッ

屋上で並べられた空き缶が
高い音を立てて飛ぶ。

隣のクラスの子と射撃練習。
私達はトリガー使いで
半霊半物の銃火器を召喚
撃つことができる。

輝戸川悟(きどがわさとる)
「腕が上がってるな神崎」

「うぇ?」
「そ、そうかな」
輝戸川悟
「あ、ああ」

少し照れながら視線を逸らす。

憂さ晴らしの為に始めた射撃が
まさか自分が腕を上げるとは
思っていなかった。

輝戸川悟
「トリガー使いには必要な練習だからな」

「うん。エノラよりは正確に当たる様にはなったかも」
輝戸川悟
「エノラ?」

「あ、うん‥こっちの話」

私は慌てて伏せた。

エノラはもういない
これ以上引きずっても
過去に沈んだ町はもう二度と
戻って来ないのに‥。

輝戸川悟
「今日はこのくらいにするか。この後どうする?」

「今日はこの番号に連絡して‥」
輝戸川悟
「用事があるならここまでだな」

「うん、また宜しく!」



番号の連絡先は、
エノラの両親の自宅‥

ジェネシスベイエリア
壊滅以来の
初めての訪問だから‥
緊張する。

発信する。
少しして、エノラの母親が出た。

母親
「もしもし」

「あの‥私、神崎雫‥」
母親
「雫ちゃん⁈エノラがよく話してた」

「は、はい!」
「連絡先ずっとわからなくて‥」



連絡後、エノラのいない
両親の自宅へと足を運ぶ。

落ち着いた雰囲気の家。

けど
喪失感の影はまだ残っている。

エノラの遺影が真っ先に見えた。
あどけない当時のままの笑顔‥
涙が溢れた。


母親
「今思えば、不思議な子だったわ」

「人には話せない事、沢山ありましたから」
母親
「今でも話せない事?」

「それは‥私の理解を超えるくらいの話になりますが」
母親
「もっと信じてあげたかったの」

「エノラは、中立の考えでした」
「信じても信じなくても良いって」
母親
「私にもそう話していたわね」

「匂いの話は私によくしてました」
母親
「匂い?」

魂を枯らす者は総じて臭い。
違いすらない枯れ果てた屍臭
母親は驚いた表情を見せた。

母親
「他には?」

「この世界は‥」
母親
「うん?」

この世界は、世界線の最前線

仏、神の世界線は遥か後退した
世界線になる為、私達の生き方が
見えてしまう。

だから仏、神の世界線に
心配させる生き方を見せて
続ける事は良くない、とか。

驚愕する母親。

母親
「エノラが‥そんな事まで」

「エノラがそこまで見えて言ったのかはわかりませんが、
私の理解を超えるものでした」

改めてエノラの遺影を見る。

ジェネシスベイエリアの最後を
予言していた事も話した。

タルテストス国防船団が救助する光景さえも。

それらスキルの開花によって何度も何度も倒れた事を。

気が付けば再び流れる涙を
流しながら、私は語る

母親も共に涙ぐんで‥。

母親
「ありがとう、こんなにエノラの事大切にしてくれて」

「おばさん、私、また来ます。」
母親
「いつでもいらっしゃい。エノラも喜ぶわ」

「はい、ありがとうございます」



気持ちが軽くなってきた

会えて良かったと思う。

私は帰り道、何事も無く
帰れるものだと思っていた。


「 」

マズイ。
黒いのが居る

向けてしまったベクトル。
本来ならスルー出来た筈なのに
気の緩みから存在に向けてしまった

黒いのは
長いボロボロの髪を垂らし
ゆっくり動くと

消えた。


「撃鉄!」

0.1秒で武装した半霊半物の銃を
真横に突き付ける。

横に立つ黒い顔面に銃口を向けた。


「どっか言って」

「修正できないの」
「修正させて修正‥」

「自分の問題でしょ」

「その顔おおおおおおおおおおお」

唸る顔面は崩れた顔を見ても
性別が判断出来ない。

髪の長さから辛うじて女だと
思われる。

壊れた低い声
また消える

私は走る。
早いが勝てない相手じゃない。

人気のない坂を走り薄暗い林に挟まれた坂道に誘い込む。

再び現れる女に銃口を向けるが、関節がイカれた動きが私の腕に絡む様に私の頬に向けて迫る。

昔受けた霊体の暴力の痛み

そう何度も味わってたまるか。
顔面目掛け発泡。
首が折れ曲がり交わすが
かする。

ため息が出る。

女がゆっくり掠った頬に目を向けた。


「その肌‥」
「その髪‥」
「その色白‥」

「でも私、まだガキよ」

「その足いいいいいいいいいいい」

消える

もう逃がさない
お前は次で撃ち倒す。

顔面目掛けトリガーに
指をかけて発泡


「お待ちなさい」

私と女が止まる
トリガーを引く寸前。

女のベクトルがズレた
私の背後に向けている。

構えを解いて振り向くと、
輝く老人が立つ


「およしなさい」

「‥神様?」

神様がにっこり微笑む。
ゆっくり近付いて来る。

私では無い。
この女か。

後退して進路を譲る。
神様が女に近付いた。

「じっとして」

女が大人しくなり、少し俯く。

女の頭に手をかざし、唱える。

不思議な言葉。
神様の輝きが増して
女に変化が見れた。

黒く爛れた醜い肌が
つちこけた肌の色へと
修正されて行く。

辛うじて女である姿へと戻る
少し手前まで修正されると
神様はかざした手を離す。

女は変化を感じると
後退り、林側の石垣の中へと姿を消して行った。




「見ていたのですか?」

「修正を求めておった」

「あ‥倒してしまう所でした‥」


神様が微笑む。


トリガーを解除して
少し尋ねてみる。


「この近くのお方ですか?」
神様
「いや」

遠い目をされる。

この方に出会えるなんて早々
無い筈なのに。
私は敵意剥き出しだった。


「お会い出来て光栄です」
神様
「それでも‥じゃよ」


神様がにっこり微笑む。

少しわかる‥



それでも

私は銃口を向ける
べきではなかった。


「次は気をつけます」


行ってしまった。

私は深い深呼吸をすると、
家路へと足を運ぶ。

トリガー使いって
撃つだけが全てでは無い

それを知った貴重な体験でした。

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