The blue sky of the outlook
ー展望の蒼穹ー
異世界惑星ラグラ。
果て無い天空の傍観。
奈落に等しい蒼穹に浮かぶ島、
大陸。
塵のように漂流する岩礁が、
大気を包む。
その異世界惑星の成層圏に
最も近い、上層の島々。
大陸に隣接する
二つの島のうちの浮島、
島のほぼ全土に発展した
超高層ビルの摩天楼に
埋め尽くされる
空中都市
コロッサルグラッド・シエル。
巨大な都市の真ん中に位置する
巨大な工場がある。
名を天魔重工。
主にこの巨大な空中都市の基礎、
街の景観を創り上げた
ラグラいちのゼネコン。
ただでさえ巨大な工場から発する
騒音の中に、二機の巨大な人型重機が上空から帰還して、
吸い込まれる様に
巨大な重機用のドックに格納された。
モニターで重機の帰還を確認した
おっかない顔をするゴツい巨漢は、
一つため息をつく。
事務処理を1人でこなす
赤いロングヘアの女性が、
鋭い眼付きで巨漢を凝視し、
2人は目を合わせると、
モニターに目をやる。
巨大重機のコクピットハッチから
飛び出した2人のチンピラの様な
男2人が駆け出す姿を捉えて
映っている。
1人は低めの身長に真っ黒な
ダボついたズボン。
頭には真っ黒なバンダナで結び、
長い前髪がはみ出る顔立ち。
もう1人はひと回り長身の金髪に
荒立つ髪。
ピアスが耳たぶに垂れ下がる。
ついに、女性もため息を一つ
漏らした。
男
「‥やれやれ」
女
「もう少し落ち着いて行動出来ないのかね‥」
男
「済まねえな、血がこうも強いとな」
女
「いや‥」
苦笑いする女性は、
手元の長い煙管を手に取ると、
一口吸って煙を出す。
女
「想像はしたくないんだけどね」
男
「そうだな‥」
事務所の扉を激しく開けて
ドカドカ入り込むモニターに
映った2人のチンピラパイロットが
我先に男に叫ぶ。
驚きを隠せない表情で。
男1
「兄貴!一体何だありゃ⁈洒落にならねえよ!」
男2
「あ、姉貴、データっス」
姉貴
「ったく‥」
小さなメモリー媒体を
ヒョイっと掴み取ると、
セキュリティ端末から、
2人が採取したデータを
分析しながら2人を睨みつける。
ビクリと直立する2人。
姉貴
「ブイは壊して無いんだろうね?お前達?」
俺1
「ひ、酷えな姉貴!最初ん時だけだぜ!」
姉貴
「はぁ、ったく‥ヤン、残念だけど」
データをヤン兄貴に送り、
採取されたデータの水準に
目を通す。
無表情に呟いた。
ヤン
「数値が何倍にも膨れ上がってやがる‥」
姉貴
「お前達が慌てんのも無理ないんだけどねぇ」
男1
「兄貴、下がんねえのか?」
ヤン
「ブイの所在が現地から5千キロまで流されちまったからな」
男2
「あれ‥どうなるんだ兄貴」
ヤン
「さあな、ランドシップに噛みつきでもされたらひとたまりもねぇ」
モニターに出される
データ照合の映像が、
ブイの衛星軌道上からようやく
届いた。
その姿は、
こちらで言う熱帯低気圧の
暴風気象現象「台風」に近いものだ。
だが、それは明らかに違う。
想像できるだろうか‥‥
大気層の厚さが地球とは
かけ離れた、
恐ろしく高い三つの層に
分けられている。
標高10000m上空を「下層」
更に高い上空に「中層」
そして「上層」の三つ。
台風を一枚のパンケーキに
例えるなら、
ラグラの熱帯低気圧は
5枚重ね合わせた勢力を
時計周りに回って、
世界の裏側で鎮座していた。
そしてもう一つ。
ラグラは浮世と呼ばれる
浮遊岩礁が大小様々な
大きさの夥しい数が彷徨っている。
つまり、
この巨大な熱帯低気圧は、
すり鉢の様な姿で浮遊岩礁を
身に纏い、回る‥‥。
2人が血相変えて工場に
飛んで来るのもわかる。
こんなものがランドシップに
もたらす被害など、
誰が想像できるだろう。
姉貴
「ヤン、連合政府に通達しないのかい?」
ヤン
「わかっている。それに、茨グループと協議する必要もある」
ヤンは弟である2人に通達する。
ヤン
「若人の力が必要だ。これから忙しくなるぞ」
姉貴
「アンタ‥伝説信じるのかい?」
ヤン
「ん?」
姉貴
「創造主だよ。若人ったら16歳のガキじゃないか‥」
ヤンが少し笑う。
滅多に見せない口元を緩めて、
しかめ面に戻ると
ようやく口を開く。
ヤン
「賭けてみるか?テツ、イチ」
2人の弟が武者震いする。
イチ
「おう!兄貴!」
テツ
「賭け、か!」
姉貴
「創造主に嵐を消してくれってかい?」
御伽話でも信じなさそうに
姉貴が呆れる。
嘘の様に現れたラグラの厄介者‥
ヤンが衝撃の言葉を放つ。
ヤン
「パラテラフォーミングはまだ完了しちゃいねぇからな。仕上げにかかるつもりか?」
姉貴
「じゃあ‥」
ヤン
「そう考えりゃ信じてみたいもんだろ?」
イチ
「何だ、兄貴その‥」
姉貴
「さっさと仕事戻りな!」
イチ、テツ
「はいっ!」
仕上げ‥‥
ラグラの全てが変わろうとしていた。