
21. 不倫相手のパートナー
そして月曜日。
朝から蓮とホテルにこもった。
やってる時もやってない時も片時も蓮から離れなかった。
蓮とくっついていたいのではなく、ただただ不安だった。
浮気相手としては、最悪な感じになってきてる私。
離婚するとかしないとか。
自分でも、重いしめんどくさいと思う。
「私のこと好き?」
「もちろん」
「どこが好きなの?」
まさか、自分がこんなバカなこと聞く女になるとは…。
でも、なぜか、何かが不安で仕方なかった。
ついでに、聞いてみた。
「私と夫がこういうことするのはどう思う?したくないけど、夫婦やり直すのなら、するかもしれない。」
「そりゃ嫌だよ。でも、仕方ないと思う。どうしようもない。なんていうか…事故にあったとでも思う。」
一応、とっても悲しそうに言ってくれた。
「じゃあ、あなたは奥さんとしてる?」
とはさすがに聞かなかった。
以前、ブログで一般的な意見を聞いたことがある。
『家では嫁とやってるに決まってるやん!そんなん当たり前』
『やらなくなったら逆に疑われるから、今までどおりにしてるはず』
『むしろ男性ホルモン活発になってるやろうから、家でも回数増えてるかも』
今ここでわざわざ答え合わせする必要もないし、彼が本当のことを言うわけがない。
だから、代わりにこう聞いてみた。
「もしさ、蓮の奥さんも他の男の人とこんなことしてたらどうする?」
「うーん。それも、仕方ないと思う。
オレがこんなんやから、仕方ない。
やっぱりな、って思うかもしれない。
面と向かって怒るとかは…ないかな。」
「どうするの?離婚する?」
「どうかな。嫁次第かな。別れたい言われたら仕方ない。」
蓮はぐっと私を引き寄せ、天井を見たまま続けた。
「なんていうか、、娘の母親は、やっぱり嫁しか思い浮かばへんのよ。
オレは、あこさんが大好きだし、あこさんが奥さんやったらどんなにええやろうと思う。
でも、やっぱり、娘のこと考えたら…あこさんじゃないねん。
ごめんな。
まぁ、子供が大きくなったら、また変わると思うけど。」
「ごめんな」って言葉だけに少しいらっとした。でも、その他の言葉はその通りだと思った。
蓮は正直だなって思った。
私の好きな蓮は、奥さんが作ったものを食べて、奥さんが洗濯した服を着て、私に逢いに来る。
奥さんと付き合いが長いって言ってたから、変な言い方だけど、ベッドでの愛し方も、奥さんから勉強した愛し方なんだろうし、
結局、蓮は奥さんで構成されてる。
そして、何より、蓮の大切な子供を産み育ててくれてるのは奥さん。
彼の後ろには、常に奥さんがいる。
じゃあ、私は?
私が綺麗にしていられるのは、夫の経済力のおかげ。
その外見と夫に献身的なところが好きという蓮。
一体、W不倫ってなんなんだろう。
結局、上っ面をなぞってるだけか…。
「とにかく、今までのようには逢えなくなるな。電話もしないようにする。
あこさんは、時々危なっかしいからなぁ。
ホントに気を付けてね。
あこさんの大丈夫は、全然大丈夫じゃないから。」
そう言って、私を強く抱き締めた。
私達は当面の間、奥さんが知らない蓮の平日休みの毎週月曜日の昼間にだけ逢う約束をして別れた。
◆
夫は、なるべく早く仕事を片付けて毎日19時頃には帰ってくるようになった。
今まではなかったこと。
毎晩、子供達と一緒に夕飯を食べる。
これもめったになかったこと。
夫的には、なるべく家族一緒に家のことも手伝って…と思ってるのだろう。
でも今までずーっとほったらかしだったのに、今更構われると逆にそれが最大のストレスに。
まさに、今更。
それにそもそも、誰もそんなこと望んでない!
とはいっても、私の不貞行為はまだバレてない。
平たく言ってしまえば
『私が育児ノイローゼで疲れてしまった』
ってことになってるので、仕方ないというか黙って受け入れるしかない。
毎晩、遠慮がちな作り笑いを浮かべる夫と、一切笑わない私。
気を遣う子供達。
とても、やり直せる感じじゃなかった。
でも、夫は諦めなかった。
夫は、子供達のために家族を修復としようというより、夫と私の関係を修復しようと一生懸命だったように見えた。
なんとか私に家庭以外の生き甲斐というか楽しみを見つけてくれようとした。
そして、今回の離婚騒動で、実際何一つ仕事を見つけてこれなかったので、私自身に技術とか資格とか、とにかく今からでも勉強して、なにかを習得するように言われた。
ある程度自立できると、自分に自信を持てて、きっと変われるはずだと。
その為の支援は惜しまないと。
結果、話し合って私は教室に通い始めた。
教室はシンプルに楽しかったし面白かった。
なんだろう、身体の中が熱くなる感じがした。
いずれ、この世界で働けたら……なんて、初めてかもしれない。
男でもなく、子供でもなく、自分自身の夢をみたのは。
夫のいう通り、変われるかもしれないと思った。夫に感謝だ。
夫の為にも、本当に頑張ろうと思った。
必然的にネットに向かう時間も減り、いい感じ。少しずつ、心が元気になっていくのがわかった。
心が安定してくると、表情も変わってくる。
夫に対する態度も、少しずつだが、以前のように戻っていった。
が、離婚騒動の本当の理由。
蓮の存在。
これだけは、どうしても変われなかった。
今までのようには逢えなくなった。
今から帰るね、おやすみ、また明日。
夜の電話もできなくなった。
もちろん、月曜日。
逢えなくなった分、逢えた嬉しさ倍増愛しさ10割増になったが、別れた瞬間からもう逢いたい。
まるで、付き合い始めに戻ったようなもどかしさが復活した。
逢えないと逢いたい。
夫と再び暮らすこと、子供のために家族でいること、ブログを控えること。
それは我慢できた。
でも、蓮のことは……すぐに、我慢できなくなってしまった。
夜。
相変わらず、末っ子の寝かし付けと同時に寝てしまうふり…は、続いていた。
夫も、和室を覗きに来ることはなくなった。
まっすぐ自分の部屋に向かう。
夫の部屋の扉が閉まる音。
その音を聞いてから、10分ほど待つ。
ゆっくり引き戸を開けて、廊下の様子を伺う。
そーっと足音を立てないように、細心の注意を払って和室を出て夫の部屋の前へ。
扉の前で息を殺して耳をすます。
……zzz
寝息というより、イビキを聞いてホッとする。
夫のイビキを確認してから、Uターン。
これまた細心の注意で、階段へ。
途中、ギーッと音がする度に止まって耳をすます。
静寂を確認してから、再び下へ。
1階につくと、素早く上着を持って忍び足で玄関へ。
30秒ほどかけてゆーっくり玄関の扉を開け、これまた30秒ほどかけて慎重に締める。
指を挟んでも構わない。とにかく、ガチャって音がどうしたら鳴らないか必死で工夫した。
やっとの思いで家の外へ出て、深呼吸。
そして、近くの公園へ。
暗闇の中に蓮のバイクを見つけ駆け寄る。
毎回『ダメだよ。危険すぎる。』と怒られた。
怒るくせに、毎回逢いにきてくれた。
おそらく、時間にすれば、10分ほど。
ただくっついてキスするだけ。
名残惜しく蓮を見送りとぼとぼ家に向かう。
万引きと同じ。
見つからなかった。ばれなかった。
という成功体験の積み重ね。
それが、私を更に大胆にさせた。