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28. 夫に尾行された夜 2

慌てて入ったその細い脇道には街灯がない。
大きな公園沿いなので、夜はほとんど車は通らない。その道の途中が、蓮との待ち合わせ場所だった。

約束の時間より少し遅れたが、蓮もまだ来ていないようだ。

よかった。

私はエンジンを止め、サイドミラーを閉じた。そして、急いで車を降りた。

周りには誰もいない。

足早に来た道を戻る。

自分の車から100メートルほど離れたかな?ごみ置き場か何かだろう。
道沿いで、身を隠すのにちょうどいい場所を見つけたのでそこにしゃがんだ。

そして、蓮に電話した。

つながった!!

「ごめーん!あこさん。遅くなった!
もうついてるん?今から出るから後5分位待ってて!」

「ちがうねん!私…たぶん、尾行されてる」

「え?今、何て言った?」

「とにかくここには絶対に来たらあかん!!」

私は簡単に今の状況を説明し、
とにかく今はあまり話せないから、またこっちから連絡すると伝えた。


しばらく、その場にしゃがんで考えていた。

もし本当に尾行されていたのなら、絶対にさっきすれ違った時に、相手も私の車に気づいたはず。

ということは、必ずこの道に入ってくるはず……


その予感は、すぐに的中した。

暗闇の中、車のエンジン音だけが聞こえてきた。

再び、心拍数があがる。

そーっと、陰から覗いてみた。

やはり、あの車ライトをつけてない!

私は、息をのんだ。

車がゆーっくり近づいてくる。

今、私は暗い場所にいる。
車もライトをつけていない。
おまけに、超、最徐行してる。

つまり、その車が私の前をゆっくりと通りすぎたその時、今度は、はっきりと車内が見えたのだ!

後部座席から、前方の私の車を指差している横顔。

そして、前方を凝視してる運転手。

それは紛れもなく、夫の会社の部下と夫自身だった…。



え。

声がでなかった。

なんで?

愕然とした。

あまりにも現実離れしたことが目の前で起こると、冷静な判断ができなくなる。

私はそのまま立ち上がり、今度は堂々とその車の走っていく様子を見ていた。

もちろんその車は、私に気づくはずもなく徐行していく。

そして、ブレーキランプがついた。

私の車の横を、更に徐行していってた。

中に誰も乗っていないことに、気づいたのだろう。

そのまま私の車の横を通りすぎ、すぐに右折した。

私自身は、何度も通いなれてる道。

その右折した先は、道ではなく空き地だということを知っていた。



なんで?

なんで、夫が??

何してんの?! なんで??

とにかく、無性に腹がたっていた。

嫁を尾行するってどうなん?

疑ってるのなら、直接聞けばええやん?

なんなん??  

とにかく、私は怒っていた。

自分のやってる事はとてもとても高い棚にあげて、ただ怒っていた。

夫にそんなことまでさせてしまった、
そこまで夫を追い込んでしまったということに心を痛めることなく、

というより、

この時は、そんな冷静さなんて一ミリも持ち合わせていなかった。


ただただ、

夫に尾行された!!

その事実があまりにショックすぎて、驚きすぎて、怒りの感情しかわいてこなかった。


私はそのまま道のど真ん中を
自分の車の方に向かって歩きはじめた。

なぜか、堂々と。

怒りに震えながら。

すると、その先程車が右折した場所から人影が現れた。

私の車を確認してるのだろう。

バッカじゃないの!!

私はそのまま堂々と、今度はその人影に向かって歩いていった。


その人影は、一旦ひっこんだ。

でもすぐに再び現れた。

もう私は、ほぼ、自分の車の横まで歩いてきてた。

ようやく、その人影は私自身に気づいたようだ。

慌てて、ひっこんだ。

私は立ち止まることなく、そのまま、その人影がひっこんだ場所まで歩いていった。


やっぱり。

そこには、その車が止まっていた。







その車の真正面まで進んだ。

もちろんエンジンも止まってるし、フロントガラスからは誰も見えない。

大の大人がふたり、後部座先にでも隠れてるのだろうか…。

とりあえず車のナンバーを携帯にメモした。 

そして、その車の真ん前から夫に電話をかけた。


電話の音は聞こえないし、車の中も動きはないように見える。

でも、夫はちゃんと電話に出た。

「何してんの?そこで。りょうちゃん…」

「え?どないしたん?こんな時間に…

今、ホテルやで。出張や言うたやん…」

驚くほど、夫の声は震えていた。

もしかしたら、泣いてるのかもしれない。


「今さぁ…目の前におるやん。

私、車の前に立ってるけど。」

「何言うてるん?あこ。

 今、ホテル言うてるやん…

 あここそ、どこいてるん?車って何?」

……。

あまりにも夫が怯えた声を出すので、もう、言葉が出なかった。

夫のあんな声は聞いたことがなかった。


なんなん…もう。。


怒りを通り越して、だんだん悲しくなってきた。


「…もう、ええわ。」

電話を切ろうとしたら

「気をつけて帰りや…」

夫の消え入りそうな声に、深くため息をついた。


あかん。

もう、決定的や。

もう、これで、終わりや。

完全に終わりや!

こそこそ、尾行するような人とはムリ!!

こんな言葉の羅列を頭の中で繰り返しながら、私は家に戻った。

鍵を締め、内チェーンもかけて、SECOMもセットした。

絶対に夫は、家に入れない!

怒りのままパソコンを立ち上げ、ブログを更新した。

『妻を尾行する夫』

あまりにも気持ちが興奮してたのだろう。

何も考えずに、普通にブログに更新してしまった。

夫が、私のブログを監視してるとはつゆしらずに。


この時の私は、自分に今何が起こってるのか、夫が何をしようとしていたのか、全く分からなかったし、考えようともしてなかった。



















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