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33. 彼の奥さんへの気持ち
「さっきは、ビックリして電話きってもうてごめん…。今も旦那さん、そこにいてる?」
「うん…」
「30分ほどしたら伺えるけど、大丈夫か聞いてもらえる?」
「ええって言うてる。」
「わかった。あこさんは大丈夫?」
「うん……」
ごめんね…と言いかけたが、夫と目があったので、そのまま電話を切った。
夫はゆっくりした口調で、私のブログを見つけた経緯を話しだした。
夫は、この夜を境に夜中の私の動きを確認するようになった。
そして、私がいつもパソコンに向かってる姿を見て、私のパソコンを調べることにした。
私は、夫と再同居するようになってからは、必ず、ログアウトしてから終了していた。
ただ、閲覧履歴を削除していなかった。
だからシンプルに夫は閲覧履歴からYahooのブログへたどりついた。
閲覧履歴なので、必ずといっていいほど、仲良しのブロ友さんのブログが出てくる。
最初は、その中でも1番仲がよかった女性のブログが、私なのか?と、疑った。
でも、内容があまりにも私とかけ離れてるなぁと思っていたら、ふと、コメント欄に目がいった。
○○ちゃん→私のリアルのあだ名だ。
まさかね?と思い、その名前をクリックしたら、私のブログが出てきた。
やはり、根底に「うちの嫁に限って」があるので、最初は蓮とのデート記事が本当に私なのか疑問だった。
が、ふと、URLを見てみると、ブログのIDが、表記されてる。
そのIDを見て、愕然としたらしい。
他人が見てもわからないローマ字の羅列。
でも夫がみれば、それは、独身時代に私が大切に飼っていた猫2匹の名前だと、すぐに分かった。
それでもまだどこかで、偶然かもと、信じられなかった。
ところが、決定的な証拠を見つけてしまう。
それは、写真だ。
私は数ヶ月前、鎖骨を折った。
その為に、サポーターというかバンドをつけていて、その説明の為に、その写真、つまり胸から首まで切り取った写真をアップしていた。
もちろん、他人が見れば、絶対にその部分だけでは、わからないはず。
でも夫は、それが私自身だと一目でわかり、絶望した。
それと、子供達に破られた襖の写真も別の記事であげていた。
その2枚の写真だけで、もう十分だった。
なるほど………。
後悔しても、もう遅い。
私は無言で聞くしかなかった。
30分ほどたった。
約束の時間だ。
しかし蓮は来ない。
夫がイライラしてきた。
まずい。
夫に促され、再び蓮に電話をした。
「ごめん…。行かれへんなった。」
「…え?」
「来たよ……手紙。嫁はんが……。」
思わず、唾を飲み込んだ。
「しかもな……俺の実家にも来たって…。」
私は怖くなって、夫の方を見れなかった。
◆
やはり、あの怪文書の追伸。
ハッタリなんかじゃなかったんだ…。
本当に出したんだ……。
ショックだった。
自分自身がバレた時よりショックだった。
私はとてつもなく申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
蓮にじゃない。
蓮の奥さんにだ。
もちろん、実際の夫婦仲がどうだったのかは知らない。
でも、蓮の様子から彼の奥さんが怪しんでる様子はなかった。
ちょうど来月の連休に、娘さんが産まれてから初めて泊まりがけの家族旅行に行くって蓮から聞いたばかり。
もうホテルも予約したって言ってた。
旅行というのは、計画準備してるときが1番楽しい。
そんな時に…なんで。
彼の奥さんには、全く、何ひとつ非はない。
毎日、一生懸命子育てし、普通につつましく生活されていたはず。
2年前の蓮の浮気発覚。
それを許し、必死で再構築してきたんだと思う。
蓮から聞く話。
奥さんは、今、韓国ドラマにはまっていて、蓮のことを『オッパ~!』って呼ぶらしい。
この前の妹さんの結婚式。
久しぶりに正装した奥さんを見て、おっ♡ってなったって言ってた。
「馬子にも衣装やな」って言ったら、「失礼やな!」ってプイッとされたけど、嬉しそうやったって言ってた。
つまり、どう考えても、奥さんは一生懸命家庭を守ってきてたと思う。
そんな矢先に…。
私はなんてことをしたんだ……。
奥さんから見れば、今回の怪文書って、普通に信号も守ってきちんと歩道を歩いていた所に、突然、車が突っ込んできた!
……みたいな感じではないだろうか……。
よく、浮気が発覚した時、相手の女に憎しみをぶつける人がいる。
「いや、まずは、自分の旦那でしょー。」
って、思ってた。
でも今回、自分がその立場になってその女にむける気持ちがよく分かった。
私なら……私が逆の立場なら、絶対に「私」を許さない!!
人がせっかくコツコツ積み上げてきたものを土足で踏み荒らされた気持ち。
まさか、こんな形で思い知らされるとは…。
ブロ友さん達が言ってくれてた『絶対にバレたらダメ』の本当の意味が分かった気がした。
今更だけど………。
蓮から、簡単に手紙の内容を聞いた。
夫が持って帰ってきた手紙とは、全く異なっていた。
ただ、蓮の家と、蓮の実家に届いたものは、ほぼ同じ内容らしい。
で、実は、今から、相手先に謝罪に行くと伝えたら、奥さんに全力で止められたらしい。
何をされるか分からないから危ないって。
相手の家なんかに、一人きりで行ったら絶対にあかんと。
こんな時にでも、蓮の心配をする奥さんに頭があがらなかった。
一旦、電話を切り、夫に伝えた。
結果、公共の場所なら、安心でしょ?ってことで、夜7時に、お互いの家の中間点の居酒屋で、逢う約束をした。
蓮と奥さんと私と夫の4人で。
それまでしばらく時間があるってことで、夫は事務所に行った。
車が走り去るのを確認して、鍵を閉め、コンセントのない部屋を考えた。
いや、そんな部屋ないか…
とりあえず2階の和室にあがり、コンセントから一番離れた場所から、蓮に電話をした。