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9. ようこそ不倫ブログへ


もう蓮と出逢って2度目の冬が訪れようとしていた。

私は蓮と歩く真冬の公園が大好きだった。

彼のポケットに手を入れ込んで、ぴったり寄り添い歩く道。

雪が降ればいいのに。

まっさらな雪の絨毯にふたりで刻む足跡の平行線。

すぐに消えていく、ふたりの足跡。

そう、何もかも、真っ白に消してくれればいいんだ。

冬が寒くて本当によかった

まさに、BUMP OF CHICKENの『スノースマイル』の世界。


ずっとこのまま続けばいいのに…

それは本当にそう願っていた。

でも同時に、

いつまで続ければいいのだろう…

なぜか、ここから逃げたしたい気持ちも常にあった。


何かにずっと怯え、何かをずっと考えていた。

この頃の私は、とにかく、不安で。

でも、何が不安なのか…が分からない。

その分からないということが怖かった。


「罪悪感」「不信感」「不安感」

これらからどうしても逃れられない。


「好き」「逢いたい」「一緒にいたい」

これらも、全然、私の中からなくならない。





うちにオレの居場所なんかないんだ。

あこさんがオレの居場所。

一緒にいるだけで癒される。

あこさんがいるから頑張れる。

あこさんといるときだけ本来の自分に戻れる。

ありがとう、蓮。

きっと、その時は本当にそう思ってくれてるのかもしれないね。

それを、真に受けることができたらどんなに楽だっただろう。

私も、あなたと同じように思えたら、どんなに幸せだっただろう。



なんか凄くない?
オレ、人生で今が1番元気かも。
週4回もできるなんてあこさんだからだよ!
あこさんといると、おかしくなる。

それはね、私だからじゃない。

人の奥さんだからだよ。

私がいつも受け入れるのは、あなたとしたいからじゃない。

逢いたい時に逢える人じゃないから。

時間が限られてるから手っ取り早く「好き」を確かめる方法がそれしかないだけ。



あこさんには、なんでも話せる。

ホント、なんでも話しすぎなんだよ。

奥さんといつ出逢ってどんなつきあい方をしてなんで結婚したか。

普段の奥さんの様子。

奥さんのいいとこ、悪いとこ。

夫婦の夜の話まで、とにかく、なんでも話しすぎなんだよ。

おかげで、優越感がゼロ。罪悪感しかない。



あこさんみたいな綺麗な人が奥さんなんて羨ましい。

ホントに? 

夫以外の男に抱かれる嫁なのに?



でも、あこさんが奥さんだと心配で仕方ないだろうな。それに、オレの稼ぎじゃ幸せにできない。だから、やっぱオレにはムリやわ。

そうだね。

私も、外で嫁の悪口言って、好き好きと人妻に腰ふってるような男はこっちからお断りです。


あこさんが好き。
あこさんといると、ホント幸せ

私もあなたが好き。 

どうしても、あなたが好き。

あなたは私が思ってた人とは全然違ったけど大丈夫。

どんなあなたでも大好きだよ。



でもね、あなたに「またね」って手をふった後、すぐに、虚しさが襲ってくる。

離れた瞬間から、また逢いたくなる。

すぐに、不安になる。

それって、幸せなの?

私は、今、あなたといれる短い時間を繋ぎ合わせて生きている。

それが、決して幸せだとは思えない。


ほらね。

やっぱり、「好き」と「幸せ」は比例しない。

これ、、前も思ったな…

独身の時、既婚者の部長と付き合ってた時だ。

好きになればなるほど、幸せが遠ざかっていった。

なぜならそれは「不倫」だから。

って、そうか!  

なんで、こんな簡単なことにきづかなかったんだろう。


私はパソコンを開いた。

検索の欄に

『不倫』

そう入力して、enterを押した。




当たり前だけど、『不倫』の意味は知ってる。

知ってるけど、きちんとした難しい言葉での意味を読んでいった。

上から順番にひとつずつ。

次第に飽きてきて、大きい文字だけを目で追いながら、スクロールしていった。

そして、手が止まった。


『今宵ひとりのベッドで』

ブログ?


それは、当時放送されてた不倫ドラマの題名をもじったもので、玄関でいきなり奥さんの会社の部下にキスされた男性のブログだった。

男性あるあるのエロい自己満足ブログではなく、

彼もまた不意に始まってしまった不倫に戸惑い、彼女から一方的に好意をもたれてたのにいつからか立場が逆転してしまい、彼女と奥さんとの間でもがき苦しんでる内容だった。

男女差はあるものの、彼の葛藤が痛いほど伝わった。

読み出したら止まらなくなった。


そして、その人のブログの友達、コメントしてる人、片っ端からクリックしていった。

次から次に出てくる『不倫ブログ』

こんなにたくさんの人がいるなんて!

驚きと、少しの安堵感と、なんだろう…

仲間を見つけた喜び?

今まで誰にも言えなかったこと、誰にも相談できなかったことがここには溢れていた。

やった!

ここなら、私の居場所があるかも。

私の探してるものが見つかるかも。


少し、希望が見えた気がした。






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